Television Freak 第46回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。ロックバンド「湯浅湾」のライヴのことから始まる今回の記事では現在放送中の連続ドラマから『俺の話は長い』(日本テレビ系・土曜ドラマ)、『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~ 』(NHK総合・金曜ドラマ10)、『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京系・金曜ドラマ25 )の3作品を取り上げます。
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(撮影:風元正)


画像の中で、「生き生きと生活している」こと



文=風元正


12月4日の湯浅湾ライブは脳天を撃ち抜かれる出来だった。楽器で大きな音を出したい、思う存分歌を歌いたい、という始まりの衝動をここまでピュアに演奏で表せるバンドは珍しい。「人間の仕事はせこくてずるい 人間の空気はうすくておもい/人間の勉強はたるくてくどい 人間のねどこじゃごろごろできない」と「ひげめばな」を歌い出す湯浅学の声は野太く、猫とは似ても似つかない気もするが、委細かまわず声を張りギターを掻き鳴らす姿には長く音楽とがっぷり四つに組み続けてきた年輪がにじみ出ていた。私は、湯浅が南沙織の「17才」を数え切れないほど聴いた人間であることを忘れない。
牧野琢磨のギターがキレキレだった。速弾きの限界に挑戦する爆発的な演奏で、酸欠にならないか心配になった。谷口雄のポップさは柑橘果汁のみずみずしさ、山口元輝・松村正人のリズムセクションの前に出る安定感も際立っていた。湯浅が「ミック・ジャガー気分で」と照れながらハンドマイクで歌う仕草も初々しく、こういう還暦の越え方もいいなあ、と素直に羨ましくなった。後半弾いていたテレキャスター風のギターは、『ホロウボディ』(=中に空洞のあるボディ/楽器)というタイトルの新作詩集を出したばかりの朝吹亮二作である。
新作『脈』もぜひ聴いて欲しい。「ひげめばな」MVを貼っておく。






『俺の話は長い』は6年前に大学中退して起業した珈琲専門店を潰し、死んだ夫の遺した「軽食喫茶ポラリス」を営む母・岸辺房枝(原田美枝子)と同居するニート・満(生田斗真)が主人公。31歳の満は小銭貯金箱の底を浚い、母に500円玉にするのを断られ信金で両替してスタバでコーヒーを買い、川っぷちで岩波文庫を読んだり、無為な日々を過ごしているけれど、母の店を継ぐのだけは「絶っ対に嫌」。「プライドだけは超一流」なのだ。姉の丸の内バリキャリ・秋葉綾子(小池栄子)が、マイホームの建て替え完成までの3ヵ月、夫の光司(安田顕)と娘の春海(清原果那)とともに同居する許可を得ようとすき焼き肉を携えて岸辺家を訪れる日から話が始まる。
満はすき焼きという料理法が嫌い。それを忘れ、房枝と春海の好物という理由で水沢牛を用意した綾子に「立場を考えて欲しいんだ立場をね。姉ちゃんは相談する方、俺はされる方。仕事で相談事があったとしようよ。何か手土産を持って行こうと思ったら相手の好き嫌いを入念にリサーチするでしょう。クライアントの嫌いなものを持ってくってビジネスの世界で一番やっちゃいけないことでしょう」。で、バツ1の綾子は「ニートの分際でビジネス語るんじゃねえよ」。とまあ、短くしてみましたが、全編この調子でへ理屈全開だけど憎めない。登場するみなさんが腹蔵なく自己弁明するうちに現代家族の問題が浮かび上がってくる、という仕掛けで、脚本の金子茂樹は素晴らしい仕事をしている。「はっ、じゃあ満は6年間フル充電してたのに1度も掃除に出掛けなかったルンバと一緒だよ」とか、愉快なセリフがてんこ盛り。
1話30分で1週2話という形式のこのドラマ、全体のストーリーはあるとして、見る側としてはバンドの演奏を1曲ごとに聴いてゆく感覚に近い。練達の役者たちのアンサンブルやいきなり始まるソロに目が離せず、その意味で、こちらもダメ男の光司が夢を諦め解散した「ズタボロ」のベーシストという設定はぴったり。中学校を登校拒否中という春海役の清原果那に「どうして人生の大事なことに限って誰も教えてくれないんだろう?」と夜の海で泣かれてはたまらない。今、日本一の思春期女優。春海におとうさんと呼んでもらえない光司に綾子がいつも怒るのにちょっと引いたが、さすが名優・小池栄子。会社に馴染めずニートになった光司のやるせなさに歩み寄り、夜道をベース背負い夫婦で並んで歩く背中には感動した。房枝役の原田美枝子も細部は抜けても大きく強く家族を抱擁する母親を好演し、すでに人生に倦怠している中学生の高平陸(水沢林太郎)など脇役陣も充実している。
和室と畳と障子とちゃぶ台のある日本家屋、バーと喫茶店のカウンター、川べりの道……つい小津安二郎の世界との共通性を持ち出したい誘惑にかられる。でも、影響関係を指摘するより、日本の家族の葛藤と幸福を描こうとすると、なぜか似た舞台で撮影することになると考えた方が興趣深い。灰色のスウェットを着た満と光司、そして春海が加わり、「綾子の財布は魅力的」と「出世払いの歌」を歌い出すシーンは奇跡的に美しかった。すべて、満の人間力の成せる業ということで納得です。さて、元カノと占い師に揃って「やれ」と命じられた満の運命は?

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土曜ドラマ『俺の話は長い』 日本テレビ系 最終回12月14日(土)よる10時放送 



私は畑村洋太郎先生が提唱した「失敗学」の信奉者である。いや、お前の日常生活は失敗だらけではないか、と謗られれば頭を垂れるほかないとして、ギリギリ踏み止まれているのは先生の教えのお陰かもしれない。それゆえ、『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』の主人公、天才工学者・天ノ真奈子(松雪泰子)の活躍に見惚れ、番組が終わるとつい落涙してしまう。ロボット工学など最先端の研究で引っ張りだこ、ノーベル賞級の科学者とツーカーの大研究者なのに、金にならない第三者委員会「事故調」に熱中するのは、教訓が得られる「失敗」が大好きだから。キャラクター設計が秀逸で、長い三つ編みの眼鏡女子が瞳を輝かせながら「私、失敗しちゃった」という決めセリフを発するたびに胸がすっとする。
「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」というハインリッヒの法則は人生の真実。古今東西の失敗事例を頭脳にアーカイブしている真奈子は、新たな事故が目の前にあると夢中になり、過去に大失敗の経験のある優柔不断な若い助手・野津田燈(堀井新太)を振り回す。アメリカから帰国した真奈子との才能の違いを痛感し、工学者の道を諦めてアシストに徹する辻留志保(須藤理彩)の目を盗んでは大規模な事故の再現実験を企てて顰蹙を買っているが、「世話になるなら死んでもいい」という位嫌っている母、国立工学創造センター長・南雲喜里子(余貴美子)の掌の上で転がされている気配もある。
第2話が秀逸だった。中学校の学校給食で食中毒が発生したが、どこでハムに熱に弱い黄色ブドウ菌が付着したかわからない。バツ3の助手・西峰郁美(高橋メアリージュン)のクールな息子・輝樹に、食中毒の理由が不明だからハムを食べられない、と言い放たれ、製造工程を辿る旅が始まる。工場の安全管理は一見万全。輸送車に乗って体制を確認し、ハムの供給先で味まで確認して良心的な牧場だと知り、さて綻びはどこにあるのか。
謎は番組に譲るとして、手袋が足りないと訴えるパートを邪険に扱うリストラ候補の工場長・江島(嶋田久作)と全方面に物分かりのいい部長・片山(宅間孝行)の対比が鮮やかな上、社長の木船(友川カズキ)のワンマンぶりが鑑賞できて大満足。
会議は大嫌い、物的証拠のない安易な推測は一切跳ねのけつつ、現場の労働者とともに楽し気に原因を探す真奈子が躍動している。それにしても、コスト削減や人手不足など、組織のしがらみにより大きな過ちに手を染めてしまう登場人物には同情を禁じ得ない。いつか、「法律上の責任をどうこう言うつもりはありません。ただ、この失敗をあなたの宝物にして下さい」という正論が尊重される、風通しのいい世の中が訪れることを望みたい。

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ドラマ10『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』 NHK総合 金曜よる10時放送



『ひとりキャンプで食って寝る』は、大木健人(三浦貴大)と七子(夏帆)が隔週で登場。タイトル通りひとり、健人は缶詰料理を作って食し、七子は現地で獲物を狩って食す。2人の性格は対照的。健人だと第5話が白眉で、台風で外出不能となり、新しいテントを買って家の中で張っていたら、友人の高田武志(福士誠治)が突然訪ねてきて、「何かつまみないの?」。何種類もある買い置きのサバ缶の出番。武志は最初引くが、いったん口をつけるとやめられない。求められるまま料理までし、まだ入っていないテントに寝られて、突然の彼女からの呼び出しで去る際、キャンプをしたくなった武志に元カノのテントも持ち去られてしまう。友達の嬉しそうな顔を見ると満足してしまうとして、雨の中ひとり部屋に残されるとやはり寂しい。ああ、キャンプだったら! しかし、せっかく飲み会で同じ趣味の遠藤早希(黒川芽以)を誘い、野外でのもてなしに感動されても、2度目はない(第7話)。テントで寝る彼女に布団をかけてあげる優しさが仇なのか……。
七子の積極性にはドラマでもヒヤヒヤする。海でも山でも魚を釣り、山菜もキノコもクレソンも摘む。車のカギをなくし、肉を食せなくて友達が帰っても構わない。思うように釣れなくても、磯場でカニを獲っていた中学生・宗太が手伝ってくれて、ついにはお目当てのメジナもゲットし、どんどん食べる。ぎっちょのお箸が印象的。丸ごとの蟹汁やお得意の新鮮野菜の天ぷらなど、超絶美味そうな料理ばかり。第8話では、会社のキャンプを率いるも、「女子力」と「邪道」か「本道」かに拘泥し、部下の由紀(柳英里紗)に陰でウザがられている上司・健介(川瀬陽太)が夜、ひとりで汚れた鉄板の後始末をするなどいい面もあるのを知り、翌朝、ヤマメのいる場所におんぶされて連れて行ってもらうなど、とにかく大胆だ。
こちらは野外で起きる意外な出来事に目を奪われたまま時が過ぎてゆく感じなのだが、やがて、「ひとり」になりたい心情がじんわり伝わってくる。つい2人に同調してしまう私も含め、「令和」日本はかなり煮詰まっているのか。危うくカラフルなキャンプ用品を買いに行きそうだ。

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ドラマ25『ひとりキャンプで食って寝る』 テレビ東京ほか 金曜深夜0時52分放送



たまたま小津安二郎の戦後語録を眺めていたら、驚くべき記述に出会った。「あるいはまた、これまでの俳優の場合で二枚目が、ちょっと二枚目らしいしぐさをしたり、表情をしたりすると、あいつは素材はいい、マスクはいいが、嫌な奴だという気がおこる。そうでなく、素直に動いていて、なにげないところで素晴らしいものを見せてほしいと思っているのだが、なかなかそうはゆかない。/(石原)裕次郎君の場合は、たぶん、自分のからだのおもむくままに、カメラに対して大胆で、カメラを意識しないで、からだをはってやってゆくところがあるのだろう。そして、そういうところが新しさとしてみんなに感じられているのではないかな。何々らしさ、何々らしさ、それがいちばんいけないのだ。大事なことは、スクリーンの中で生き生きと生活している、ということなのだ」(「石原裕次郎に想う」)
長くなって申し訳ないが、至言。付け加えることはない。小津は、私が「素」や「実況」という言葉で名指そうとしていた何かの遠い先を走っていた。まだまだひよっ子なり。
 
静夜や秋刀魚の味はまた苦し


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(撮影:風元正)


風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。