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  • 2019年1月24日

映画は心意気だと思うんです。 第6回

ホラー映画をこよなく愛する冨田翔子さんが“わが心意気映画”を紹介してくれる連載の第6回。今回はアメリカの奥地にある洞窟で遭難してしまった女性たちを襲う危機と恐怖を描いた『ディセント』(2005年、ニール・マーシャル監督)と、その続編の『ディセント2』(2009年、ジョン・ハリス監督)を取り上げます。冨田さんがこのシリーズで、洞窟で遭遇する未知の生物の以上に、最も衝撃を受けたこととは――

『ディセント2』

女には許せないことがある

『ディセント』(2005年、ニール・マーシャル監督)
『ディセント2』(2009年、ジョン・ハリス監督)

文=冨田翔子

行きたくない場所の一つに、雪山がある。雪山に行くと、遭難するというイメージしかないからだ。 そんな事が起きる映画ばかり観ているせいかもしれない。そして山にはたいてい監禁小屋があって、 拉致されて、ろくな目に合わない。同じ理屈で、洞窟は未知の生物に遭うので注意が必要だ。 でも、未知の生物には、少し会いたいかもしれない。 好意的な生命体であれば。そんな風に、映画は私の知らないことをたくさん教えてくれる…。

『ディセント』は洞窟が舞台の忘れがたいアクション・ホラーである。かつての私は、何も知らずにこの映画を観てしまったため、 恥ずかしながら、後半で地底人が登場したときは度肝を抜かれてしまった。前半まで洞窟のリアル・パニック映画だと思っていたのに、 突如、超凶暴な地底人に襲われるゴリゴリの血みどろホラーに変貌したのである。 この作品が忘れがたいのはそこだけではなく、さまざまなシーンによるせいだ。今回はそれを振り返りたい。

そもそも、この映画の登場人物たちが洞窟に入る理由は、ちょっと独特である。夫と娘を事故で亡くした失意のサラを励まそうと、 友人のジュノは女友達を集めて洞窟探検に誘う。もともと山へ登ったりカヤックで川下りをしたり、アクティブな彼女たち。 事故のショックでふさぎ込むサラに、探検で元気を出しもらおうというわけだ。しかし、ジュノが連れて行ったのは、 伝えていたものとは違う人類未踏の洞窟であった。 挙げ句、たどってきたルートが崩落で切断され、地下3000メートルに閉じ込められてしまうことに。

申請した洞窟とは違う場所に来たため、助けも来ない。なぜそんなことをしたのか問われたジュノは、この洞窟の発見者になり、 その記念にサラの名前を付けるためだと話す。ジュノは「昔みたいに友情や絆を取り戻したい」とサラに語る。 しかし実は、ジュノはサラの夫と生前に関係を持っていた。 その事を言えないまま、洞窟探検はサラへの密かな罪滅ぼしの計画だったというわけだ。

……それって罪滅ぼしになるのだろうか?

いろいろなホラー映画を観たが、「友人の夫を寝取ったお詫び」の洞窟探検というのは、結構レアである。 何はともあれ、事態は罪滅ぼしどころではなくなり、彼女たちを食糧とみた地底人による人間狩りが展開。 一人、また一人と餌食にされていく。そんな中、ジュノは地底人と決死の攻防を繰り広げるが、 行き違いで友人の一人に瀕死の重傷を負わせた上、置き去りにしてしまう。 一方サラは、洞窟に入った当初から緊張や恐れる様子を見せていたが、ジュノの不貞と友人への仕打ちを知り、覚醒。 めきめきとタフになり、地底人と互角に渡り合うようになる。ついにクライマックス、生き残ったジュノとサラが、地底人に囲まれるという大ピンチを迎える。 するとサラは、ジュノの足をピッケルで刺し、彼女を置き去りにすることで復讐を果たすのだった。

イギリス出身のニール・マーシャルが監督した本作は、約4億円という低予算ながら、 世界興収60億円を超えるヒットを記録。映画の前半はツボを抑えた洞窟パニックシーンが挿入され、 後半には惜しみなくクリーチャーを登場させるという心意気ある作風が評判を呼んだ。 二匹目、三匹目のドジョウを狙いたいホラー業界からは、その後『ディセント』を名乗るオリジナルとは無関係の刺客が送り込まれ、 私も「続編が出てる!」と思ってレンタルしたタイトルが、 ディセントXだかYだか、いやZだったかな……、中身を観たら全く『ディセント』と関係なく、びっくりしたことがある。

『ディセント2』

第1作から4年後の2009年には、待望の正当な続編『ディセント2』が公開された。マーシャルは監督から製作総指揮にまわっている。 前作ではサラが脱出できたかわからないまま終わるのだが、続編は、サラが地上で保護されるところから始まる。しかしこの続編、 いきなり驚かされる。サラはショックで洞窟での記憶を失っており、病院で手当を受けるのだが、他メンバーの捜索に苦戦する地元警察は、 現場に行けば思い出すだろうとばかりに、記憶喪失のサラを案内人として洞窟に連れて行くのである。あまりにも酷いじゃないか。 このことからも分かるように、 続編は、そつなく演出されていた前作に比べると若干大味な仕上がり。しかしそんな中にも、忘れがたいシーンがあったので紹介したい。

サラがまたしても洞窟に連れて行かれたとき、失礼ながら私はこの映画の先はもう見えたな、と思っていた。 このあと地底人が出てきて、パニックになり、感じの悪い保安官も賢くなさそうな救助隊も、全滅するに違いない。 だが、私は気づいていなかったのだ、主人公・サラのポテンシャルに。再び洞窟に入ったサラは怯え、 記憶の断片がフラッシュバックして混乱していた。あの惨劇の記憶が蘇ったら、サラは発狂するのではないかと私は心配だった。 ところが、ある瞬間に記憶を取り戻した彼女は、瞬時に正気に返り、警官と救助隊を殴って岩陰に隠れると、スッと戦闘モードに入ったのである。 叫ぶでも、 うろたえるでもなく、地底人と互角に渡り合うサラが戻ってきたのだった。そんなサラの逆境への強さこそ、この映画の真髄かもしれない。

強い女は、もう一人いる。サラに置き去りにされた、ジュノだ。なんと彼女は、ライトも装備もなく、おまけに足を怪我した状態で、 真っ暗な洞窟の中でひたすら地底人と戦って生き延びていたのである。今思えば、ジュノが登場するのは続編として当然といった感もあるが、 当時の私は、彼女が生き残れていたことに素直に驚愕してしまったのだった。

洞窟で再会を果たした二人は、互いへの怒りを抱え、許せない気持ちはあるものの、極限状態でなんだかんだ助け合うことになる。 今作でも容赦ない地底人が一人ずつ血祭りに上げていくなか、因縁を超えて力を合わせるほかないサラとジュノ。 いよいよクライマックスを迎え、出口はすぐそこだが、目の前には動物を貪り食う複数の地底人。ここで地底人と取っ組み合いになったジュノは、 瀕死の重傷を負ってしまう。駆け寄るサラに、ジュノは「行って」というセリフの後、こう続ける。「私が悪かったわ。許して」。

なんと! それはもしかして、サラの夫を寝取ったことを言っているのだろうか!?

ここが、シリーズを通して私が最もびっくり仰天してしまったシーンである。サラもジュノも、この洞窟で人生の一番を争うくらい怖い目に遭っている。 確かに全てはここに連れてきたジュノのせいではあるが、彼女は真っ暗闇でクリーチャーを倒し続けて生き残るという、 常人には計り知れないことをやってのけているわけである。それでもなお、彼女の心の中には友人を裏切ったという罪悪感がくすぶり続けていたのである。 友達の夫を寝取るということは、かくも罪深いことなのだ!

漫画やテレビドラマで、友達に彼氏を取られたとか、夫の不倫相手が親友だったとか、そんな展開を見るたびに、 「大変だなあ」と思いつつ、実際それがいかほどの行為なのかは考えたことがなかった。しかし、ジュノの一言は私をハッとさせ、 友人の交際相手に手を出すという裏切り行為は、地底人に襲われるよりも恐ろしい、終わりのない永遠の罪なのだということを、 実感させられたのだった。後日、私は女友達に『ディセント』と『ディセント2』のことを伝え「そういうもんなのかな?」と聞いてみた。 すると彼女から「あんた! 当たり前でしょ!」と一喝されてしまった。そうか、そうだったのか。

そんなジュノの最後のセリフにムダに感銘を受けてしまったせいで、『ディセント』は1も2も大好きである。さんざんネタバレしてしまって言うのもなんだが、 ここに書けなかったあらすじと見どころはまだたくさんあるので、ぜひご覧いただきたい。

『ディセント2』

ディセント   The Descent

2005年 / イギリス / 99分 / 監督・脚本:ニール・マーシャル / 出演:シャウナ・マクドナルド、ナタリー・メンドーサ、アレックス・リード、サスキア・マルダー、ノラ=ジェーン・ヌーンほか

ディセント2   The Descent Part 2

2009年 / イギリス / 95分 / 監督:ジョン・ハリス / エクゼクティブ・プロデューサー:ニール・マーシャル / 脚本:ジェイムズ・マッカーシー、J・ブレイクソン、ジェイムズ・ワトキンス / 出演:シャウナ・マクドナルド、ナタリー・メンドーサ、ダグラス・ホッジ、クリステン・カミングスほか

『ディセント2』DVD好評発売中

価格:3800円(税抜)

発売元:株式会社KADOKAWA / 販売元:(株)ハピネット

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