Television Freak 第36回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系・日曜ドラマ)、『グッドワイフ』(TBS系・日曜劇場)、『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系・土曜ドラマ)の3作品を取り上げます。

(撮影:風元正)

いつでも「若さ」を?

文=風元正

指原莉乃が「SMAPや嵐を見て、アイドルは引退しないものと思っていた」と言っていた。自分自身がAKBを卒業することを踏まえた発言として、重みがある。昭和は87歳で崩御された天皇陛下と並行して続けざまに人が亡くなる「長寿」が前景化された終わりだったとするならば、平成の終わりは「現役」という言葉がテーマだと言えるだろう。SMAPは40代、嵐は30代、TOKIOやV6も続いてきた。アイドルは20代で「卒業」するのが当たり前だった頃の通念がジャニーズ事務所のタレントたちに揺り動かされてきたが、それぞれグループとしての十全な活動は唐突に終わりを告げ、ずっと「現役アイドル」という無理を強いられた時代が去った。ファンも「現役」という共犯関係で成り立つ現象だから、心理的な影響は広範囲に及ぶ。 日本において、「アンチエイジング」という名の「成熟拒否」は、諸外国と比較し「若さ」に異常な価値を見出す形で定着した。しかし、結局、人は年齢には抗えない。経営者の心のバイブルがサミュエル・ウルマンの「青春とは人生のある期間を指すのではなく、心の持ち方を指すものである」という国では、「若さ」を消費した後でどう「現役」であるのか、「ビジネスモデル」が欠如している。「人生100年時代」はけっこうとして、「現役」を引退した後がどんどん長くなるわけだ。さて、どうなることやら、誰にも予測できない。

『3年A組―今から皆さんは、人質です―』は、まさに「若さ」がテーマの作品だ。菅田将暉が生徒29人を監禁する3年A組クラス担任の高校美術教師・柊一颯を演じる。一颯は、卒業の10日前、クラスのみなを招集して「今からみなさんには人質になってもらいます」と唐突に宣告し、「最後の授業」を始める。目的は数ケ月前に自ら命を落とした「ある一人の生徒の死の真相」を解き明かすこと。校舎の各所に仕込まれた爆弾がどんどん爆発し、外部からの侵入を封じる極限状況で、課題に答えられなければ人質は殺されてゆく。

一颯は「ブッキー」と呼ばれ、「雑魚キャラ」として生徒に舐められる存在。しかし、事が起こるや「アクションシスター」を目指して鍛え上げた身体で生徒を圧倒し、周到に仕込まれた爆弾を自在に操って、計画を実行し続ける。白い狂気が宿る眼。どこか傷つき病んでいる気配もあり、現代の病の主因であるヴァルネラビィリティ(可傷性、暴力誘発性、傷つきやすさ)を体現している。冷静かつ緻密に事件を設計してゆく底知れぬ悪意と、瞳を濡らしながら「お前の明日を生きる活力な何だ!」と絶叫する熱さの両極端の振れ幅を演じられるのは今、菅田しかいない。

もうひとり、ヴァルネラブルな存在は自殺した景山澪奈(上白石萌歌)だ。同級生がドキュメンタリー映画を撮影し、茅野さくら(永野芽郁)が「エモい」と崇拝する水泳部のオリンピック候補。同じ教室にいるかけ離れた大スターに対する羨望と嫉妬が渦巻き、好意を拒絶された者の悪意が錯綜するうちに手に負えない怪物が生れてゆく。教室の中、練習中のプール、水泳の全国大会、登下校の途中など、回想映像で輝かしさが繰り返し強調されるほど、もうここにない身体がかえって生々しく現れる。「ドーピング疑惑」の発生と拡散は、メディア化された社会を巧みに反映している。

錯綜した謎は見てのお楽しみとしたい。視聴者としては、クラスのみなに「奴隷」と陰で呼ばれていた学級委員のさくらが悪大将・甲斐隼人(片寄涼太)に「ふざけんな!」と叫びながら飛び蹴りを喰らわす一瞬の緊迫がずっと保たれるかどうかにハラハラしていた。しかし、第5話のすばらしさですべては氷解する。モデルとして名声を得るために半グレ集団ベルムズのリーダーと付き合っていた諏訪唯月(今田美桜)が「偽りの力にしがみついてみっともない」と過去を告白し、一颯に「絶対に間違っていない」と肯定された瞬間の、頬を伝う涙は美しかった。若くて有望な俳優が集まっている教室は単純に魅力的だし、一颯の熱で少しづつ変わってゆくプロセスが快い。

「過去の自分が、今の自分を作る。だから、過去から逃げているお前も、極めて幼稚なガキのまま、成長が止まっているというわけだ。そんなやつらが、一体何から卒業するんだ」という真っ当なメッセージを菅田や若い俳優の身体を通じて表現するために選んだ舞台が『漂流教室』のような状況だった。普段は事なかれの教師の側にいて「成熟拒否」的な生活をしている当方も、ほんとうに現実ときちんと向き合っているのか、つい振り返ってしまう。アルフォンス・ドーデの「最後の授業」も実は、普仏戦争でプロイセンに負けたフランスの教師が国境地域アルザスで最後のフランス語(=国語)授業を行い、最後に「フランス万歳!」と叫ぶという時事的な話題を取り入れた小説だった。教室は常に時代の課題が集約される場である。

『グットワイフ』は、常盤貴子が17年ぶりに連続ドラマに復帰した作品。16年ぶりに現場に戻る検事夫人の44歳の弁護士・蓮見杏子役を演じる。夫の蓮見壮一郎(唐沢寿明)は検察の花形である東京地検特捜部長だったが、収賄容疑で逮捕された上、不倫スキャンダルも暴露され、杏子は高級住宅街での何不自由ない暮らしを失い、2人の子供を守るため自立を決意する。ブランクの年月を重ねる設定が吉か凶か、最初に法廷で弁論するシーンで立ち往生するシーンではドキドキしたが、主婦としてのキャリアを生かして徐々に力を発揮するプロセスに説得力があり、キャスティングは成功。常盤の趣味が法廷傍聴というのも微笑ましい。

法廷ドラマは細部が命。第1話でインターネット配信番組のキャスター日下部直哉(武田鉄矢)がファンからのガセネタを流していた事実を情報元の産婦人科に出入りしていた清掃員の態度をきっかけに見抜いたり、第2話では勤務先の神山多田法律事務所の共同経営者・神山佳恵(賀来千香子)の父で、こちらも弁護士の神山大輔(橋爪功)の秘密を知りながら、隠し通して弁護に成功したり、1回1回丁寧に事件を作り込んでいる。見事だったのは第3回で、鉄道会社の社長が隠そうとしていた真の不正を脱線事故現場近くの浮浪者の証言から見抜き、しかも、すべては自分の敵を追い落とそうとする夫が仕組んだ事案だったことを知り愕然とするどんでん返しには意表を突かれた。鉄道会社側の弁護士役の江口のりこも、都合が悪くなるとすぐお腹の子が暴れたと逃げ出す厚顔無恥ぶりを肝を太く演じて愉快だった。ああいう弁護士、いるような気がする。第4話、子供との会話から靴の足裏の除雪剤の有無がアリバイ破りのキーになる展開も気が利いていた。

腕利きのパラリーガル円香みちるを演じる水原希子がイキイキしている。元検察事務官で、捜査関係者のネタ元とバス停で紙袋を交換するシーンなど、女スパイ的な機敏な活動が板についている。給料の安い鬱憤も代表との通りすがりの会話でクールに解決してみたり、最近、キャリアウーマン代表キャラが定着したのではないか。杏子の司法修習所同期で、神山と共同代表を務める敏腕弁護士・多田征大を演じる小泉孝太郎もはまり役だ。昔から杏子に惚れていて、苦境を助ける名目で事務所に雇ったのだが、手間のかかる調査を厭わず依頼に寄り添う元主婦の粘り強さに、利益至上の法曹界の常識に毒された自分の姿勢を反省する。さて、壮一郎との三角関係はどうなるのか。杏子のブランク中、ずっと第一線にいて地位を築いた神山佳恵の杏子に対する偏見も適度だし、ひとつしかない正式雇用の席を争う若いライバル朝飛光太郎(北村匠海)も、タチの悪い人間ではない。事件の解明と人間ドラマのバランスの絶妙さに「ドラマのTBS」の蓄積を感じる。

常盤貴子はブランクを見事に乗り越えた。若々しくて、美しく、闘う40代のお母さんというあり方は反則技のような気がするが、女性の未来形のひとつであろう。子供2人との関係もうるわしい。壮一郎の敵・脇坂博道(吉田鋼太郎)との抗争の本格化が楽しみだ。

日曜劇場『グッドワイフ』 TBS系 日曜よる9時放送

『イノセンス 冤罪弁護士』は、理系から弁護士に転じた黒川拓(坂口健太郎)が主人公。最近、弁護士ドラマが花盛りだが、事件現場で何が起こったのか、大掛かりな実証実験をして冤罪を晴らしてゆく展開が斬新である。事務所に住んでいて、いつも貧乏。妙なものが詰め込まれている大きな布袋を背負い、ラフな服装で説明なしに意味の分からぬ行動を繰り返す黒川にパートナーの新人弁護士・和倉楓(川口春菜)がだんだん慣れてゆくプロセスが面白く、ドラマに惹き込まれた。

たとえば第2話。血のつながらない母子家庭に育った青年がコンビニ強盗の容疑者として逮捕されて、無罪だと言い張っている。高校の時グレていて態度が粗暴、暴行を受けた店員が顔を見たと証言している上、現場に指紋が2カ所残っており、元従業員で店の勝手を知っていることが疑惑を深める。しかし、犯行時のコンビニの監視カメラの映像には顔が映っていない。容疑者の姿はガソリンスタンドの監視カメラの映像にあり、その時刻が記録されている時刻と15分ズレていることを、現場近くにある「光の塔」を照らした光の揺れにより立証し、現場に移動することが不可能だと担当検事に不当逮捕を認めさせる。

偶発的な現象が根拠なのがミソ。協力者である先輩の物理学科准教授、秋保恭一郎(藤木直人)が、サーチライトの角度を「0.5度足りない。あと1m上がってみろ」と指示するシーンなど、イケメン2人が真剣に実験に取り組む姿が何となくユーモラスである。火事の原因が、子供たちが「ユキオの呪い」と呼ぶ怪奇現象が原因だと家一軒の模型を燃やして立証して放火の疑いを晴らしたり、手術中の医療ミスの原因が「逆流雷」による停電と突き止めたりと、1件1件意表を付いている。

企業間のトラブルを解決する民事事件と違い、刑事事件は金にならない。しかし、疑われやすいポジションにいる人間がおり、自覚はなくても監視カメラの映像などが冤罪の証拠になる世の中。ただ電車に乗っているだけで痴漢の疑いがかかり、警察や検察の見込み捜査の犠牲になるケースも多いわけで、実は身近に迫る危険でもある。最高検察庁の次長検事・黒川真(草刈正雄)の息子である拓がなぜ、真実を追求する理系の弁護士になったのか。坂口の演技で表現される「イノセンス(=無垢)」と正義感が、父の世代の悪習に染まるまいという「若さ」をヴィヴィッドに示している。事件に巻き込まれた人間の葛藤も十全に描かれており、社会的な主張も備えた佳作である。拓を追うテレビ局の記者・有馬聡子(市川実日子)やパラリーガルの城崎穂香(趣里)など、一癖も二癖もある脇役陣も愉快。

土曜ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』 日本テレビ系 土曜よる10時放送

橋本治さんが亡くなられた。享年70歳。今時では早い。ずっと愛読し、ずいぶん影響も受けた。個人的には、橋本さんは60代ヒッピー世代の「Don't trust anyone over thirty」というテーゼを実践し続けた方だと思っている。世間の通念に惑わされず、自分の頭できちんと考えて行動する。自前主義。しかし、10年ほど前に顕微鏡的多発血管炎という難病を患われた頃から、もしかすると、あの生き方はものすごく負担がかかり、橋本さんのような強靭な頭脳と身体の人でも大変なのかもしれない、と気づいた。

不謹慎を承知で言えば、橋本さんの病気は、とてつもない美貌と運動神経に恵まれているジャニーズのアイドルでも抗えないことがあるのと似ている。そしてガン。バブル期の理不尽で膨大な借金を返し終えた後、あまり生きる時間が与えられなかったのも、哀しいことだった。私としては、90過ぎても憎まれ口を叩き続ける「若い」老人というモデルを作って頂きたかったが、すべては止むを得ず。安らかにお眠り下さい。それにしても、平成の終わりをダメ押しするような象徴的な死だった。

今回取り上げた3つのドラマも、それぞれ橋本治的な「自前主義」のメッセージを含んでいる。高校教師・柊一颯が訴えかける自分の足で立つ生き方を、凡人でもどう実現するか。今更遅いのは承知の上で、ぼんやりと夢想してみたい。

(撮影:風元正)

風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。