Television Freak 第43回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから『ノーサイド・ゲーム』(TBS系・日曜劇場)、『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系・土曜ナイトドラマ)、『サ道』(テレビ東京ほか・金曜ドラマ25)の3作品を取り上げます。
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(撮影:風元正)


ラグビー、漫才、サウナ



文=風元正


最終日、クリスチャン・ボルタンスキー展に駆け込んだ。モノクロの印画紙に焼き付けられた名も知らぬ人たちの顔がほの暗い照明の中に浮かび上がる。顔また顔。だんだん眩暈がしてきてひと休み。アタカマ砂漠に響く何百個もの風鈴の音が鳴り止まない。積み上げられた大量の衣服は空蝉のようで、流れ去った膨大な時が蘇ってくる。ついでに「来世」への入り口もある。
ヨーロッパの街角にひっそりと佇む聖母像と似た写真。やっぱり、お稲荷さんとは大分違うわ、という無駄な感慨を抱きながら、決して墓を壊すことないユダヤ人の受難の歴史が現前する。惨事は普通の人たちの手によって惹き起こされる。「夜明けの黒いミルク僕らはそれを晩に飲む/僕らはそれを昼に飲む朝に飲む僕らはそれを夜に飲む/僕らは飲むそして飲む/僕らは宙に墓を掘るそこなら寝るのに狭くない」――飯吉光夫訳のパウル・ツェラン「死のフーガ」をリフレインしながら、いつまでも遊べそうな不吉な空間を後にした。六本木の街がちょっと違って見えた。



 
『ノーサイド・ゲーム』のラグビーシーンの充実ぶりは半端ない。なにしろ、主役である企業チーム・アストロズを象徴するベテラン選手・浜畑譲をあのエディー・ジャパンのキャプテン廣瀬俊朗が演じているのだ。薄いラグビーファンゆえ顔で分からなかったが、あまりの存在感に調べてみてびっくり。ちなみに、アストロズのメンバーは基本ラグビー部出身で主将・岸和田徹(高橋光臣)は名門・啓光学園で、キーになるスクラムハーフ佐々一(林家たま平)は明大中野……などなど、みな本物。演出の福澤克雄は高校日本代表で慶應高校のロックだから、細部を揺るがせにできなかったのか。野球、サッカーを含め、これだけプロフェッショナルなプレーヤーが本気で演じているドラマは記憶にない。
主人公の君嶋隼人(大泉洋)はトキワ自動車経営戦略室にいたエリート社員だったが、次期社長候補の滝川桂一郎(上川隆也)に逆らって本社から府中工場の総務部長に左遷され、14億もの赤字を抱えるアストロズGMの兼務を命じられる。もともと教員志望で、たぶん文科系だった大泉洋は、部員たちと最初に接した時、本気で怖がっている感じだったのが面白い。しかし、上手くないのにラグビーにのめり込んでゆく長男・博人(市川右近)や出世より筋を通すことを重視する妻・真希(松たか子)にも背中を押され、アストロズを変えてゆく。
監督・柴門琢磨(大谷亮平)のキャラクターが興味深い。どこか早世したミスターラグビー平尾誠二の面影があるし、戦術面ではエディー・ジャパンを踏襲している。ライバルである強豪サイクロンズの終盤運動量が落ちる弱点を突くのは、4年前、エディー・ジャパンが南ア代表を倒した戦略と同じだし、試合展開もあの史上最高のジャイアント・キリングと似ているのに痺れた。新人スタンドオフ七尾圭太(眞栄田郷敦)のプレーは、まさにオールブラックスのスタイルである。
自国開催のラグビーW杯が目前に迫っている。このドラマで高まった気持ちが日本代表の応援へと向かうだろう。君嶋GMとアストロズの面々は、ラグビーを戦い続けるという「奇跡」を成し遂げて欲しい。

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日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』 TBS系 最終話9月15日よる9時・20分拡大放送




『べしゃり暮らし』は語り口のテンポが快い。森田まさのりの原作に脚本・徳永富彦と演出・劇団ひとりコンビが映像ならではの新たな魅力を加えている。西荻のそば屋「きそば上妻」の長男坊・上妻圭右(間宮祥太朗)は“学園の爆笑王”。お笑いにかける純粋さは圧倒的で、関西からの転校生・辻本潤(渡辺大知)の心を揺すぶり漫才コンビを結成する。辻本は実は西で鳥谷静代(小芝風花)とSHIZU-JUNというコンビを組んでいて、将来を嘱望されていたが、一方的に姿を消した。
辻本を追って東京まで探しにきた静代がいじらしい。先輩の人気コンビ・デジタルきんぎょの舞台に押しかけ、SHIZU-JUNのネタを披露するが、相方への恋心が邪魔で芸に徹し切れない、という限界が露呈しまう。静代の「ネタ最後までやろう」という悲痛な叫びと涙。観客席で笑っていた上妻も、コンビという関係の奥の深さを思い知る。さまざまな役柄を経験して、小芝風花の演技に味わいが出てきた。
業の深さでは上手がいる。デジタルきんぎょの金本浩史(駿河太郎)と藤川則夫(尾上寛之)のコンビは、天才肌の金本がピン芸人として売れてからどうにもしっくりこない。藤川の抱く相方への嫉妬と羨望、しかし芸への執着によりあくなき努力を続け、金本のキレ味に完璧に応じられるツッコミとなる。きっかけを作ったのがほぼド素人の圭右の「自分たちが楽しみたい」というコケの一念。ニッポン漫才クラッシック準決勝でのコンビの力を出し切った名演、そして……。いやはや、あまりに切なくて書けない。金本のラジオでのトークに泣いた。
圭右の父・潔(寺島進)もまた重い過去を背負っている。芸人に慕われるのが誇りで、食えない頃から面倒をみて出世を楽しみにする日々だったが、ディすり芸のコンビに店をネタにすることを許し、不衛生だの食品偽装だのさんざん悪口を言われて客足が急減。家計を支えるために働きに出た愛妻が過労でこの世を去る。潔が抱えた10年越しの因縁への「けじめ」の一杯のせいろそばも感動的だった。
筋をまとめると重い話のようだが、画面では青春群像が弾ける颯爽とした物語として楽しめる。これは圭右と辻本のコンビ名でもある「べしゃり暮らし」する日々のビートの効いたセリフ回しが効いているからだ。学ラン姿で歩くだけでぱあっと明るくなる圭右と辻本の2人に、ちょっと頼りないハガキ職人のクラスメイト「はにかみ工場長」子安蒼太(矢本悠馬)が合流して、さて、天下を獲れるのか。最終回が待ち遠しい。

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土曜ナイトドラマ『べしゃり暮らし』 テレビ朝日系 最終回9月14日よる11時15分放送




『サ道』は、サウナ大使・タナカカツキの「サウナ伝道漫画」のドラマ化である。伝説のサウナー・蒸しZ(宅麻伸)を探しながら全国を旅するナカタアツロウ(原田泰造)が、「偶然さん」(三宅弘城)と「イケメン蒸し男」(磯村勇斗)とともにとにかくサウナに入る。リラックスしたおじさんの入浴姿と止まらない蘊蓄がメインなのはかなり大胆。ずっと蒸される撮影もさぞかし大変と想像しつつ、苦にならないレベルのサウナ好きとも思う。
ドラマでは「ととのう」という状態がキーとなる。公式HPでは「サウナ室~水風呂~休憩を3回程度くりかえすことで得られる多幸感、一種のトランス状態をいう」と記述されているが、残念ながら私は経験したことがない。風呂でナカタのように粘れない自分自身の弱さが原因だから、本格的なサウナーはみな「ととのって」いるのならば羨ましい。しかし、偶然さんも21日間「ととのわなかった」時期があると告白しているし、コンディションやタイミングが必要なのだろうか。
第3話で紹介された杉並の「ゆ家 和ごころ 吉の湯」へ、私の隣で番組を見ていた娘がつい足を運んでしまった。銭湯やサウナは技術革新が目覚ましく、高濃度炭酸泉、遠赤外線、バイブラなど愉しみ方が多彩となり、さまざまな世界観を表現できる可能性が生じている。サウナの聖地・静岡「サウナしきじ」の“母の胎内”のような天然水風呂の水を呑む瞬間の至福とか、ゴッドファーザーがいる名古屋「ウェルビー栄」の「森のサウナ」のタオルで熱波を送る「アウフグース」とか、未知のディテールに充ちていて飽きない。月並だが、サウナがここまで奥が深いとは知らなかった。
「ととのった」瞬間の極彩色の曼陀羅画も美しい。都市の中で野生を取り戻せる貴重な場がサウナである。とりあえず、3人が出会った上野の「サウナ&カプセルホテル北欧」には行ってみようか。サウナ心を刺激されるドラマだが、原田泰造や磯村勇斗を見たら、しばらく裸の入浴姿が思い浮かんでしまいそうだ……。

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ドラマ25『サ道』 テレビ東京ほか 金曜深夜0時52分放送




今回取り上げた3つのドラマは原作ありだが、ラグビー、漫才、サウナという題材に映像として突っ込んだ表現を与えているため、制作陣や俳優の熱い想いを堪能できる仕上がりになった。原作の世界観に新たな魅力を加え、視聴者が「ととのう」ケースはますます増えてゆくだろう。
近年、京急脱線事故で小道に迷い込んだトラック(散乱する柑橘類に壊れた車両!)や台風15号で倒れたゴルフ場のフェンスなど、おおよそ信じがたいヴィジュアルを伴うアクシデントが増えている。日常に「裂け目」がどんどん発生し、すぐ忘却される繰り返しが当たり前となった今、映像がもともとある虚構の磁場を借りるのは自然な流れである。
ボルタンスキーは杉本博司との対談で、「私の人生における大きな問いとは、誰もが唯一無二の存在であるが故に、皆大切であるということです。それと同時に、誰もが本当にあっという間に消えてしまいます」と語っている。ドラマが「あっという間に消え」ず、忘却に抗うためには、さまざまなものの力を借りる必要がある時代に入った。


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(撮影:風元正)


風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。