俚謡山脈の民謡を訪ねて 第4回

日本各地の民謡を収集・リサーチし、DJプレイやCD・レコードの再発を手掛ける2人組のDJユニット俚謡山脈(ムード山+TAKUMI SAITO)の連載。少年の頃に繰り返し聞いたカオスUKの曲頭に入っていたホンワカしたメロディーの原曲について大人になって知った体験から、個人が音楽を聴いて紡がれてゆく音楽体験を他者へどう伝えるのかについて、町田佳聲やSublime Frequenciesに言及して書かれています。

文=俚謡山脈

ムーミンとカオスUK

14才から15才にかけて、毎朝新聞配達のアルバイトをしていた。そのお金でCDを買うために。俺の音楽コレクションはそのようにして始まった。新聞休刊日以外は休み無しで働いて、稼げるお金は1ヶ月で1万円程度だったが、自由に使える1万円というのは当時の俺にとって素晴らしく魅力があった。月末に給料を受け取ると、町のCD屋さんに行って、あらかじめ注文していた商品を買う。俺が注文していたのは「レンタル屋に置いてないCD」だ。町にはレンタル屋もあって、そこで借りれるCDは借りてテープに録音すればいい。レンタル屋に置いてないCDというのは、ザックリ言うとパンクのCDだ。一番最初に注文して買ったのはピストルズ、そこからクラッシュ、ダムド、バズコックスと順々に買い集めた。パンクと名が付いていたら何でも買った。非常階段やクラスも。そんな風にして買ったCDは1枚1枚忘れがたいものだ。なんせ毎朝の労働の対価で手に入れたものなので、繰り返し繰り返し聴いた。

カオスUKのセカンド「Short Sharp Shock」もそんな感じで繰り返し聴き、当時から今に至るまでお気に入りの1枚だ。ディスチャージやGBHにあった、若干のメタル臭さもなく、スカスカしたサウンド。その後フリージャズや現代音楽までなんでも聴くようになって、主に民謡を聴いてる現在(42才)でも、ふと再生してしまう。アルバムジャケが印刷されたTシャツは、ハタチの頃に友達と交換して手に入れて以来、未だに着続けている。

その「Short Sharp Shock」だが、1曲目の“Lawless Britain”の頭にホンワカしたメロディーの曲、というかSEが25秒程度入っている。初めて聴いた時は「姫神(※)みたいな音楽だな…」と思った。そのホンワカしたSEが終わるやいなや、カオスUKのハードコアパンクが始まるのだ。

Chaos UK "Short Sharp Shock"

さて、時は流れて俺はレコード屋のバイヤーになった。新聞配達をしていた頃とあまり変わらず、「これヤバい!」「これはそうでもない…」という感じで日々音楽を聴いている。毎日たくさんのレーベルに商品をオーダーし、仕入れ、販売しているが、そんな中にFinders Keepersというレーベルがある。英国はマンチェスターに居を構え、パキスタンのサントラから中東のサイケ、オブスキュアなポストパンク、未発売に終わった商業電子音楽など、ジャンル問わず尖った音楽をファッショナブルな装いに包んでリリースしているレーベルだ。このFinders Keepersがリリースした南インドの映画音楽家ILAIYARAAJA(※)の作品集や、ターキッシュサイケのERSEN(※)の作品集なんかは、Soi48のパーティがスタートした当時のお気に入りで、確かSoi48の第2回か3回目ぐらいでFinders Keepersの作品だけで組んだセットを回したりしていた。仕事としても、Finders Keepersの作品に国内解説を付けて日本流通に乗せるということに取り組んだ。解説は俺が書き、デザインはSoi48の高木くんが担当する、現在俚謡山脈でやってるスタイルは、実はこの辺が源流になってるかもしれない。そんなFinders Keepersが2016年にムーミンのサントラをリリースした。ヴィンテージ電子音楽とサントラの復刻を得意とするFinders Keepersらしいリリースで、特にアナログ盤は可愛らしいジャケも手伝ったのか中々良いセールスを記録した。

ある日のこと、年に何度か訪れる「カオスUK聴きたいな~」という衝動がまたやってきた。新聞配達で買った日本盤CDはまだ売らずに自宅のCD棚にあるが、Apple Musicは便利である。仕事を終えて帰宅する道すがら、久々に「Short Sharp Shock」を再生すると、流れ出したのは果たしてムーミンだった。“Lawless Britain”頭に挿入された「ホンワカしたメロディーの曲」はFinders Keepersがリリースしたムーミンのサントラに収録された”The Moomin Theme”だったのだ。俺は衝撃を受けた。それは「元ネタを発見した」「関わりなさそうな2つが繋がっていた」という感動というよりも、「音楽はどこまで行っても個人的な体験でしかない」ということを突きつけられた気がしたからだ。カオスUKとムーミン、新聞配達とFinders Keepers、両者が描いたカーブがこのような像を結んだのは俺の頭の中だけだろうし、本当は全部の音楽がそうであると直感した。カーブが交わった瞬間、両者から「UKハードコア名盤」とか「カルト電子音楽発掘」といったジェネラルな肩書きは消えて、それが俺の脳に衝撃を与えたのだ。

Graeme Miller & Steve Shill "The Moomins Theme"

さて、最後に民謡の話になる。先日、来日したSublime Frequencies(※)のメンバー2人、Robert MillisとHisham Myettのトークショーに出かけた。彼らの審美眼、選曲の基準はどこにあるのか質問がしたかった。Sublime Frequenciesは世界各国の音源を独自な感覚でパッケージしてリリースしているアメリカはシアトルのレーベルだ。「独自な感覚」というのは、それまでは「伝統的」で「貴重なアーカイヴ」とされていた音源を、「音楽好きにとって魅力的な音楽」として扱った点であると個人的には思う。俺のフンワリした質問に、HishamさんもRobertさんも誠実に答えてくれた。Hishamさんは、「現地の人を綺麗なスタジオに呼んで録音するよりもっと良い方法があると思った」と話し、加えてRobertさんは「どんな方針で編集をしようとも、結局自分自身がミュージシャンであるということからは逃れられない」と語ってくれた。

民謡や伝統的な音楽を扱うとき、何が正しい態度なのか判断するのは難しい。「元の形」が残っている方がベターなのか?「古い物」ほどベターなのか?「現地の人」に親しまれているスタイルが「本物」なのか?例えば「懐かしい」という感情は完全に個人的な体験によるもので、決して一般化はできない。また、ある音源をして「古い貴重な」という評価をするのも、どこまでも相対的なものだ。どんなに古い音源でも、録音された時点では新しかったということを、我々はすぐに忘れてしまう。「日本民謡大観」の編集方針として、「同じ民謡の録音が2つ以上ある場合は古い方を採用する」というのがあった。研究というのはそのようにして客観的事実を積み上げていくものだが、個人的にシンパシーを感じるのは町田佳聲が「良い唄が録れるまで何度か録音させた」というエピソードのほうだ。「良い唄」という危うい基準を採用してしまうことが町田佳聲の魅力だ。町田佳聲は自身も三味線の演奏家であり、作曲も手がけるなどミュージシャン気質を持っていたことも無視できない。「客観的事実の積み上げ」に見えるアーカイヴも、実はそれを編んだ人物の個人的な体験から逃れることはできないのではないか?

カオスUKとムーミンが結んだ像のカタチが俺の頭の中にしか無いのと同様に、町田佳聲やRobert MillisやHisham Myettの頭の中で何と何が繋がっているのかはわからない。その上で「これヤバい!」「これはそうでもない…」を繰り返しながら音楽を聴き続けて行くしかないのだ。俚謡山脈はしばしば「民謡をふるさとから取り戻す」ってことを冗談混じりに話すことがある。それは実は冗談ではなく、「自分の頭の中にしか無い民謡」をどうにか他人と共有したいという気持ちから出た本音なのかもしれない。

※姫神 岩手県人にはおなじみの音楽ユニット。シンセサイザーを多用した幻想的なサウンドが特徴。

※ILAIYARAAJA 南インドはタミル語圏で栄えるロリウッド(タミル映画)を代表する映画音楽作家。16ビートとシンセが自在に駆け回るハイパーなダンスミュージックを無数に残している。

※ERSEN トルコにおけるサイケデリック・ムーヴメント、アナドル・ロックを代表するシンガー。Soi48パーティーのピークタイムに頻繁にプレイされていた。

Sublime Frequencies マーク・ジャーギスとアラン・ビショップを中心に運営されているアメリカはシアトルのレーベル。それまでのワールドミュージック的な視点とは一線を画すDIY&パンクな姿勢で東南アジアやアラブ、アフリカの音源を次々にリリース。非西洋の音楽を「単にヤバい音楽」として紹介し、エキゾチシズムから解き放った。

俚謡山脈

「ムード山+TAKUMI SAITO」世界各国の音楽がプレイされるDJ パーティ「Soi48」内で活動する日本民謡を愛する2人組DJユニット。日本各地の民謡を収集/リサーチし、DJプレイしたりCDやレコードの再発を手掛けている。主なリリースにMIXシリーズ「俚謡山脈 MIX VOL.1」~「VOL.4」、「田中重雄宮司/弓神楽」(監修/エムレコード)、「境石投げ踊り」(監修/エムレコード)など。ロンドンのインターネットラジオNTS LIVEに日本民謡だけで構成されたMIXを提供。農民ダイナマイト(山梨県)、大和町八幡神社大盆踊り会(東京)など各地のパーティーにDJで参加。

・MIXシリーズ「俚謡山脈 MIX VOL.1」~「VOL.4」

・CD/レコード監修:「田中重雄宮司/弓神楽」「境石投げ踊り保存会/境石投げ踊り」「木崎音頭保存会・クラーク内藤/木崎音頭」「葛西おしゃらく保存会、他/おしゃらく」