爆山爆之介の爆ソロ生活 第0回

ヴィンテージ・オーディオの修理改造や劇画作品の研究紹介を行っている浅川満寛さんによる新連載、「爆山爆之介の爆ソロ生活」が始まります。現在、房総半島南部のいすみ市にお住まいの浅川さんが当地での暮らしや、自身で製作されるオーディオ機器・爆音システムなどについて綴られるエッセイです。初回は今後この連載で取り上げられる予定の話題を、ハッシュタグごとにご紹介。
  
文・写真=浅川満寛
 
 
#魔改造
「アナログばか」のカートリッジ担当ということになってるようなので、まずはそっちから。
ちなみに「カートリッジ」ってレコードかけるときに使う、針がついた部分のことです。
「ばか」用のものは全部いわゆる「魔改造」してある。改造始めたのがいつ頃からか…もう10年以上前。最初はカートリッジとシェルの間をつなぐ4本のリード線を自作するところから始まり、そこから発展してカートリッジ内部、外部取付部分、シェルとの取付方法、針部分、針ノブ部分…と音質改善のための改造を思いつくままに重ねて今のようなかたちになりました…。小さいパーツのどこをそんなにいじる余地があるのかと思われるかもしれません。レコードって溝に音の信号が刻まれていて、針先で溝をこすった音を電気的に増幅して聴くという方法が取られてます。レコードを置くプラッターという部分を回転させるのはモーターですが、モーターは回転することでノイズを出します。それがプラッターに伝わり、当然針先にも伝わる。あるいは外部からの振動がタンテを経由して針先に伝わる。ものすごく微細な音を増幅する際にこうしたノイズが加わると当然、ノイズもまた増幅されるので、針先に余計な振動が伝わらないようにすることで音の信号だけを取り出すことが出来るんじゃないかと考えたのがすべての始まり。

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#猫溜り
いわゆる「ペット」を飼うなんて気はさらさらなかったのが、ある日庭に子猫が現れ、数日経っても去っていかない。近所で猫飼ってる家があるので、我が家の庭を通りがかった時にたまに魚の骨とかやってたんですね。ひもじかったのか、食べ物あげたせいかオス猫白茶1匹そのまま居ついてしまった…。翌年は川向うの空き家に捨てられたと思しきサビ猫メス3匹が庭先に時間差で1匹ずつ現れ、その翌年にはどこからか放浪の末たどり着いたらしい、ガリガリのクロキジオスとノミだらけでヨレヨレになった白茶オスが…。あっという間に6匹。サビはもしかしてウチを狙って捨てに来た人がいたのかもしれない。というよりもどうもウチは地形的に猫が溜まりやすいロケーションのような気がする。集落の外れで脇には川が流れていて、橋を渡ってウチに来るとその先に家は一軒しかないんですね。そこも猫飼ってるんですが性格が狂暴w 新顔が通りがかったら即襲われるので、避難するとなるとウチしかない……。ここへ来て7年、それまではたまに泊りがけで都心に出たりしてましたが、猫が来てからは一切遠出は出来ず。東京の知り合いもそこそこ高齢だったり身体壊してる人も多いから、この先会わないまま終わるパターンも増えるんじゃないか?

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#爆音
都心に住んでいると絶対無理ですが家と家が離れたこのへんは爆音出し放題。引っ越し当初は両隣(といっても都内と比べれば離れてます)に住んでいた80代後半~90代の爺さん婆さんも数年のうちに死んだり入院したりで空き家に。そうなるともう、家全体が揺れるような低音出してもOKになります。各部屋に複数のシステムを組み上げ、チャンデバ使いマルチアンプ化したりアンプセレクター、スピーカーセレクター経由で一部屋の中に何十種類の組み合わせで音出ししたり。スピーカーも変わったものを試したくなり、カーネーション直枝さんが車でわざわざ運んできた15インチ用、10インチ用のデカいエンクロージャーにウーファー入れてあれこれ音出し。一通りやり尽くすと今度はスピーカーの自作に手を出し始め、ひょうたんやだるまをエンクロージャーにして天井から吊るし「ひょうたん7.1ch、あるいは5.1chサラウンドシステム」も各部屋に設置。音量的にもスペース的にもそろそろこのへんが限界かもしれない…と思いながらもまだまだ追求の余地はあるんじゃないかと日々アイディアを練っております。

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#円盤
爆音システムを日々製作、モディファイしている中でこれまで「出会ったことのない音」を経験するのはいちいち驚きと感動があるわけですが、音が変わるとそれにともなって楽しく聴ける音楽の傾向も広がります。ジャズなんて爆音システム構築前は聴かなかったのに聴くようになったし、住んでる千葉ご当地の民謡聴いてみたら意外と良くて、節回しが魅力的な歌手がいるとその歌い手の盤を力入れて集めるようになったり、70年代のベタなディスコを浴びるように聴いたり。ウーファーの台を作ってから低域がタイトになったのも関係しているかもしれません。このところシック~ナイル・ロジャース、バーナード・エドワーズ関連の盤を突然爆音で聴きまくりたくなり、気がつけばネットであれこれ漁る日々。シックもナイル・ロジャースのプロデュース作品もそこそこ馴染んでましたが熱心にアナログ集めたりはしてなかった。それが急にスイッチ入ってしまったのはコロナ禍が始まってから。元々集団や組織への帰属意識が薄く、孤独にめっぽう強い方なので昼間でもほとんど人を見かけないような田舎家に住んでいてもまったく快適なのですが、それでもコロナで行動が「制限される」というのはやはり地味に堪えました。それだけじゃなくて(これは寿命とかたまたま含め)、コロナ中に知り合いがずいぶん死んだような気がする。体調崩す人も多かった。戦争も始まったし。そんな中、YouTubeでたまたま見つけた2017年グラストンベリーのChicのコンサート映像、往年の大ヒット「Good Times」でステージに上がった大量の観客が踊り狂う様を見て、ほんの少し前のことがはるか昔のように感じられ落ち着かない気分になると同時に、ナイル・ロジャースの圧倒的な力にもう、ひれ伏さざるを得ないような、ありがたい気持ちになり、結局80年前後のディスコ定番プロデュース作品にも手を出しはじめたのでした。最近の仕事もアナログでフォローしたくなり、ダフトパンクの「Get Lucky」欲しい…と思ってググったら…高い……。

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#劇画
勤め人ではなく、フリーランスという実質無職のようなものなので「アンタぁ何やってる人?」と聞かれると困ります。オーディオの方でシノギすることもあれば、以前の関係で別の仕事を振られることもある。12年前までは社員編集者としてマンガの本作ったりしておりました。といっても小さい出版社だったのでわりと自由にやらせてもらえて、単行本や雑誌の企画は好きなように任されていたのをいいことに、本作ればその作家のことを独自に調べ上げ、巻末に異常に詳しい年譜をつけたり、全作品リスト、単行本リストをつけたり…。原稿受け取って一冊にまとめるいわゆる通常の作りじゃなくて巻末ページの調査に膨大な時間を要するので、自分自身がよほど思い入れのある作家じゃないとそんなことしたくない…結果、本を作るペースは遅くなり、作家の人選は完全に好みに偏ったものに。山松ゆうきちさんもそんな感じで本を一冊作るのをきっかけにお付き合いが始まった方。去年久々に連絡あったと思ったら「インドでたこ焼き屋始めたい。ビザ取りたいんだけど難しすぎるから手伝って」と頼まれ、ネットのe-ビザ申請お手伝い。9月に山松さんは渡印、インドで店を出したのですがまったく売れずに3カ月で撤退…。と書いても読んでる方は「なんでマンガ家がインドでたこ焼き屋を?」とかさっぱりわけがわからないでしょうが、山松さんは2008年に『インドへ馬鹿がやって来た』という本も出してるので興味お持ちの方は是非。たこ焼き屋閉めて帰国するとき、山松さんから「何かほしいものあったら買っていくから言って」と言われ、たこ焼き屋の店で使ったポスターをリクエストしたら送ってくれました。こんなデカイものどうするのか? と思われるでしょうが、劇画家は性格的にもユニークすぎる人が多い。そんな人がインドで出した店のポスター現物、これは歴史的な一次資料です。将来劇画博物館が出来た時には当然収蔵品の目玉になるはず。そんなものがいつできるのか、自分が死んだ後かもしれませんが、資料は引き継がないと…。

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#変人録
自分にとって縁もゆかりもない土地に思いつきでやって来たので、地元を知るにはそこに生まれ育った人と話すのが一番近道。また人口が少なく役所に予算がない分、インフラ整備、道沿いの草刈りとかあるいは年に一度の大きな祭りの準備とか、集落総出でやらなきゃいけないこともある。ただ、田舎は人間関係の距離感がちょっと違います。猫じゃないけど玄関先にいきなり知らない婆さんが現れることも…最初は何事かと思いましたがもう慣れた…。よく都会からの移住者は「田舎はプライバシーがない」とかいいますが…過疎で人が少ないし爺さん婆さんばっかりなんだから、近所の人が無事かどうか適度な距離感でお互い気にかけておくのは大事。会うたび「オラぁヒマでヒマでおいねえ」とか言ってる近所の爺さんは元大工。濡れ縁作ろうと私が庭で作業してたりすると通りがかりに家から丸ノコ持ってきて手伝ってくれたりしてありがたい。その他にもスピーカースタンド作ってくれたりあれこれ世話になっているので、去年ウチにオーディオ誌の取材が入った時に編集部からもらったスピーカーユニット+エンクロージャー自作セットをプレゼントしてみると…もう翌日には「できた」と持ってきた! 早いだけじゃなくてしっかり作ってあるところがさすが元大工。「いつもヒマヒマ言ってるならスピーカー、もっと作ってみる?」とウチのいろんな自作スピーカー見せると……ひょうたんとかダルマとか興味持ったようでいろいろ質問してくる。自作用のスピーカーユニットならたくさんあるからいくつかあげると…そのへんにあった箱や竹を利用してあっという間に作っちゃうだけでなく、見た目も音もなかなかユニーク。ウチのスピーカーちょっと見ただけでアイディア浮かぶのはスジがいいのでは? しかも断線したスピーカーユニットを構造の研究用にと渡すと「はんだ付けしたら音が出た」と直しちゃう。「スピーカーはあってもよぉ、アンプがねえ」と言うのでBluetooth接続可能な小さいデジアンをあげて、スマホでYouTube見る時の設定方法をレクチャーすると…自作スピーカーつないで庭先で毎日YouTube爆音再生し始めた。ウチに使ってないスピーカーユニットはまだまだある。特にこの先使う予定もないので暇つぶしになればと渡すとあっという間に変な自作スピーカー作るので、もう何セットも並べて日々爆音でYouTube聴いてます。

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#海辺の叙景
このへんはつげ義春さんのマンガ『海辺の叙景』の舞台になった土地で海が近い。最近は「住みたい田舎ランキング」で上位とかで移住者も多いようですが、都会の暮らしに慣れた人には田舎の生活は車がないとかなり不便ではあります(私は自転車のみ)。第一、夜が真っ暗ですよ。街灯はなくはないですが都心に比べるとはるかに数が少ない。川が流れてたり田んぼがあったりしますが、夜なんて真っ暗な中自転車でも乗ってたらヘタすると川に落ちます。廃墟化した空き家もいたるところにあり、柱が折れ、全体が傾いて崩れかけたまま放置された家もよく見かけるのでいつ崩壊するかとたまに見に行くと……案の定崩れてたりします。

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浅川満寛

1965年、神奈川県生れ。1992年より「月刊漫画ガロ」「まんだらけ」「アックス」の編集者として、つげ義春・辰巳ヨシヒロ・平田弘史らを担当の傍ら、湯浅学『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ』の編集を担当したのをきっかけにオーディオ探究も開始。現在はフォノカートリッジを中心とするヴィンテージ・オーディオの修理改造調整販売を行いながら海外への劇画作品紹介も。「アナログばか一代」には開催初期より魔改造カートリッジを提供している。