Television Freak 第57回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、火曜ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)、火9ドラマ『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)、ドラマ24『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)の3作品を取り上げます。
DSC_0132.JPG 384.59 KB



恋せよ乙女



文=風元正

 
しばらくアメリカでの出来事に心を奪われていた。まず野球。ワールドシリーズに至る地区、リーグの覇権争いは選手たちの体力が削られる消耗戦である。シーズン中はあれだけ力に充ちていたダルビッシュ有の速球もひ弱に映り、アスレチックスのビリー・ビーンGM下の「マネーボール」スタイルは球に力のある投手しか登場しないポストシーズンの闘いでは通用しないと評価が定まった。世界一になるためには、大エースと局面を一振りで変えるパワーヒッターがどうしても必要となる。
ワードシリーズではここ数年、ドジャースの偉大な左腕クレイトン・カーショーが陰の主役だった。球威の落ちたカーショーが交代を拒絶し、痛打を浴びて敗退するシーンを何度も見たが、今年は力を抜いて淡々と投げるシーンが目立ち、ついにワールドチャンピオンの称号を掴んだ。対戦相手だった筒香のいるレイズとドジャースでは、選手層の厚さとお値段が違いすぎる。だんだん観客が増えていったのも嬉しい。ただ、金髪のタフガイであるサードのジャスティン・ターナーが試合中にコロナ感染が判明して交代したのに、セレモニーでマスクなしで記念写真に入り、批難を浴びるのが2020年の野球界。
同じく「金髪のタフガイ」トランプ大統領が、コロナ禍がなければ再選されていたと思しい票数を獲得したのに驚いた。マスクしないと村八分の日本から想像するのは難しい広い国土。78歳の新大統領の手に負えるのか、ともあれ、勝利宣言の会見でいきなりバイデン候補の顔面が若返り、滑舌も良くなったのは、いかにもアメリカらしい小事件だった。衆目の一致する通り、白いスーツに身を包んだカマラ・ハリス副大統領の実力と運次第で世界は大きく動くだろう。カマラは凄腕弁護士の夫と仲がよくて、「恋女房」感がある。
 
DSC_0113.JPG 338.3 KB


 
『この恋あたためますか』は、コンビニスイーツの開発現場が舞台のドラマ。主人公の井上樹木(森七菜)は、元地下アイドルだったがメジャーデビュー寸前でクビになり、夢を奪われた21歳。ココエブリィ上目黒店でバイトし、スイーツだけが生き甲斐でSNSアカウント「キキかじり」で批評を展開していた。その的確さが評判となり本社社長浅羽拓実(中村倫也)の耳に届き、商品部スイーツ課にスカウトされ、「一番売れるシュークリーム」の開発を目指すことになる。
樹木が商品批評をSNS実況中に拓実と出会うという鉄板のシンデレラストーリー。しかし、甘い物が嫌いなのに、辣腕が疎んじられて外資系ネット通販会社から出向した業界最下位のコンビニチェーンをスイーツで改革しようとし、もっと上を目指す社長の意図は容易に見定められない。樹木に「君が必要だ」という拓実が語った「コンビニには毎日4000万人の客が訪れる。働いて疲れて、家事や育児に追われて、その1日のご褒美にこのシュークリームを食べる。仕事終わりに行っても専門店は閉まっている」という言葉は心に響いた。「全国3000店に置かれるシュークリームの原材料を決めているんだよ」という商品課社員の台詞とか、商品採用の決め手は配送中の品質保持であるとか、カラフルな生産ラインの映像などが新鮮だ。
海の小動物「チンアナゴ」に似ているらしい樹木=森七菜はフレッシュさと懐かしさを兼ね備えて大輪の花のように明るくツヤツヤしている。とはいえ、アイドル時代のマネージャーには「噛み続けたガム」扱いをされたり、雨の中シュークリームを持って行ったカレには「アイドルと付き合ったら自慢できると思った」だけと手ひどいフラれ方をしたり、ひどい目の遭い方が生々しい。「台風」のような勢いで美味しさを追及するパティシエの新谷誠(仲野太賀)が素晴らしい。地元のサッカー部の先輩だった拓実を「拓兄」と慕い、アニキがただクールな東大卒のエリートではないよと全身で示しつつ、寝る間も惜しんで樹木とキッチンで格闘する姿にこちらも励まされる。制服姿の清潔感がいい。
商品課では樹木の才能を真っ先に認め、お姉さんとして振る舞う北川里保(石橋静河)は拓実の元カノという難しい関係でもあり、キャリアウーマンの内心の葛藤を巧みに表現している。上目黒店店長・上杉和也(飯塚悟志)が、樹木の開発した新商品の発売日に店頭の旗を振って呼び込みをしたり、ルームメイトのマンガ家志望のアルバイト李思涵(古川琴音)や新谷と一緒に鍋を囲んでいたりするのが愉しいのはトシのせいか。
なぜ、商品開発のカリスマだった一岡智子(市川実日子)を解任して社長室に配属し、素人を入れたのか。その意図を一岡が真っ先に理解するプロセスにも納得で、お仕事の現場感満載の恋愛ドラマという点に魅かれている。この企画をオリジナル脚本で実現したスタッフに拍手したい。とりあえず、タイアップスイーツ「恋する火曜日のチョコっとリラックシュ~」をセブンイレブンで買ってみよう。

この恋あたため.jpg 62.01 KB
火曜ドラマ『この恋あたためますか』 TBS系 火曜よる10時放送

 

『姉ちゃんの恋人』は、主演・有村架純に脚本・岡田惠和というお馴染みのコンビ。都内のホームセンターを舞台に、2020年、コロナ禍後のハロウィンからクリスマスの季節の恋模様を描く。9年前、両親を交通事故でなくし、弟3人を育てる安達桃子(有村)は、職場のクリスマス企画のプロジェクトリーダーを任され、普段は接しない配送部の吉岡真人(林遣都)と出会う。「1人だったり、寂しかったり、つらい想いを持っている人も触れたい、見に来たいと思える」クリスマスにしたいという想いが通じ合い、「本物のでっかいもみの木」を飾るというコンセプトが共通してお互いを意識する。
ハロウィン営業が終わり、「世界を少しだけ動かす」ために店のレイアウトをクリスマス仕様にみんなで変える一晩は夢のよう。朝日とともにツリーが点灯される瞬間は、働いていると稀に訪れる非日常の感動を見事に捉えている。作業が終わった後、川のほとりを晴れ晴れと歩き、ファミレスで寄り添って寝る2人の姿は愛おしい。
真人は重い過去を持ち、弁当屋さんにパート勤めをする母親の貴子(和久井映見)は楽し気にクリスマス企画に参加する息子が何かで裏切られないか心配で仕方ない。真人は「企画が終われば元に戻る」と繰り返すが、桃子の上司の市原日南子(小池栄子)が配送部の先輩・高田悟志(藤木直人)にバーで一目惚れし、職場で再会したことで事態は急展開してゆく。日南子が悟志にいきなり「私別れたくないんです」と言い出した瞬間の迫力はすごかった。
岡田脚本のドラマは、家族が一緒に暮らすこととか、無事に働くとか、友情が続くこととか、当たり前に見える日常がいかに脆いかをいつも凝視している。とりわけ「恋」は歓びであると同時にすべてを壊すこともあるから、どうにも贅沢品だ。飾られたツリーを見て泣き、いつも何かにビクビクしている貴子を好演している和久井を見れば真人の幸福を願わずにいられないし、真っ先に「姉ちゃんの幸せ」を考える美男子の弟たち3人はどうしても立派に成人になってもらわなくてはいけない。一言一言、大切に場面が積み上げられているドラマの行く末を見守りたい。
 
姉ちゃんの恋人.jpg 117.56 KB
火9ドラマ『姉ちゃんの恋人』 カンテレ・フジテレビ系 火曜よる9時放送

 

『あのコの夢を見たんです。』は、山里亮太の同タイトルの短編集が原作。人気女優やアイドルのイメージから創作された物語を女性監督たちが映像化する。山里役は仲野太賀が演じ、毎回主演女優が変わってゆく。喫茶店でネタを準備しようとする山里が、無神経なマネージャーや店員、客の狼藉により「闇落ち」しそうになる一歩手前でコクヨの「妄想ノート/あのコの夢を見たんです。」を開けば、「現実逃避」という「最強で最高」の別世界が展開される。旬の若手女優たちが趣向を凝らした斬新なキャラクターで登場するのにワクワクする。
第5話、白いワンピースを着て横断歩道をクルクル回り、風船ガムをふくらませてはパチンと割る大原櫻子の可憐さにはっとしていたら、瀬田なつき監督。第6話では山本舞香が天才空手少女を演じるのだが、タッパの低い制服姿の女子高生が巨大な関口メンディーをヒラヒラと翻弄しながら、体力でじりじりで追い詰められてゆくスリリングなアクションの演出も瀬田だった。山本の身体能力の高さとキュートさは目覚ましく、魅力を再認識する。森七菜と仲野太賀のコンビ回は松本花奈監督で、森が「悲劇のヒロイン」になるべく夜の学校に忍び込んだり、風邪をひくためにカキ氷を食べまくる天真爛漫なハジケ感はハンパなかった。
青春の1頁だったり、会社員生活の苦楽だったり、淡く切ない恋愛だったり、ストーリーは多岐にわたるが、女子たちの気まぐれのような好意により、「山ちゃん」が救われ、新たな一歩を踏み出す勇気や力を得る。「透明人間」のような境遇から抜け出して居場所を得る安心を表現する太賀の演技には、「お見事!」と声をかけたい。
 
あのコの夢.jpg 92.46 KB
ドラマ24『あのコの夢を見たんです。』 テレビ東京系 金曜深夜0時12分放送
 
 

『夢みる部屋』というデイヴィッド・リンチの伝記本のページをずっと繰っている。この本の構成は興味深く、芸能インタビュアーとして知られるクリスティン・マッケナが関係者への取材をもとに客観的なリンチの伝記を書いているのだが、訳者の山形浩生も指摘する通り、リンチ自身の回想パートは伝記パートとまったく噛み合っていない。こちらはマッケナ側の人間で情けないが、リンチは常に自分自身の内面世界に入っていて、散文的な現実がほとんど目に入っていない。
リンチは、「ケネディ暗殺で事態はほんとうにひどくなった」という認識を示しつつ、「未来の過去の闇を通じて、魔術師は見ようと待望する」と『ツイン・ピークス』の発端を記している。その言葉を手掛かりに考えるうちに、リンチの作品群は彼にとっての同時代史の克明な記録のように見えてきた。「ほとんどの人の人生は謎だらけなんだけれども、最近ではすべてがものすごい勢いで動くし、すわって白昼夢にふけってその謎に気がつくだけの余裕がない」という一文にその姿勢が出ていると思う。
読み進めるうちに、リンチは「世界に対する恋」に突き動かされているのかもしれないという仮説が生まれた。愛ではなく恋。ある種の大人には最も扱いが難しい不規則な感情。でも、リンチは常に謎めいた細部に恋している。あのオリジナリティに溢れる質感にちょっとでも近づくには、たぶん恋多き人生を真似するのは無理だが、「何兆もの星。何兆。すっごい強力だ。そしてそういう星を見ていないから、この世のすべてがいかに壮大かを忘れているんだ」という忠告に従うぐらいはできそうだ。
アメリカは広い。そして、日本だって。

 冬浅し恋人たちは星数へ


DSC_0122.JPG 326.34 KB
 

風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。