Television Freak 第54回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)、土曜ドラマ『未満警察 ミッドナイトランナー』(日本テレビ系)、日曜ドラマ『親バカ青春白書』(同)の3作品を取り上げます。
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液晶画面の闇の奥



文=風元正


長い梅雨の間、Netflixの沼にハマってしまった。とりわけ心が動いたのは『日本沈没2020』。評価は極端な賛否両論に分かれシンプルに称賛するのは難しいが、今の「国民の無意識」に触れている作品だと判断している。小松左京『日本沈没』を主人公一行が沈んでゆく日本列島を逃げ惑う物語として再構成する感覚が生々しい。車が逃げた後すぐさま道路が陥没してゆく描写にCOVID-19に対して無力な現状をつい重ねてしまう。家族がサバイバルする話と思いきや、どんどん仲間が犠牲になり、ひどいことばかり起こる中で主人公の少女はとにかく生存する。根拠も成長もあまりない。大麻カレーとか無人島のラップ合戦などの奇妙なディティールに背中を押されながら、アニメでしかできない大災害の描写を見続けるヒリヒリした時間は特別なものだった。
続けて『梨泰院クラス』、『攻殻機動隊』シリーズを一気見してしまい、『呪怨:呪いの家』を加えて、何時間費やしたのかよくわからない。みなすばらしい。周囲にも同類が多く、2009年にTwitterが一気にポピュラーになった頃と似た雰囲気である。NHKを除いて無料という地上波の武器の優位性が完全に揺らいできた。どのジャンルでも、理詰めで消費者をマーケティングすればするほど「無意識」から遠ざかってしまう。24時間、テレビに起こる「事件」を追っていたナンシー関は、完全にターゲットを絞って制作されている番組ばかりが揃う現状をどう見るか、とても気になる。

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『私の家政夫ナギサさん』は、多部未華子が製薬会社のMR(医療情報担当者)アラサー女子・相原メイを演じる。隙のない営業スタイルで成績はトップを続けるが、私生活では片付けられない女。男は外、女は内という時代の価値観ゆえキャリアを積めなかった母の美登里(草刈民代)から、「もっと上を目指しなさい」という呪いの言葉をかけられて育った。しかし、母は母でメイと同じく家事が苦手で、母親らしい振る舞いができない負い目があり、妹の唯(趣里)も大学時代のデキちゃった婚を許されず母親と疎遠になった。
毎日何人もの医師に会い、隙あれば薬の効用をプレゼンし、夜は資料を読み込む「バリキャリ」のチームリーダー・メイの日常に余分な時間はない。見るに見かねた唯が家事代行サービス会社の同僚、50歳の「スーパー家政夫」鴫野ナギサ(大森南朋)を送り込み、メイの暮らしは少しずつ変化してゆく。大森南朋はほっこりする役にぴったりだった。
ナギサさんの家事力は半端ない。メイとの初対面はブラジャーを手にしている瞬間で最悪だったが、掃除、洗濯、炊事、片付けという基本を短い時間できちんとこなしてもらううちに、生活のクオリティが上がってゆく。それどころか、家事労働を軽視する美登里の先入観を改め、母娘のこじれた関係も改善するなど、活躍は目覚ましい。いつも冷静で、メイが多忙で倒れた時も美登里に「メイさんに必要なのは私ではありません。私もお母さんになりたかったのですが、ホンモノには敵いませんから」「何をしてあげて良いのかわかんないんです」「そばにいてあげるだけで良いんです」という素晴しい言葉を贈る。
このドラマでは、婚活に必死でいろんなお稽古事に通う同僚の陶山薫(高橋メアリージュン)の追い込まれ方も含めて、都市に生きる現代女性がいかに多様な課題に向き合う日々を送っているかが「ラブコメディ」という体裁で提示されている。短い20代を悔いなく生きるためには「家政夫」が必要なのか。母の世代もまた、別の人生があったはずなのに、という想いを抱えている。元MRの「お母さんになりたかった」ナギサさんは羨ましいほど達観しており屈託は見せない。ちょっと心の闇を見たいもので、この先を見逃せない。ライバルMR役の田所優太を演じる瀬戸康史のソツのなさは、新入社員の瀬川遙人(眞栄田郷敦)と共通しているが、イマドキ男子の葛藤もこのドラマの世界の中で覗いてみたい。

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火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』 TBS系  火曜よる10時放送



『未満警察 ミッドナイトランナー』は、神奈川県警察学校片野坂教場の生徒、本間快(中島健人)と一ノ瀬次郎(平野紫耀)のバディが主人公。2人は社会に出た後に警察官を目指し、動機は切実なはずだが、なぜかルールを逸脱し事件に巻き込まれて、常に退学寸前になってしまう。合否にかかわるマラソンで、転んで捻挫した快を次郎がおぶって走るという導入部により性格がくっきり出て見事。2人は寮の向かいのアクアショップにいた美女・楓(真木よう子)から目が離せなくなり、つい覗いているうちに男が楓を殴りつけているところを目撃してしまう。覗きは褒められるものではないが、ついつい身体が動いてしまう若さが眩しい。
初めての外泊日に車で連れ去られる美女を目撃して、車を追いかけるうちに少女監禁事件に出くわすなど、何かをやらかす運に恵まれて、会社員では役に立たなかった「意識の高さ」で事件を客観的に分析できる快と、圧倒的な身体能力と運動神経で局面を打開する次郎のバディの仲が深まり、教官の片野坂譲(伊勢谷友介)が羨むほどの活躍を見せる。第3話、無茶苦茶強い謎の男・柴本(加藤雅也)を2人で追い込んでゆくアクションは爽快だった。
感電殺人、少女監禁、カウンセラー殺人犯・指友指助、スコップ男など、カラフルで難解な事件が多く、第4話で「指友指助はひとりじゃない」と、片野坂と同期の刑事・柳田晋平(原田泰造)とほぼ同時に、携帯メールの文章の微妙な違いで見抜いた快の推理に感心した。冤罪を着せられた父(佐戸井けん太)を助けるために警察学校に立てこもった姉(長谷川京子)と弟(柿澤勇人)を信じて、人質となった片野坂と助教の及川蘭子(吉瀬美智子)とともに姉弟を助けようと立ち上がる心理ドラマもスリリングだった。
韓国映画が原作。警察学校は物語の場にぴったりだと判明した。中島健人と平野紫耀というジャニーズの未来を担う2人が年齢とキャリア相応の役を得て躍動する。青春群像劇としても機能するのがミソで、同期の女生徒さやか(竹内愛紗)が警官になるのを諦めて去ってゆく時の涙は切なかった。事件に巻き込まれるたび、快の眼鏡がひとつずつ割れてゆくお約束が面白い。2人の真っ直ぐな正義感に警察官の原点を見る片野坂の視線も温かい。細部まで計算し尽くされた娯楽劇、最後までスピードを落とさずに突っ走って欲しい。


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土曜ドラマ『未満警察 ミッドナイトランナー』 日本テレビ系 土曜よる10時放送



『親バカ青春白書』は、娘が好きすぎて一緒の大学に入ってしまう小説家・小比賀太郎(ムロツヨシ)のお話。「人生100年時代」ならありうるかもしれない。おびかたろうを、読み間違えられ続けて綽名はガタロー。元東大生で学生時代にデビューしたが、売れたのは映画化された『モヒカン親父とカニ缶息子』一冊だけで細々と作家業を続けている。学生結婚した妻の幸子(新垣結衣)を早く亡くし、男手ひとつで娘のさくら(永野芽郁)を育ててきたが、せっかく女子校で純粋培養してきたのに大学は共学を選び、「悪い男」に騙されないか心配で入試を受けて合格した。さくらは母親に教えられた梅干しの味を守り料理上手で、間違いなく理想の娘。父親としてモラトリアムを長引かせたい一心だが、大切な妻を亡くした傷からの猶予という面もあるかもしれない。
脚本統括・演出は絶好調の福田雄一。教室でずっとスマホ画面を眺めていたりとか、サークルの入会案内をやたら受け取りまくるとか、思い切り浮きまくるガタローを眺めていると何故か安心する。「喧嘩長屋」をネタに使いパーティで男子学生に襲われたさくらと友人の山本寛子(今田美桜)を救い、ついでに学校でその落語を披露して部員不足の落研を救うなど、ガタローの活躍は無双で、キャンパスライフを一番謳歌している。
さくらと寛子は最強の女学生コンビで、画面は常に華やかである。寛子と知り合うことにより、娘にGPSを付けている自分の家が普通でないと知るが、結果的に危機を救ったわけで、ムロは「普通なんてクソ喰らえだ!」と叫ぶ。さくらが想いを寄せる畠山雅治(中川大志)は自分が「普通」であることが悩みで、破天荒なガタローが好き。裏テーマは「普通とは何か?」のようで、どう発展させるかが楽しみだ。
回想シーンに登場する「星になった」幸子の透明な美しさは相変わらずで、熱い夏に放映される大人の童話に輝きを加えている。さて、父娘関係がドラマの終わりにどう変化しているか、手練れの制作陣の妙技に期待大だ。


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日曜ドラマ『親バカ青春白書』 日本テレビ系  日曜よる10時30分放送



今回地上波らしいドラマを意識して3本選んでみたが、もっともテレビ的だった出来事はやはり、三浦春馬の死だろう。まず昼間、スマホでニュースを知ってともあれ驚き、夜『コンフィデンスマンJP ロマンス編』の映画を見るという流れはつらかったものの、最後までチャンネルは変えなかった。印象はより鮮明に刻まれてゆくが、本人はすでに旅立っている。松岡茉優との新ドラマや新作映画の公開など仕事が続く中、なぜと問うても詮ないことで、主演映画の『東京公園』も見直して、島田雅彦と共演しているシーンに胸を突かれた。爽やかだけれど、どこか儚い風情もある。夭折でなければ大分受ける印象違っていたはずだが喪失感は大きく、メディアに塗れて暮らす自分を再確認した。当たり前のことだが、すべてのテレビ番組を見ることができる人間はこの世に存在しない。ナンシー関は、あらゆる番組が折り重なって組成される無意識の奥まで見ようとしていたのだろう。生者も死者も、何もかも吸い込んでゆくメディアの闇は、どこかに存在している。
 
毎月、下手な俳句でお目汚ししてきたが、今回は7月10日に亡くなられた歌人・岡井隆さんの歌を一首紹介して結びとしたい。岡井さんの如く、短歌という韻文の一形式、そして文学と人生の甘さと苦さを深く味わい尽くされた方を知らない。92歳、ほんとうにお疲れさまでした。ゆっくりとお休み下さい。

 五十年後の電話
 五十年前の青年からだらう電話は鳴りつづけてるが取らない


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風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。