妄想映画日記 『MADE IN YAMATO』舞台挨拶編 その2

現在公開中の山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐、清原惟の5名の監督による短編オムニバス『MADE IN YAMATO』。今回の「妄想映画日記」は、6月18日にK's cinemaで行われた『三月の光』の清原惟監督、主演の小山薫子さん、石倉来輝さんが登壇した舞台挨拶の模様をお届けします。

文・写真=樋口泰人


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6月18日(土)
K’s cinemaでの『MADE IN YAMATO』の上映後、『三月の光』の清原惟監督、主演の小山薫子さん、石倉来輝さんの登壇、トーク。
 
監督からは、脚本を作らず、設定だけを決めて主演のふたりと大和市を訪れて物語を固めていったというこの映画の製作過程について、そして自分にとっても初めてだったこのやり方を選んだのは、小山さんと石倉さんの舞台俳優としての身体の動かし方の自由さを映し出したかったからだという説明が。そして「ままごと」という劇団に所属し普段は舞台の上で芝居をしている俳優のふたりにとってこういうやり方はどうだったのか、という質問からトークはスタートした。
以下、樋口の記憶とメモによるトークの記録なのだが、記憶とメモなので当然どこかで樋口のフィルターがかかり、つまり妄想と事実の合間に浮かび上がった風景の記録といったものになっている。発言者を混同している場合もある。それもまた『MADE IN YAMATO』の一つの風景だと思って読んでほしい。
 
映画出演は今回が初めてという小山さん
脚本がない状態で、プロットだけを共有してロケハンしながら散歩していると、周りでは風の音とかしているんですよ。普段の舞台ではそういうことはない。あらかじめ何かがそこにあるというそういう場所でどう動くかを意識しました。
 
石倉さん
舞台だと、何もない場所にこういう設定という決め事を立ち上げて動きを決めてくが、映画ってそうじゃないですよね。舞台の場合は文字が並んだ台本がまずあって、その文字をエンジンにして身体を動かしていくわけです。
 
小山さん
自分の身体や気持ちを動かすものが、舞台の場合は文字だけど、この映画の場合は大和という場所だったように思います。
 
石倉さん
この映画では、場所にまず飛び込んでみる、大和という場所が脚本の代わりと言うか、その場所の空気みたいなものを感じ取ることが大事だった。ロケハンも兼ねての散歩の中で、いろんなものが入り込んできたように思う。
 
清原さん
当初、脚本がない代わりに登場人物の過去の記憶などを書いて人物設定などをしたんですが、その場所に行って初めて感じたこととか見たことが、何かを作り上げていった。撮影の時も冨永さんのパートに出てきた喫茶店のフロリダで、いろんなことを話してなかなか撮影に入れなかったし。最初に出てくる水道の蛇口も散歩の時に発見したんですよね。
 
石倉さん
自分の役柄の設定も色々考えていたのだが、大和に行ったら全然違うものになってしまった。この役柄にとっては大和がすべてというか。
 
清原さん
ある程度台詞は決まって撮影に入ったのだが、会話のトーンなどは決めてなくて即興でやってもらったんですよね。お二人はそれをどんな風に感じながら演じていたんでしょうか。
 
小山さん
最初に現場に行って撮影してみようかとなったときに、妊娠しているという台詞を言うまでに、延々と20分くらい歩きながら即興で演じたじゃないですか。川縁を歩きながら。そのときの歩いていく感覚、どこまでも歩いていく感覚、終わりがないというか。
結局あのシーンは使われなかったので幻の20分くらいとなったわけですが、でもそのどこまでも続くように思われた中で、鮮明な時間の断片が見えてくる。その断片を拾い上げたものが映画になってくるというか。
 
石倉さん
土地に振付されていると言ったらいいのか、大和という場所に動かされている感覚。その土地で、どこに行って何を言うか。土地に関する好奇心によって自分の動きが決まったのかなと思う。
 
清原さん
すごくふらふらと動いてたよね。転んだりとか。
 
石倉さん
転んだときに、「やば、マイクつぶした」と思う自分と(ワイヤレスの発信機をポケットに入れていたので)、でもまだまだ転んでいくなあと思っている自分がいて。現実の撮影に参加しているという自覚を持っている自分と、土地に振付られてる自分がいた。
 
小山さん
その意味で、ひとつのシーンを撮り始めた時の監督の最初の想定と、そのシーンの撮影が終わった時では何かが違ったと思うのだけど、そのあたりはどう捉えていましたか?
 
清原さん
ふたりのシーンに関しては、ある必然性の中で変化していったのだと捉えている。そうでない、例えば最後の風景とかは、その場所に行ったときに目に映ったもの、気になったもの、場所から訴えかけられたものをその場で決めて映して、映画の中に入れたんです。ロケハンを兼ねての散歩がすごく重要だったと思う。最後の火事の風景とか、新幹線の音とか、それらひとつひとつに物語的なメッセージがある訳じゃないけど、その場にわたしがいた、その場に彼らがいた、カメラを向けないと忘れられてしまう、存在しなかったことになってしまうかもしれない何かがそこにあった、という存在の確かな名残のようなものをいれたかったんだと思います。
 
石倉さん
自分は、大和という街、というのを背負っているように感じていて、そんな気持ちの中で演じてたんですが、出来上がった映画を見ると、背後に映り込んだチャリや子供に奇跡のようなものを感じました。まったくの偶然で映ってしまったものなんですけどね。
 
小山さん
今日、このトークの前に再度観ていたんですが、画面の後ろや隅の方で、いろんなものが揺れてる。奥に映っているブルーシートが風ではためいてるとか。それがなぜか、大和という街やそこに住む人の存在の仕方と連動しているように感じられたんです。
 
 
『MADE IN YAMATO』は神奈川県大和市で撮影するという条件のもとに作られた映画ではあるが、大和市が今抱えている問題やその歴史や大和市ならではの地域性と向き合いながら作られた映画ではない。むしろそうではなく、単にそこを訪れてしまった余所者でありそれまでは全く大和市にもそこの問題にも興味はなかった人間たちによって作られた大和市の映画であることが目指されていたのではないかと思えるような、しかしどこかで確実に大和市に行かなければ撮ることのできなかった映画が目指された映画である。
この日のトークはまさにそんな土地と映画との関係をめぐるトークだったように思う。ただの鶏肉に串を刺した瞬間に「焼き鳥」という概念が生まれると記した廣瀬純の言葉を借りれば、ただのぼんやりした土地に『MADE IN YAMATO』というタイトルをつけた瞬間「映画」が生まれる。そんな奇跡のような映画こそ『MADE IN YAMATO』という映画であり、つまり映画はまだまだ生まれ続けるわけだ。


冨永昌敬監督が編集した予告編


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『MADE IN YAMATO』
山本英、冨永昌敬、竹内里紗、宮崎大祐、清原惟
5人の監督が紡ぐ

YAMATOから生まれた5つのストーリー

豊かな自然も特徴的な街並みも産業もない日本のどこにでもある街YAMATO
当たり前の人々の当たり前の暮らしが風景につけた小さな滲みが、今、世界に向けて広がり出す

2021年/ 16:9/ 5.1ch./ 120分
 企画:DEEP END PICTURES/製作:大和市イベント観光協会/配給:boid/Voice Of Ghost
 (C)踊りたい監督たちの会


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Story1 『あの日、この日、その日』
監督・編集:山本英 出演:村上由規乃 山崎陽平 小川幹郎 ほか
 市役所で働くユキは退職する太田さんのために職員たちのビデオレターを撮っている。ある日の休日、ユキは友人の山崎とピクニックに出かける。何でもない特別な日を見つめる物語。


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Story2『四つ目の眼』
監督・脚本・編集:冨永昌敬 出演:尾本貴史 福津健創 円井わん
 麻子は別居している父親にある人物を紹介するために、喫茶フロリダへ誘い出す。そこではその3人と彼らを取り巻く人々の過去や想いが錯綜し……。名物喫茶店を舞台に繰り広げられる奇妙な対話劇。


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Story3『まき絵の冒険』
監督・脚本・編集:竹内里紗 出演:兵藤公美 堀夏子 加賀田玲 石山優太
 清掃員のまき絵は街中に貼られている同じステッカーに気付き、写真で収集を始める。一体それは何を意味しているのか。ある夜、中学の同級生に再会し、彼女の連絡先を書いた紙を渡される。まき絵の冒険が始まる。


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Story4『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』
監督・脚本・編集:宮崎大祐 出演:柳英里紗 空美 本庄司 小川あん
 バンド仲間のエリとクミはある日、タイムカプセルに入れるため、大和での生活の動画を撮り始める。その後訪れた恐竜レストランで、右目で見た世界と左目で見た世界の違いを語りはじめるエリ。二人は次第に両目の間の世界へと迷い込んでいく


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Story5『三月の光』
 監督・構成・編集:清原惟 出演:小山薫子 石倉来輝 田中真琴 南辻史人 ほか
 高校を卒業したばかりの莉奈は川辺に佇む。同級生の男がやってきて莉奈にしつこく付き纏うのだが、莉奈は相手にする気もない。「海に行きたい」と莉奈は言う。やってきたバイクに乗せてもらった莉奈は海に行けるのだろうか。


あなたの町にヤマトがいくよ

<劇場情報>

K’s Cinema
連日20:20より
https://www.ks-cinema.com/
 
 
上映中 ~6月24日(金)まで
名古屋シネマテーク
http://cineaste.jp/
 
 
上映中 ~6月24日(金)まで
シネ・ヌーヴォX
連日12:55より
http://www.cinenouveau.com/
 
 
上映中 ~6月30日(木)まで
京都みなみ会館
https://kyoto-minamikaikan.jp/
 
●関連特集上映
6/18(土)~6/30(木)
『わたしたちの家』(清原惟)『小さな声で囁いて』(山本英)『亀虫』(冨永昌敬)『大和(カリフォルニア)』(宮崎大祐)
https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/17153/
 

 上映中 ~7月1日(金)まで
シネマルナティック
http://cinemalunatic.sx3.jp/
 
 
6月24日(金)~7月8日(金)
横川シネマ
http://yokogawacinema.com/
*7/2(土)休映
 <舞台挨拶>
6/26(日) 16:10の回 上映後
登壇者:山本英
 
 
6月25日(土)~7月8日(金)
あつぎのえいがかんKiKi
https://atsuginoeigakan-kiki.com/
 
 
6月25日(土)~
桜坂劇場
https://sakura-zaka.com/
 
 
7月2日(土)~
あまや座
http://amaya-za.com/
 <舞台挨拶>
7/3(日)12:20の回 上映後
登壇者:冨永昌敬
初日先着でパンフレットをプレゼント!(限定数)
http://amaya-za.com/2022/06/04/post-5451/
 
 
7月15日(金)~21日(木)
シネマテークたかさき
https://takasaki-cc.jp/
 
 
9月
松本シネマセレクト
https://www.cinema-select.com/
 
 
<近日上映>
フォーラム仙台
https://forum-movie.net/sendai/

ほとり座
https://hotori.jp/

YCAM[山口情報芸術センター]
https://www.ycam.jp/cinema/
 

『MADE IN YAMATO』作品ページ
https://voiceofghost.com/archives/category/made-in-yamato

 

樋口泰人

映画批評家、boid主宰、爆音映画祭プロデューサー。98年に「boid」設立。04年から吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。08年より始まった「爆音映画祭」は全国的に展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)、『恐怖の映画史』(黒沢清、篠崎誠著/青土社)など。