Television Freak 第71回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、『ちむどんどん』(NHK)、『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系)、『メンタル強め美女白川さん』(テレビ東京系)の3作品を取り上げます。
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(撮影:風元 正)


人と言葉とモノ



文=風元 正

 
ひさびさに行動制限のない黄金週間、まず前橋文学館で「生きて在ることの静かな明るさ―第29回萩原朔太郎賞受賞者 岸田将幸展」の端正な展示を鑑賞し、その後現代詩シーンの最先端にいる岸田将幸、藤原安紀子、中尾太一氏の鼎談を聞く。詩は言葉で書くものだから、モノではない。しかし、身体という枷からは逃れられず、凝縮を由とする詩の用語法に従うと、言葉は必然的にモノと似た性質を帯びてしまう。「言語の物質性」という古くて新しい背理を真摯に話し合う詩人たち。しかし、岸田、中尾の2人は10年前には住んでいた東京を離れたことが、なによりも「身体」性の現れと感じる。藤原の指摘により気づかされた。5月の広瀬川は水量が多く、夏への予感に胸がふくらむ。

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(撮影:風元 正)


4年ぶりに、3年間休んでいた益子陶器市へ。2回目なので、さほどマゴマゴせずに広い会場内を巡れた。しかし、数限りない陶器の前でだんだんぼうっとしてくる。朝5時起きだったので、9時半に車の中で寝て10時に起きたらお客さんが倍になっていた。益子焼は普段使いできる気楽さが好もしく、いつかは割れるわけだが、そこまでのプロセスを歩みたくなる器を選ぶべく歩き回る。迷いに迷った末の獲物を家に持ち帰ると、隣に似たような器がなければぐんといいモノに見えてきて、単純に嬉しい。
遠出に疲れ、晴れた日に近所の公園で鯉のぼりを見る。日帰り温泉で見た空も青が濃くて高く、ふだんの5月とはどこかが違う。ところが、すぐさま梅雨の気配を帯び、何十年も昔、沖縄で見たような深い青空とはすぐにお別れ。そして、ついに『アネット』。現代詩人が、何度か極限の表現を果たした否定と拒絶が、映画だとここまで豊かな色彩と歌を伴うことにひたすら呆れる。そういえば、出産の瞬間、パペット人形のお腹が光っている一瞬だけ笑った。あとはもう息を止めているだけ。レオス・カラックスは、私と同い歳。同級生の偉人は、オバマとマラドーナだけでなかったかと、今さら気づく。


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(撮影:風元 正)

 
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『ちむどんどん』は、憧憬の地・やんばる地域に住む6人家族の物語。私はたしか4度、取材で周囲を車でぐるっと走ったことがあるけれど、残念ながらあの熱帯の森に踏み入ったことはない。いつかヤンバルクイナに逢いたい。ドラマでは本土復帰前の沖縄の雰囲気も味わえるのだから堪らない。父・比嘉賢三(大森南朋)の三線と歌声に心が震え、沖縄そばを打つ体さばきに見入る。手つかずの森と海に恵まれたやんばるの地は、南からきた原日本人の暮らし方がどこか重なる。主人公の暢子の子供時代を演じる稲垣来泉は、昭和30年代の女の子風味全開で、笑顔が弾けるように明るい。母・優子役の仲間由紀恵は沖縄出身で、4人の子を包み込む優しさと勁さに朝から励まされる。シークワーサーの樹木と緑の果実の酸味が暢子の生を導く。
青色の「マグネット・オーロラスーパーバンド一番星」を頭に巻き続ける長兄・賢秀(幼少期:浅川大治)と、本土から来た民俗学者の息子・青柳和彦(幼少期:田中奏生)が沖縄角力で雌雄を決するサンゴ礁の海の砂浜は抜けるように広く、黄金の子供時代を象徴する。もちろん、1964年の沖縄はそれだけで済むはずもなく、サトウキビ畑での苛酷な労働と宿命的な貧しさが一家をむしばむ。そして賢三は突然、世を去る。本土復帰から50年、南国の光の下の元気一杯の家族は、琉球処分から続く沖縄の理不尽な歴史をも背負っており、とりわけ大叔父の比嘉賢吉(石丸謙二郎)のくたびれ方とお説教に島の苦労がよく出ている。でも、「とうふ砂川」の島豆腐は美味しそうで、食べてみたい。
長女・良子(川口春奈)がつぎのある白いブラウスを着た代用教員というのは、石坂洋次郎原作の青春映画での吉永小百合を、つい思い出してしまう。「翼をください」を歌う三女・歌子(上白石萌歌)の透き通る歌声に下地響子(片桐はいり)が惚れ込んでも仕方あるまい。子供の頃、「翼をください」を学校で何度も合唱したが、歌子のような美声の少女の幻が浮かび上がる。歌子を追いかけまわす、異形の優れた音楽教師を演ずる片桐の過剰さは、やんばるの大地にはぴったりくる。
あの頃の沖縄が舞台であるならば、シンプルなヒロインの成功物語になる方がかえっておかしい。南沙織も具志堅用高も出た島では、復帰反対運動も起こっていた。どうしようもない地主のボンボンが幅を利かす中、ミエミエの為替詐欺にひっかかった賢秀(竜星涼)がボクシングをテコにトリックスター的な働きをして一家を救うが、東京では、まだ珍しい沖縄出身者に後光が差している時期でもあった。
暢子を演じる沖縄出身の女優・黒島結菜は、身体を動かすことで光る。同級生の陸上部キャプテンに走り勝ったり、包丁でゴーヤーを切っている時にこちらも「ちむどんどん」する(心が高鳴る)。島にあれだけ長く住んだ民俗学者・青柳史彦(戸次重幸)はとてつもなく貴重な存在であり、成長した和彦(宮沢氷魚)との再会が待ち遠しい。一歩踏み込んで沖縄を描こうとしているこのドラマ、暢子が東京に出ても、良子と歌子がやんばるに残るから、やんばると本土のどちらも出てくるだろう。多少混乱しても、それがいい。毎朝、沖縄の光と陰をじっくりと鑑賞してゆきたい。
 
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連続テレビ小説『ちむどんどん』 NHK総合 月~土 午前8時放送
 
 

 
『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』は、ディーン・フジオカが「科学犯罪対策室」室長・小比類巻祐一を演じる。その相棒が天才科学者・最上友紀子(岸井ゆきの)。山奥の掘っ建て小屋でウナギの養殖をしていたところを、小比類巻がアドバイザーとしてスカウトするわけだが、ベテラン捜査官・長谷部勉(ユースケ・サンタマリア)を加えたトリオの、個性がそれぞれあっちへ向いているのが愉快だ。とりわけ、ノッている岸井ゆきのが、「ユッキー」の鋭い観察眼と知性、そしてぶっとんだ破格の明るさを表現していて魅力的である。
「魂を追いかけるんです」というセリフを口にする警察官を演じられるのは「コッヒー」ディーンしかいない。第1話、人に危害を加えられないはずの「AIロボットLEO」がなぜ殺人を自供したか、謎を解いてゆくプロセスに説得力があった。テクノロジーの進歩により、先端科学が原因の犯罪という設定がSF的世界でなく、日常に近くなってきた。ロボット開発チームのチーフ・郷原(内田理央)と最上と小比類巻はAIの初期化を「死」と同じレベルの脅威と感じているが、「ハセドン」長谷部が今ひとつピンと来ていない様子なのが面白い。
第2話、脳内のデータを「精神転送(マインドアップロード)」するマッドな脳神経外科医・鮎川を今野浩喜が生々しく演じている。脅えたeスポーツ選手が精神転送の実験台にされ、フランケンシュタインの寝床のような手術台に横たわっているというホラーSFの定番シーンが、能力向上のための「脳内チップ」を埋めまれるというたぶん実用化も近い科学技術により、アップデートされて繰り出される。カリスマ科学者のカール・カーン(安藤政信)も、どこかに潜んでいてもおかしくないリアルさがあるし、知らぬ間に「精神転送」が成功しているかもしれないと思わせる。
現代では最上が垣間見たような「科学の闇」は、出現しやすくなっている。例えば再生医療の技術がゾンビを生み出すような局面もどこかで揉み消されているはずだ。新種のウィルスが登場するたびに、某研究所由来という噂がまことしやかに流れ、結局はうやむやになる繰り返しの中、ひとりで把握できる範囲は高度化ゆえ狭まっている科学者が何を考えているのか、想いを馳せるドラマがあっていい。
科学技術の進歩による妻の蘇生を祈るように待つシングルファザー小比類巻の闇。その娘と仲良くなって、いつの間にか小比類巻と同居した最上を、厚生労働省の課長・三枝益生(佐藤隆太)が優しく見守る。科学オンチだからこそ踏み込める長谷部や狂気を孕むカール・カーン、そして小比類巻など豊富な導き手の中で、イキイキと喜怒哀楽を表現する感受性豊かな最上が、人間の命と科学の間の埋められない壁に直面した時、岸井がどんな演技を展開するか。刮目して待っている。
 
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『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』 日本テレビ系 土曜よる10時放送

 
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しばらく前から、井桁弘恵に注目していたら、『メンタル強め美女白川さん』の主人公・白川桃乃として登場した。営業事務として働く白川さんは、どんな苦難に逢っても、笑顔と自己肯定で明るく乗り切ってゆくわけだが、白川さん、そしてキリリと美しい井桁さんには脱帽である。フリルのついた服を着て、厄介な仕事を振られてもニッコリとこなし、職場の潤滑油として満点の存在だがセクハラばかりの食事会はきっぱり断り、いつもぼっち飯。ぶりっ子と聞こえよがしに悪口を叩かれてもメゲず、気の利いた返しで乗り切ってゆく。けれども、公平に考えて、周囲の仕打ちはあまりにヒドい。そして、長年会社員として観察してきて、我が身かわいさで気づかぬようにしてきたものの、みなさん、ずっとそういうことをしていることは否定できない。「仕事仲間や女友達のマウント、嫉妬や嫌がらせ、SNSでの誹謗中傷など、現代社会には女性を苦しめるプチストレスが溢れかえっています」と紹介されているが、はたして「プチ」なのか。男同士ならば、もう少し逃げ場がある気もする。
「戦士」に見える白川さんの許に、体型に悩む町田杏花(野呂佳代)、男同士のノリがイマイチわからないスイーツ男子の倉橋和樹(佐藤龍我〈美 少年/ジャニーズ Jr.〉)、シャイで自信のない朝比奈林檎(東野絢香)が集い、何もかも持っていることに嫉妬しツンケンしていた梅本カンナ(秋元才加)とも友達になる。みんな白川さんの言葉と笑顔をきっかけに人生が明るく変わってゆく。白川さんとて落ち込むのはしばしばで、ひとりの部屋でトゲのある否定の言葉を投げかけてくるテディベアと泣きながら対話もするが、毎日見事に立ち直る。リアルなディテールは原作のお手柄として、井桁さんは白川さんに成り切っている。大輪の花が咲いたような笑顔に心和む。
ありがちな「自己啓発」ドラマと一線を画しているのは、ただただ苛酷な毎日を乗り切ることがテーマだからだ。恋愛要素もフワフワした夢もない。しかし、現実はそういうことなんだと勝手に思っておく。可愛らしくて、人に媚びないだけで、高校時代に凄絶なイジメに遭い、それを乗り切った白川さんにフェミニストを気取る甘さもない。でも、ちょっとだけ将来が心配だ。白川さんはずっと、「営業事務」として胸を張って働き続けるのか、未来を垣間見たいとは思う。

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ドラマParavi『メンタル強め美女白川さん』 テレビ東京系 毎週水曜深夜0時30分放送

 

 
とりわけフィクションの領域では、男の子に生き方に新しいニュアンスを加えることは難しい。結局、『ナンバMG5』の美術部所属の最強ヤンキー・難破剛(間宮祥太朗)のような強くて心優しいの一択だし、それも挫けるのがフツーの人の常である。もちろん、大谷翔平や藤井聡太のような例外的な存在も出るとしても、物語としては現実離れし過ぎている。『田中角栄物語』の英語の辞書の紙を食べて覚える話に胸を熱くした昔はノンキだった。
女の子の生について考える時は、いつも原節子と「命のスープ」の辰巳芳子が鎌倉の紅葉が美しい丘に住む隣人だったことが頭に浮かぶ。どちらの生き方も、他人頼りの偶然などには一切左右されない、力強い個性と美しさに貫かれていた。戦争も彼女たちの輝きを消すことはできなかった。今でいえば平野レミで、あのお方はどこにいても平野レミだろう。最近の上野樹里には、義母と義父の和田誠のスピリットが宿っていて、今クールの『持続可能な恋ですか?』でもじんわりその味わいが滲み出ている。今回取り上げた3つのドラマは、娯楽の形で女性の生き方を探っており、『キョコロヒー』と並びとても勉強になるが、さて、私自身はどうすればいいのか?
いやしかし、我々には湯浅湾がいるのを忘れていた。連休の終わり、晴れたら空に豆まいてのライヴは、こざかしい批評の言葉では語れない出来だった。バンマス湯浅学、ベース松村正人、ギター牧野琢磨、ドラム山口元輝、オルガン谷口雄の演奏は、たまたま発生した5つの竜巻が重なったようなうねりを生み、おのおのの導火線に点火するたび突如音がピークに達する。わがままといえばわがまま。でも山口のドラムは冷静にリズムをキープして、ハモンドオルガンの脚をぶちこわした谷口とは対照的で、牧野のギターの咆哮に陶然とし、松村はベースをギターのように弾く。
いったいなぜ、こんな破天荒な音が出るのだろう。これは湯浅学の小川町の家にびっしりと詰まっている、よく奥さんが許しているとしか形容できない音盤群が鳴っていると考えるしかない。根拠はない。しかし、モノに導かれるというのも、しばしば起こることだ。限度を越えた数、集まっているのは、この眼で見た。中尾太一が「いい畑」と評する岸田将幸の栽培するアスパラガスを朝採れで食せば、湯浅湾ライヴと同じように胸が熱くなるのだろうか。益子で購った「すぐ売り切れちゃう」という新鮮なアスパラガスは、大地の味がした。
とはいえ、足元にはまだ大きな黒い穴が開いている。

 朝の雨亜細亜の島の五月かな


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(撮影:風元 正)


風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。