妄想映画日記 その95

boidの社長日記「妄想映画日記」95回目です。みっちりつまった爆音調整スケジュールで、利府、堺、新宿、京都へ移動した9月後半。会場によって楽しみ方が違い、それぞれの特性を生かした音作りに。新宿ピカデリーでは音飛び問題が発生したために機材チームは徹夜で原因究明に。
文・写真=樋口泰人


9月16日(月)
せっかくの休みだから何かしようと思ったが、結局何もできなかった。段ボール好きの白いほうの猫がコンパクトな箱の中に納まっていた。

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9月17日(火)
久々の事務所で、事務作業、諸連絡で1日が終わる。帰宅すると猫のゲロが出迎えてくれた。後に、犯人は黒いほうであることが判明する。

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9月18日(水)
昼から湯浅湾のニューアルバムのジャケットづくりのためのミーティング。普通のプラケースでもいいのだが、やはり結局紙ジャケで特別仕様。印刷所の方もいつものルーティーンではないので何となくうれしそうでもある。とはいえ一体いくらかかるのか。かつてのように物体としてのレコードやCDが売れていた時代ならともかく、今これをやるのはそれなりに覚悟がいるが、それくらいのことはしないとboidから出す意味はないともいえる。映画も似たような状況だ。製作者がその出口を含めて考えなくては。



9月19日(木)
利府へ。天気予報を見ると最低気温12度とか書いてあるので警戒していたのだが、到着してみるとちょうどいい、まさに秋。爆音は、空族の山崎さんと一緒に調整。どれもいい感じに仕上がる。ただ以前より耳が確実に弱くなっているので、長時間の調整は厳しい。夜は疲れていたのかぐっすり寝た。

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9月20日(金)
利府の爆音調整の続き。尼崎の時も驚いたのだが、『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』にはやはり驚かされる。こんなことでもないと絶対観ない映画だが、とにかく大人気らしく利府の爆音でも3分で完売したとのこと。その勢いでMOVIX堺での爆音も決まったのだが、わたしはそのために利府の調整が終わったら仙台空港から関空へ飛び堺に入って深夜の調整をやらねばならない。初めての関空は土砂降り。第2ターミナルから第1ターミナルへの移動がそれなりの距離で、これはいくら何でも設計ミスなのではないかとしか思えないのだが、まあ、いずれにしてもこんな時でもないと絶対に関空は使わない。そして「ボヘミアン・ラプソディ爆音映画祭」のMOVIX堺のスクリーンは天井も高くゆったりしていて本当にいい響きがする。基本的に音が吸音される構造になっているシネコンの会場の中で唯一「ハコ鳴り」と言えるような会場独特の、その会場自体が音を出しているような感覚を味わえる。スクリーンと座席までの距離もたっぷりある贅沢なつくりなので思う存分音も出せる。まるで地の果てと言いたくなるようなすごい立地条件以外は、爆音に最適の会場である。その音のおかげで、疲れてはいたが十分に楽しみながらの調整ができた。

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9月21日(土)
さすがに頑張ったので大阪でうまいものを食って帰ろうと思ったのだが、思いのほか疲れていて、そのまま帰宅。寝る。



9月22日(日)
ぼんやりとしている。体が動かない。とはいえユナイテッドシネマとしまえん『アド・アストラ』。ブラッド・ピットのアップを観るだけで心がざわめくのだが、映画全体を覆って離れない疲労感、終わりのないこの憂鬱に身体丸ごと持っていかれた。宇宙もアマゾンもひと続きで、失われたものに向けて歩を進めるジェームズ・グレイの映画の大きさと小ささを、ひたすらかみしめた。たったひとりの孤独な魂の歩みをこれほどの壮大さで見せることのできる映画監督は、今どれだけの数いるだろうか。トミー・リー・ジョーンズとドナルド・サザーランド出演ということで、帰ったら『スペース・カウボーイ』を観ることにしよう。ブラッド・ピットがイーストウッドの映画に出演し、ご機嫌オヤジとなってへらへらしている姿を妄想する。



9月23日(月)
疲れが尾を引いている。1日中眠かった。夕方、元YCAMスタッフたちとともに久々にピワンに行った。今年初ピワンではないかという話になった。いつもSNSなどでやり取りしているのでそんなに久々だとは。確かに今年ピワンに寄った記憶がない。
ピワンに寄る前にレコードを何枚かかった。本当はイギー・ポップの新作が欲しかったのだがユニオンにもHMVにも見当たらなかった。発売前なのか? あのミニマルなリズムに言葉を載せて次第にスケールアップしていく感じを今身体が求めている。ザ・ルーツの連中をバックに歌った映像がYouTubeに載っているが、アルバムでは違うメンバーのようだ。

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9月24日(火)
深夜、新宿ピカデリーにて翌日からの爆音準備。会場も広くなり、セッティングも変わり、音の抜けがよくなって包み込まれるようなありがたい爆音になった。すっかりご機嫌での夜明けの帰宅となったのだが、もちろんその時は翌日からのトラブルは知らない。

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9月25日(水)~28日(土)
爆音後は神経が高ぶってなかなか眠れないのだが、この日も3時間くらいで目覚める。暑い。ぼんやりしながら事務所で事務仕事。夕方から、10月に製作に入る映画の打ち合わせ。その後帰宅してちょっと寝て新宿ピカデリーに出向くと、音飛びがしたとの知らせ。昨年も同様な症状で、ミキサーにカード挿入や電源を変えることによって回避できたと思っていたのだが、会場が変わるとそれもダメ。とにかく上映終了後、あれこれ試す。そして当たり前のように、チェックの時はエラーが起きない。明日以降の作品の調整もしなくてはならない。とりあえずの応急処置をして、やらねばならない調整を終えると朝6時。3時間後には本番。機材チームは寝られない。これが3日間続き、ようやく作業4夜目にして、原因が突き止められる。結局は電源の問題だったのだが、電源自体を変えることはできないので、電源に朝と夜に乗るノイズをどうやって回避するかという解決策しかない。再び試行錯誤がはじまる。



9月29日(日)
土・日は音飛びは出なかった。無事回避できたと思われたのだが。いずれにしても京都の爆音準備が始まるため、夕方には京都入り。夜はみなみ会館に行って1番シアターの通常上映の音の確認を。オープン前に調整はしたものの現在上映中の作品でどんな音になっているか。微調整を加えた。相当いい感じになっている。京都に行ったら、一度みなみ会館を訪れてみてほしい。1番から3番まで、どれもいい音で上映中、観やすいし、こんな映画館が近所にあったらそれだけで贅沢、豊かな人生を送れると思う。
しかし一時は観光客が増えすぎて簡単には予約が取れなかった京都のホテル事情はここにきてオフシーズンはホテルの供給過多になっているのか、平日ならこれまでになく安い金額で泊まることができる。今回はお試しで、新しくできたホテルに予約してみたのだが、シングルで予約したものの広い部屋を用意してくれたものの、何となく無駄に広くて結局居心地は良くない。

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9月30日(月)
再び音飛びが出たという知らせが入るが、もはやわたしにできることはない。劇場でも上映前にこの件を告知してくれているということなので、現状ではわかっていることを説明して納得してみていただくのがベストだ。そしてこちらはMOVIX京都での調整を黙々と、しかし音がいい感じになってくるとそれなりに調子に乗りつつ盛り上がりつつわいわいと1日分を終了。京都は最前列がスクリーンにかなり近いため、どうしても最前列に音がぶつかって2列目以降と差が出てしまう。その差をできる限り少なくするために客席を行ったり来たりが案外運動になる。1日中映画館の中にいるとわからないが京都の昼はまだ夏のように暑い蒸し蒸しする。30度を軽く超えている。


樋口泰人

映画批評家、boid主宰、爆音映画祭プロデューサー。98年に「boid」設立。04年から吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。08年より始まった「爆音映画祭」は全国的に展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)、『恐怖の映画史』(黒沢清、篠崎誠著/青土社)など。