ぽつねん 第4回

井手健介さんが愛聴している音楽や日常生活のなかで起こった出来事について綴る「ぽつねん」。今回は最近コマーシャルでも使用されてリバイバル的に耳にするようになった、ある歌の歌詞に対するモヤモヤが吐露されます。
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リーヴ・ミー・アローン

 
 
文・写真=井手健介
 
 
これまで以上に、足元の覚束無い感覚が当たり前になりつつある。
8月。私は、YCAM爆音映画祭に音響調整役で参加させていただくことになり、開催の5日ほど前に山口入りし、準備を終え、迎えた映画祭初日の朝、2日目以降の中止を告げられた。
残念だが仕方のないことだ。呆然としながら東京に帰る道すがら乗った車のカーナビの声が「この先、ヒヤリハット地点があります!」と言った。きっとその通りだと思った。
 
家でテレビをつけっぱなしにしていると、CMで流れた歌が気になった。
その数日後、ラジオでもその歌が流れた。
明るく軽快な曲調でフォークギターをかき鳴らしながら、いつでもスマイルしようね、と語りかける歌。その主人公は、ある女性に対し、あくまでも良かれと思って、励ますつもりで、いつでもスマイルしようね、と、常に笑顔でいることを推奨する。そして、かいつまんで記すと、その後こう続ける。いつでもスマイルしようね。とんでもないことが起きても。深刻ぶった女は綺麗じゃないから。すぐスマイルするべきだ。子供じゃないならね。努力してスマイルしててね。町中にきみを見せびらかすから。みたいな感じ。
 
この歌を好きな人がこの文章を読んでいたら大変申し訳なく思うが、私はちょっと頭がクラクラした。私は、一聴すると至極前向きなこの応援歌の主人公は、もうそろそろ誰かに諭されるべきだと思った。または、スマイルするべきだと説いた女性から直接こう言われるべきだと思った。ほっといてくれ、と。
単に「深刻ぶった人」ではなくてわざわざ「深刻ぶった女」なのも、「町中にきみを見せびらかす」っていう言い方も、どうも気になる。「女は愛嬌」みたいな嫌さがある。考えすぎだろうか。狂っているのは私のほう?
 
「ちょいちょいちょい。スマイル強要すな。深刻な女が他人から綺麗と思われるかどうかはどうでもいいだろ。実際に深刻なら泣いてもいいし怒ったっていいだろ。大人が子供みたいでもいいだろ。全員好きにしろ。怒れ。憤れ! お前が舵を取れ! 北北西に進路を取れ! ダイヤルMを廻せ! 動くな、死ね、蘇れ!」
 
「ちょっと、井手ちゃん、何怒ってんの〜?怒っても何もいいことないよ〜」
 
そう言われて私は思わずスマイルしてしまった。
他人に何かを伝えるのは難しいなと思った。




井手健介

音楽家。吉祥寺バウスシアター館員として爆音映画祭等の運営に関わる傍ら、2012年より「井手健介と母船」のライヴ活動を開始。2015年、ファーストアルバム『井手健介と母船』を発表。2017年には12インチEP『おてもやん・イサーン』リリース。その後も映像作品の監督、楽曲提供、執筆など多岐に渡る活動を続ける中、2020年4月に「Exne Kedy And The Poltergeists」という架空の人物をコンセプトにしたセカンドアルバム『エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト』を発表。同年12月、同作からのセルフリミックス12インチ盤『エクスネ・ケディの並行世界』をリリース。今夏、エクスネ・ケディの"1974年のライヴ音源"を収録した『Strolling Planet ’74』が発売された。