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  • 2019年2月12日

映画は心意気だと思うんです。 第7回

冨田翔子さんが“わが心意気映画”を紹介してくれる連載の第7回。今回と次回は、3月8日(金)に 「YCAM爆音映画祭2019 特別編:密室爆音」 で上映される『UFO少年アブドラジャン』(1992年、ズリフィカール・ムサコフ監督)を前・後編にわたって取り上げます。このウズベキスタン発のSF映画、実は冨田さんにとって「心意気映画の最高峰」に位置する作品とのこと。まず前編では『UFO少年アブドラジャン』に遭遇するまでのこと、そのきっかけを作ったある別の作品にまつわる話が綴られています。

『UFO少年アブドラジャン』

『UFO少年アブドラジャン』への道
前編:失われた映画を求めて…

文=冨田翔子

山口県にある山口情報芸術センターにて、3月8日より「YCAM爆音映画祭」の「特別編」として「密室爆音」が開催される。その初日を飾る作品が『UFO少年アブドラジャン』だ。実はこの作品、私にとって心意気映画の最高峰に位置するものであり、今連載のタイトルをつけたときも、アブドラジャンのことが根底にあり、連載の最終回にはこの作品のことを書こう…と思っていたら、早くもその機会が訪れてしまった。もしかして、最終回なのだろうか…。

この世間ではほとんど知名度のない映画を、「『UFO少年アブドラジャン』への道」と題し、まさかの前編・後編にわたり紹介したいと思う。前編ではこの作品に出会わせてくれた1本の映画について触れつつ、後編の『UFO少年アブドラジャン』の紹介へと続く布石になれば……。

■未知との遭遇

それは1999年、世紀末の出来事だった。当時10歳で小学4年生の私は、テレビの洋画劇場に夢中だった。シルヴェスター・スタローンの『デモリションマン』やジャッキー・チェンの『酔拳2』に大喜びし、当時クラスで流行っていたプロフィール帳には、一番好きな映画の欄にシュワちゃんの『ラスト・アクション・ヒーロー』と書いた。毎日、新聞のテレビ欄にかじりつき、今日はなんの映画が放送されるのか、どれを観ようかと物色するのが日課だった。

テレビ欄の下に設けられた今日の映画コーナーには、何作かの簡単なあらすじが書かれていた。ある日、そこに載っていた1本の映画に興味が沸いた。うろ覚えだが、「ある日突然、超能力を使えるようになった青年が巻き起こす騒動」と書かれていたと思う。それを読んだ私は、『キャスパー』みたいな雰囲気のファンタジー映画を思い浮かべた。さらに「青年」という言葉から、青い目をした若いイケメンが主人公なのだと思い込んだ。

その映画は英語のタイトルだったので、10歳の私には読めなかった。放送時間はお昼過ぎ、NHK教育(現:Eテレ)の「アジア映画劇場」という、初めて観る枠だった。ハリウッド映画っ子だった私は、「アジア」と書いてあるにもかかわらず、金髪の欧米顔の主人公を想像してどんなCGの超能力シーンが飛び出すのかとワクワクしていた。

しかし、いざ画面に出てきたのはアジア人顔のおっさんだった。まさかコイツが超能力を使えるはずがないと思い、主人公は別にいるのだとすら思ったくらいだった。しかし、彼がある朝洗面台で歯を磨きながら、「職場に行くのが面倒くさいな。瞬間移動できればいいのに」と思うと、次の瞬間、おじさんが歯ブラシをくわえたまま職場に移動するというのが、この映画で最初に登場した超能力だった。普段観ている派手なSF映画からは想像もつかない、斬新なシーンだった。私は「こんな地味な映画は、あと5分と観ていられないぞ!」と思ったが、蓋を開けてみれば、不思議と最後まで観てしまった。妙な言い方ではあるが、当時の私にはおそらく面白かったのだろう。

20年も前のことなので、もうほとんどのストーリーを忘れてしまったが、ひとつだけおじさんが“なぜ超能力を使えたか”という理由は覚えている。主人公は、この力を友人のために役立てようと考える。物語の最後では、劇団に所属する友人から、一回死んだ後に生き返らせてほしい、みたいな依頼があった。死んだところまではよかったが、なぜか生き返らせることができない。超能力が使えないのだ。するとおじさんは、亡き父からもらった懐中時計が止まっていることに気づく。実はこの懐中時計が超能力の源だったのだ。懐中時計を修理すると、友人は生き返るという結末だったはずだ。

ハラハラ・ドキドキのスペクタクルがあるわけではないが、どの登場人物も人がよく、間の抜けたユーモアが全体に散りばめられていて、10歳の女子児童を画面に惹きつけておくおかしさが、この映画にはあった。邦画とハリウッド映画しか知らなかった私に、妙に親近感を覚える異国の映画の存在を教えてくれた作品となった。

■幻の映画を探して…

このタイトル不明の超能力映画が気に入った私は、また観たくなり、翌週レンタルビデオ屋に借りに行った。当時、レンタルビデオ屋に行けば映画はなんでも借りられると思っていた。しかし、棚をしらみつぶしに見てみたが、見つからない。ガッカリして帰ると、新聞はすでに捨てられていて、タイトルを確認することもできなかった。だが、世はインターネット時代。文明の利器に頼ろうじゃないか。とりあえず、思いついたアジアの国名で「タイ 超能力 映画」「ベトナム 超能力 映画 青年」などと検索してみたが、それらしいものは全く引っかからない。10歳児の万策は尽きてしまったのだった。

■月日は流れ…

それ以来、来る日も来る日も新聞のテレビ欄を見つめていたが、再放送されるどころか、アジア映画劇場も終了し、民放の洋画劇場ではかかるはずもなかった。NHKのホームページに番組の紹介はあったが、プログラムの内容までは書いておらず、電話するにも、どこにかけていいかわからず、途方に暮れるばかり。

いつしかこの幻の映画は私のアイデンティティとなり、たどり着けないことが特別な意味を持ちはじめ、探すことがライフワークのひとつのようになった。そして気が付くと10年以上の月日が経っていた。21世紀だというのに、こんなにも見つけられないことを想像しただろうか。これほど長い時間をかけて探したのは、今のところこの映画だけである。その間、色々な映画を観たが、あのなんとも言えぬのんびりした空気やユーモアが与えてくれる幸福な気持ちは、あの映画でしか味わえないものだった。その後も事あるごとにネットで検索したが、手がかりすらつかめない。

そんなとき、あるブログを発見する。それは、「アジア映画劇場」のプログラムを、わざわざ図書館に出向き新聞を少しずつさかのぼり、書き出したものだった! これでついにタイトルが分かるかと思ったが、まずは1988~92年までのリストが掲載されているということだった。確かに大変な労力を要する作業である。なんと徳の高い人であろうか。ありがたい。このリストが完成するのを待とう…。

その後、教授から「この先いいことなんてほとんどないですよ」と言われて大学を卒業し、社会人生活を送っていた私は、しばらくこのリストのことを忘れていた。月日は流れ、2013年も終わろうとしている頃、ハッとリストのことを思い出し、再び見てみると、とっくに最終回までのリストが出来上がっているではないか! 全130本! すごい!

とりあえず英語のタイトルだけを探していくと、そこにピンとくるものを発見。タイトルは『I WISH...』。監督名は、ズリフィカール・ムサコフとある。なんとこの映画は、タイでもベトナムでもなく、ウズベキスタンからやって来たものだった。ウズベキスタンってアジアだったのか…。それまで思いもつかない国名であった。

■世の中そんなに甘くない

私はここでも一つ大きな勘違いをしていた。世の中にある映画は、全てソフト化されていると思っていたのだ。この世には様々な事情でソフト化できなかった作品がたくさんあり、『I WISH…』はNHKとウズベキスタンの共同製作の映画で、ソフト化されていなかったのだ。なんというショック! 世の中そんなに甘くなかったのである。

それでも諦めきれなかった私は、ムサコフ監督について調査を開始。すると、同監督がつくった1992年の映画『UFO少年アブドラジャン』という映画を発見した。『I WISH…』が制作されたのが1997年、それからさかのぼること5年。あらすじを読んでみると、「ウズベキスタンのど田舎に不時着した宇宙人少年が、超能力を使って村に騒動を起こす」というもの。すなわち『I WISH…』はこれの大人版じゃないか! さらに調べると、廃盤だがソフト化されていることもわかった。パッケージに映っているアブドラジャンらしき少年は金髪である。

猛烈に興味がわき、レンタルで観るか、いきなり中古DVDをオンラインショップで買ってしまうか悩んでいるところに、朗報が入ってきた。今は閉館してしまったオーディトリウム渋谷で、「惜別の35mmフィルム」という企画上映が開催され、『UFO少年アブドラジャン』も上映されるという。上映日は2014年5月24日。『I WISH…』を観てから15年、タイトルこそ違えど、ついにあの心のときめきを再び味わえるときがやって来たのだ(たぶん)!

■アブドラジャンとの遭遇

緊張して迎えた上映当日。楽しみである半面、この15年ぶりの擬似的再会が、果たしてよいものとなるだろうかと、不安があった。映画の内容にガッカリして、『I WISH…』に対しても、大した映画じゃなかったのだと思い直すかもしれない。そんなことになったら嫌だなあ…と思いながら、『UFO少年アブドラジャン』が幕を開けたのだった。

(後編に続く)

オーディトリウム渋谷で『UFO少年アブドラジャン』を観たときの半券

UFO少年アブドラジャン

1992年 / ウズベキスタン / 88分 / 提供:パンドラ / 監督・脚本:ズリフィカール・ムサコフ / 脚本:リフシヴォイ・ムハメジャーノフ / 出演:ラジャブ・アダシェフ、トゥイチ・アリボフ、シュフラト・カユモフほか

3月8日(金)、「YCAM爆音映画祭2019 特別編:密室爆音」で上映

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