妄想映画日記 『MADE IN YAMATO』舞台挨拶編

今回の「妄想映画日記」は、5月5日に池袋シネマ・ロサにて行われた『MADE IN YAMATO』特別先行上映での舞台挨拶の模様をお届けします。登壇者は山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐、清原惟の5名の監督。大和市を舞台にした『MADE IN YAMATO』は5月28日より公開です。ツアーのような舞台挨拶情報にもご注目を。

今ここに向けての栄光のサーキット


5月5日『MADE IN YAMATO』特別先行上映@池袋シネマ・ロサ
監督トークショー・レポート
文=樋口泰人
協力=植田さやか

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山本英『あの日、この日、その日』
冨永昌敬『四つ目の眼』
竹内里紗『まき絵の冒険』
宮崎大祐『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』
清原惟『三月の光』
 
という5人の監督の5つの作品。神奈川県大和市を舞台に作る短編、という設定以外は全てそれぞれの製作者たちに任されたそれらは、一見まったく別々の表情を見せる。上映時間、物語のテーマ、撮影場所、大和という場所との関係など、前提となる共通項を見つけ出すことは難しい。
だがそれ故に、というところがこの日のトークのテーマとなった。
まずはそれぞれがそれぞれの製作のきっかけや製作現場の様子を語る。
 
「ピクニックのシーンに出てくるサンドイッチは主演の村上さんやスタッフたちと前日に買い出しにいって作ってみんなで美味しく食べたんです。画面に現れているかわからないけど、そういったことを大切にした現場だった。」(山本)
 
「この映画は最初から分裂していて、みんなでせーの!て出し合ったような映画だったと思うんです。尺はみんなだいたい10-15分だろうなと思って作ったら、年齢が上のやつほど短いという結果になった。なんだか恥ずかしいです。」(冨永)
 
「数年屋内撮影が続いていたので、今回屋外で撮影できたので、楽しかったですね。メインの舞台となるスポーツセンターですが、あの大きい建物は何だろうと行ってみたら、まき絵の居場所としてぴったりでした。そんなふうにしながら役者さんたちと川を北上して、撮影地を発見しながら出来上がっていった映画です。」(竹内)
 
「コロナのこともあってしばらく映画が撮れず、カット割りとかどうしていいか忘れてたんですよ。リハビリ的な感覚があったと思います。舞台になった恐竜レストランも含めてロケ地は自宅から歩いて5分以内にあるところなので、日記を書くように撮りました。僕のそういうノリをスタッフが察知して、初日は大勢で照明などもきっちり整えられていた現場も、二日目はスタッフも減って勝手に撮ってくださいという感じで。コロナ後の撮影はこういうふうになっていくんじゃないかと思いました」(宮崎)
 
「冒頭の蛇口のシーン。蛇口はもともと空き地にあって、なんだろうと思ってひねってみたんですが、水は出ない。そこからシーンをみんなで考えていきました。最後の煙のシーンは、車で移動中に工場が思いっきり燃えていて、自分がこれまでみたことのない大火事。それを撮影したんです。ひとつひとつの場所や出来事を映画に変えていく、そんな作業だったように思います。」(清原)
 
それぞれの撮影チームが持った親密な関係と時間の中に大和という土地の物語が紛れ込んでくる。土地が語る物語を呼び寄せ受け取り臨機応変に形にしていくという、開かれた映画作り。監督たちがそれぞれ「楽しい」という言葉を使ったのだが、おそらくその楽しさはあらゆる偶然も含めた思わぬ何かを受け入れられるそれぞれの映画づくりの体制の発見、と言い換えられるのではないか。
つまり「大和市で撮る」というただそれだけの緩くて曖昧な共通項こそが、実はこのオムニバス映画の太くて強い共通項となっている。
 
「フォークナーの『八月の光』が今回の『三月の光』というタイトルの元になったのですが、『八月の光』は妊娠中の主人公リーナを中心に語られるアメリカの南部に暮らす人々の物語で。人々は、その町に閉じ込められて出ることができないようにも思えてくる。大和も首都圏の南部だなと思って重ね合わせたんです。町から出られない人の話を描きたいと思ったんです。コロナでみんなが町に閉じ込められているなという思いもあった。」
 
そう語る清原監督の言葉は、「大和市で撮る」という太くて強い共通項のその太さと強さを見事に示しているように思えた。ある道筋を示すのではなく、いきなり闇雲につなげて重なり合わせてしまうという関わり方……。
 
話題の中心だったにも関わらず不在の人として画面にはまったく現れなかった「太田さん」が不意に登場する『あの日、この日、その日』。書かれているシナリオとそこにある現実とが重なり合ってどちらがどちらかわからなくなる『四つ目の眼』。中学時代の友人との偶然の遭遇により主人公の思い出と現在と未来とが一気にこんがらがり始める『まき絵の冒険』。そして右目と左目の世界が重なり合うのか合わないのか、その混乱の中で主人公たちが現在を踏み締める『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』……。
 
今ここにあることがそれ故に世界のすべてに向かって広がり出し、あらゆる時間を呼び寄せる、そんな架空の場所としての「大和」。それはもちろん「映画」と呼ばれる何かのことでもあるだろう。『MADE IN YAMATO』は『MADE IN MOVIE』でもあり『MADE IN CINEMA』でもある。そんなことも言いたくなった。
 
「オムニバスで5人の監督がバラバラの発想で作品を持ち寄っていますが、監督それぞれの中では前の作品から繋がっているし、今後の作品にもつながっていく。今回は全体の予告編も作ったのですが、その中で『MADE IN YAMATO』全体が自分の作品のように思えてきた。今ではほかの人の作品の出演者も仲間のような気がしているんですよ。すり合わせはしなかったけど、仲が良かったし、そういう関係のもとでバラバラで映画を撮ったのは本当に面白い経験だった。」
 
こんな冨永監督の発言は、宮崎監督が語った「コロナ後」の映画作りの未来を示しているだろう。ここには緩くて強い絆があり、つまり「信頼」がある。自分と他人とそれを取り巻く世界や時間の間にかけられた太くて強い通路。『MADE IN YAMATO』はわたしたちを思いもよらぬ場所と時間とへ連れ去って、それ故に今ここを輝ける現在として祝福してくれるだろう。ああそれは『フォードVSフェラーリ』の最後のゴール前の一瞬のスローモーションのようなものだ。そんな映画と共にありたい。現実と映画とが作り出す栄光のサーキットを走り続けたいと、ちょっとオーバーだがそんなことを思ったGWの一夜であった。

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冨永昌敬監督が編集した予告編


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『MADE IN YAMATO』
山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐、清原惟
5人の監督が紡ぐ

YAMATOから生まれた5つのストーリー

豊かな自然も特徴的な街並みも産業もない日本のどこにでもある街YAMATO
当たり前の人々の当たり前の暮らしが風景につけた小さな滲みが、今、世界に向けて広がり出す

2021年/ 16:9/ 5.1ch./ 120分
 企画:DEEP END PICTURES/製作:大和市イベント観光協会/配給:boid/Voice Of Ghost
 (C)踊りたい監督たちの会


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Story1 『あの日、この日、その日』
監督・編集:山本英 出演:村上由規乃 山崎陽平 小川幹郎 ほか
 市役所で働くユキは退職する太田さんのために職員たちのビデオレターを撮っている。ある日の休日、ユキは友人の山崎とピクニックに出かける。何でもない特別な日を見つめる物語。


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Story2『四つ目の眼』
監督・脚本・編集:冨永昌敬 出演:尾本貴史 福津健創 円井わん
 麻子は別居している父親にある人物を紹介するために、喫茶フロリダへ誘い出す。そこではその3人と彼らを取り巻く人々の過去や想いが錯綜し……。名物喫茶店を舞台に繰り広げられる奇妙な対話劇。


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Story3『まき絵の冒険』
監督・脚本・編集:竹内里紗 出演:兵藤公美 堀夏子 加賀田玲 石山優太
 清掃員のまき絵は街中に貼られている同じステッカーに気付き、写真で収集を始める。一体それは何を意味しているのか。ある夜、中学の同級生に再会し、彼女の連絡先を書いた紙を渡される。まき絵の冒険が始まる。


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Story4『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』
監督・脚本・編集:宮崎大祐 出演:柳英里紗 空美 本庄司 小川あん
 バンド仲間のエリとクミはある日、タイムカプセルに入れるため、大和での生活の動画を撮り始める。その後訪れた恐竜レストランで、右目で見た世界と左目で見た世界の違いを語りはじめるエリ。二人は次第に両目の間の世界へと迷い込んでいく


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Story5『三月の光』
 監督・構成・編集:清原惟 出演:小山薫子 石倉来輝 田中真琴 南辻史人 ほか
 高校を卒業したばかりの莉奈は川辺に佇む。同級生の男がやってきて莉奈にしつこく付き纏うのだが、莉奈は相手にする気もない。「海に行きたい」と莉奈は言う。やってきたバイクに乗せてもらった莉奈は海に行けるのだろうか。

<劇場情報>
 5月28日(土)より新宿K’s Cinema、横浜シネマリン
 6月4日(土)よりシネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、元町映画館
 6月11日(土)より名古屋シネマテーク、シネマ5
6月14日(火)KBCシネマ 1日限定上映
 6月18日(土)より愛媛シネマルナティック
6月25日(土)よりあつぎのえいがかんKiKi、桜坂劇場
7月2日(土)よりあまや座
9月 松本シネマテーク
近日上映:フォーラム仙台、シネマテークたかさき、ほとり座、横川シネマ、YCAM[山口情報芸術センター]、ほか
 
<舞台挨拶情報>
5月28日(土)、29日(日)
K’s Cinema、横浜シネマリン
登壇者:山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐
 
6月4日(土)
シネ・ヌーヴォ
登壇者:山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐
 
6月5日(日)
京都みなみ会館、元町映画館
登壇者:山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐
 
6月11日(土)
名古屋シネマテーク
登壇者:宮崎大祐
 
7月3日(日)
あまや座
登壇者:冨永昌敬
 
『MADE IN YAMATO』作品ページ
https://voiceofghost.com/archives/category/made-in-yamato

 


樋口泰人

映画批評家、boid主宰、爆音映画祭プロデューサー。98年に「boid」設立。04年から吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。08年より始まった「爆音映画祭」は全国的に展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)、『恐怖の映画史』(黒沢清、篠崎誠著/青土社)など。