Television Freak 第53回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、火9ドラマ『探偵・由利麟太郎』(カンテレ・フジテレビ系)、金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)、木曜ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の3作品を取り上げます。
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例外状況


 
文=風元正


プロ野球とJリーグが相次いで開幕した。どちらも無観客。フィールドで選手たちの声がよく響く。中継で観衆の声を流しているチームもあるが、野球ならばベンチの声が大きく、サッカーではお互いの指示がよく通り、新鮮だった。ただ、客席を埋める人形とかは勘弁、という気もするし、無観客はどうにも試合の質が軽い印象を受けてしまう。ボールがよく飛び本塁打がたくさん出るのはなぜだろう。
素質の高い選手たちは、子供の頃から大勢の前でプレイするのは当たり前。観客がいない方が不自然だから戸惑いも強いだろう。野球でもサッカーでもリズムがやや早目でゲームがポンポン進んでゆき、練習試合の空気が抜けない。少しずつ観客が戻ったらまた変化があるのか興味はあるものの、エキサイティグな見世物が戻ってきたという印象は受けなかった。やはり、ヤクルトの村上宗隆や日本ハムの野村佑希などバットを思い切り振るイキのいい打者たちをスタンドで鑑賞したい。
やり玉に上がるのが嫌で話題にしなかったのだが、緊急事態宣言下でもずっと競馬は行われており、競馬の内容にまったく影響がなかったのには驚いた。デアリングタクト、コントレイルという2頭の2冠馬が生まれた割には盛り上がらなかったとして、どちらも比較的イレ込み易い気性だったから、大歓声のない方が馬は落ち着いていい。売り上げはそう変化していないし、競馬は観客がいなくても成り立つ時代に入った。
ガラ空きの東京ディズニーランドとか、ちょっと前なら信じられない光景が目の前に繰り広げられている。スタジアムでビール、というかつての日常が戻る日はいつか。久々に観客を入れた試合を見たら、選手たちの集中力があまりに違っていて驚いた。観客の力は偉大だ。 


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ドラマの出演が増えて、吉川晃司の存在感が増している。横溝正史原作の主演ドラマ『探偵・由利麟太郎』で地上波連続ドラマ初主演。遅すぎるが時代に易々と身売りするのを拒んできたのかもしれない。白髪が眩しい由利は元警視庁捜査一課長という肩書を持つ犯罪心理学者。身体にぴったりの白いシャツにベスト、裾が足首の辺りまである黒いロングコートを着ているが汗などかきそうにもなく、先端恐怖症だが弓の名手で、長い脚で殺伐とした殺人現場を颯爽と闊歩する。「若いと愚かは同義語だ」とか「そこには思い出が座っている」と口にして似合う俳優は珍しい。 
祇園のクラブのホステスが“黒い影”に襲われる悪夢を繰り返し見る第2話のスタイリッシュな映像が愉しい。借金を抱え「危ない」仕事に手を出している女は、シャンパンで客が乾杯を交わす中、血まみれの同僚がドアを開けて店に入ってくる「予知夢」に絶叫する。セピアがかった画面に花束が並び、白川が流れる京都の街並みが美しい。由利は昭和モダンの家具に囲まれた部屋でSPレコードを聴き、助手のミステリー作家志望の青年・三津木俊助(志尊淳)はベスパを駆って右往左往する。トカゲの入れ墨が入った女の腕や部屋の中に浮かぶ眼球など、豊富なディティールに目を奪われている間に由利の超人的な観察眼は「的を得て」謎が解かれてゆく。
カラフルな死体で彩られている第3話の「ピンヒールキラー」では、靴のイメージモデルに決まった女性(村川絵梨)が料理研究家志望の夫・恭介(浅利陽介)に「あなたはいつも人の言葉を聞かない」と冷たく言い放つ瞬間も生々しく、各話、恨みを募らせてゆくプロセスに説得力を感じる。由利の部屋の家主である波田聡美(どんぐり)の骨董品店も作りこまれていて、大学時代の同期の等々力警部(田辺誠一)も雰囲気に合っているし、横溝作品らしい浮世離れした味わいが応えられない。遺伝子研究学者を演じる第1話の中村育二の禍々しい顔芸も忘れがたい。
由利の傍らで、人の心の裏側を学ぶ三津木がしゃべると、ぱっと明るくなるのが不思議だ。どんな小説を書いているのか、ちょっと興味がある。全編に漂う「夜」の気配にずっと身を浸していたい。

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火9ドラマ『探偵・由利麟太郎』 カンテレ・フジテレビ系 最終回7月14日よる9時放送



『MIU404』は、「警視庁刑事部・第4機動捜査隊」という24時間がリミットの初動捜査を担当する架空新部隊に所属する伊吹藍(綾野剛)と志摩一未(星野源)のバディが主人公。“404”は機動捜査隊員の2人を指すコールサインだ。伊吹は頭で考えるよりも先に身体が動いてしまう「野生のバカ」で刑事として上を目指しており、志摩は観察眼と社交力が高い理性的な刑事だが、捜査1課で何らかの問題を起こして移動させられたようで微妙なポジションにある。
第1話、まだ手探りの2人がパトカーで街中を流していると、あおり運転の車の危険行為に遭遇し、いきなり前に回り込む警察と思えぬド派手な止め方をしたりする。「機捜」の目線からすれば、街は犯罪のサイン(=前兆)に満ち溢れている。伊吹は鋭敏なセンサーを持ち、異変を見逃さず、ともあれ違和感を追っかけてしまう。志摩は「法」を適用することにより伊吹の逸脱行動を正当化する論理を見つけるが、最後にはより熱くなったりする。犯罪は起こりつつある時こそ一番手がかりが多いわけで、脚本の野木亜紀子の着眼点は相変わらず鋭い。
第2話が秀逸だった。殺人事件が起こり、例によって伊吹が一瞬だけ見えた容疑者の服の袖をきっかけに「車中立てこもり事件」を発見し、メロンパン販売車で追尾する。しかし、ハウスクリーニング会社で働く加々見崇(松下洸平)に脅されているはずの田辺将司(鶴見辰吾)と妻・早苗(池津祥子)の様子がどうにもおかしい。「24時間」の制約の中で、ただ車を追尾してゆくうちに登場人物の生の真相が明らかになってゆく。松下は寄る辺ない負の感情を抱く人間を演じさせたら絶品だ。
「機捜」のもうひとつのバディ、陣馬耕平(橋本じゅん)とものすごいハンサムの九重世人(岡田健史)の動きも緻密に計算されている。九重は父親が警察庁刑事局長で自身もキャリアの新米で頭がよく、先輩たちの捜査手法が無駄に見えて仕方ない。セリフとしてしっかり批判させた上で、陣馬が黙って結果を示すことにより、黙って現実の複雑さを伝えてゆく。やがて、機動捜査隊を四部制にした立案者である桔梗ゆづる(麻生久美子)の真意が明らかになってゆくだろう。今や、麻生は画面に登場するだけで華のある俳優である。
『コウノドリ』からのコンビである綾野と星野のセリフのやりとりは名人芸の域だが、「秩序」をなぜ、どう守るか? という刑事ドラマでは珍しい本質的な問いへの娯楽番組としての答えを見たい。

 

 
『BG~身辺警護人~』新シーズンの第1話を見てびっくりした。あの「日ノ出警備保障」が劉光明(仲村トオル)率いる「KICKS CORP.」に買収されて、島崎章(木村拓哉)は「KICKSガード」身辺警護課に転籍していたのだ。経営方針も一変し、クライアントは政財界のVIPに限定する。同僚の高梨雅也(斎藤工)、菅沼まゆ(菜々緒)、沢口正太郎(間宮祥太朗)も、勝手の違う新体制にそれぞれ微妙な距離を感じながら警護の従事している。
そんなある日、章の元へ服役中の大学元講師・松野信介(青木崇高)から警護を希望する手紙が届く。上司の小俣健三(勝村政信)は会社の方針を盾に反対するが、章は依頼に応じたい。その上、不審者を撃退した国会議員・桑田宗司(小木茂光)のパーティでの警護に信じがたいウラがあるのを知り、「KICKSガード」を退社して「島崎警備」を立ち上げ、私設ボディガードという道を選ぶ。息子の瞬も心配する急展開。
リスクを回避し卑劣な手段を使ってでも要人たちに食い込もうとする劉。依頼人に徹底的に寄り添おうとする章の正義が通って欲しいが、世の中はそれほど単純でもないぞ、という声も聞こえてくる。依頼人たちもクセ者揃いで、ロックがかかった実験室で研究員・伊丹綾子(竹島由夏)を窒息させた容疑がかかり、世間から散々叩かれるも、最終的には業務上過失致死罪で禁固刑に処された松野も、他人には見せられぬ闇を抱えており、章が前兆を感じ取っていなければ命を落とす可能性もあった。「ボディガード」を突き詰めてゆくうちに章は少しずつ居場所を狭められ、見るにみかねた高梨はバディを買って出る。
「目の不自由な天才ピアニスト」守尾恵麻(川栄李奈)の警護という大仕事が回ってきたのも「KICKSガード」が断ったからで、肝心の恵麻本人が車に突っ込んだりするから手に負えない。街中で襲撃され、恵麻を抱きかかえて石段落ちというアクションの見せ場もあるが、クライアントの心の中に入り、夢と希望も身体を張って守る柔軟な警護手法にドラマの妙味がある。第3話、投資詐欺犯の実業家・道岡三郎を演じる豊原功補がはまり役で、さんざん危ない橋を渡ってきて大暴れしながら、最後に良心を見せてふっと肩の力を抜いた表情が万感籠っていた。整形外科医の市川実日子との掛け合いもいい感じで、木村拓哉は確かな成熟に向かっている。
経営陣に入ってしまう菅沼の運命も含め、「色悪」が似合うようになった仲村トオル演じる劉がどう章を追い詰めてゆくのか、期待は大きい。

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木曜ドラマ『BG~身辺警護人~』 テレビ朝日系 木曜よる9時放送



最近、蔭山宏の『カール・シュミット ナチスと例外状況の政治学』を読み、「例外状況」という概念に突き当たった。第1次大戦後のワイマール共和国期はナチのイデオローグになり、戦犯として追放された政治理論家が近年、再び脚光を浴びている理由は、世界が「平時」の思想では追いつかない状況に入ったからだ。近頃の「暗黒」思想もすべてシュミットに淵源を求められる。
シュミットの理論は「『例外』とは極限の、あるいは極端な事例であり、政治における『例外状況』とは現行の法秩序が停止される状況を意味し、時には人びとの生死が賭けられている状況にもなる」という認識から出発している。あらあら、「緊急事態宣言」とか「テロのとの戦争」の理屈とそっくりではないですか。
石井妙子の『女帝 小池百合子』がベストセラーになっても、「例外状況に関して決定(決断)を下す者」である「主権者」の姿を示した現職都知事にほかの候補は歯が立たない。あるいは、わざわざ自分から例外状況を作ろうとする為政者もいる。都知事選の日、球磨川の濁流を呆然と眺めながら、我々にマスクなしで「鎖国」もしない「平時」は帰ってくるのか、溜息が出てきた。とはいえ、あの9・11からもう20年、「平時」の味を知らぬ若者たちも育ってきている。
今回取り上げた3つのドラマもすべて「事件」という「例外状況」の優れたケース・スタディだった。

 母鳥が蓮の葉揺らす川の闇


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風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。