インターラボで仕事中 第5回

山口情報芸術センター[YCAM]の映像エンジニア/デバイス・エンジニア、今野恵菜さんによる「インターラボで仕事中」。今回は、通常のYCAM爆音とは会場を変えてミニシアターに機材を持ち込んで開催した「密室爆音」、長期休暇でのオーロラ観測、次回の企画のために訪れたNYにあるオルタナティブ・スクールSchool for Poetic Computation [SFPC]について。

文=今野恵菜

贅沢な密室爆音

3月8日から行われた「YCAM爆音映画祭2019 特別編:密室爆音」は、不思議な贅沢さを湛えたイベントだった。YCAMでは2013年以来、毎年夏の時期に館内最大のスタジオを使用した「YCAM爆音映画祭」を実施してきたが、「密室爆音」は、YCAMの中にあるミニシアター(通称スタジオC)で小規模な爆音上映をしてみようじゃないか!という今回初の試みだ。

ミニシアターであるスタジオCにはそもそも上映用のスピーカーがプリインストールされているが、密室爆音中は、映画を爆音たらしめるために運び込まれたスピーカーたちがスタジオ内にひしめき合い、スタッフからは「スピーカーの森」と評されていた。樋口さんの「前説DJ用ブース」の存在感もすごい


実はこのスタジオC、山口市内唯一の映画館であり、ほかの映画館は最寄りのものでもYCAMから車で30分程度かかる距離にある。故に、私を含めたYCAMスタッフは、業務だけでなく純粋なお客としてもこのスタジオCを頻繁に使用している。この「頻繁に使用している」という事実が、今回の「密室爆音」に不思議な贅沢さを宿らせているように感じた。空間のフラットな状態を知っているということが、爆音と通常上映の差異を浮き彫りにし、解像度を高めた状態で鑑賞できたように思う。もちろん普段からスタジオCに訪れている人以外にも、いわゆるミニシアターに親しみを持つ人であればこの感覚は共有できるのではないかと思う。アットホームさと贅沢さが混在した空間はとても居心地が良かった。

個人的に、今回の映画のラインナップでこの不思議な贅沢さとの組み合わせの妙を見せたのは「宇宙少年アブドラジャン」だ。今回のラインナップのなかで唯一フィルム上映の本作は、富田翔子さんの記事の通り、荒削りな挑戦が生み出す愛くるしさに溢れた映画だった。その愛くるしさが、爆音上映によってより荒々しく強調されているように感じた。「攻撃的な可愛らしさ」とでも言えばいいのだろうか?それをアットホームな空間で、アットホームな人数感で享受する感覚は、何とも言えず忘れがたい。



体調不良を押して「映画の前説DJ」という重い課題を自らに課しながらも、なんとかイベントを完走した樋口さんとYCAMスタッフ

初の長期休暇でオーロラを見る

密室爆音を終えて、少し落ち着きを取り戻したYCAM。このタイミングで、私はYCAMで勤め始めて最長の休暇を取り、友人と海外旅行に行ってきた。 目的はオーロラを見ること。たまたまスウェーデンに留学している友人からの「スウェーデンでも北部ならオーロラが見えるらしいが、挑戦してみないか?」との声がけに、「この機会を逃したら一生見ないかもしれない」と思い、便乗する事にしたのだ。

オーロラの他にも、犬ぞりに乗るなど雪山を満喫した。

雪を食べながら重いソリを引いて全速力で走るワイルドな犬たちも、休憩中は人懐っこく可愛らしい。

目的のオーロラだが、一言で言えば「奇妙」だった。

雪山に到着した日の夜、「曇っていたのでオーロラは望み薄だが、明日以降見る場所のアタリをつけたい」と周辺を散策していると、曇り空の中に、変な動きをしている雲が見えた。他の雲より随分早く流れているし、時折、デジタル画面のノイズのように流れと関係のない方向に揺れ動くのだ。心霊現象、もしくは自然界のエラーのようなそれを友人達と眺めながら「もしかするとオーロラ?」「イメージと違う」「私たちがフライトで疲れているだけ?」などと言い合い、結局「あれは自分たちの見間違い」と結論づけた。

翌日の夜、宿泊している山小屋風ゲストハウスの共有リビングでくつろいでいると、スタッフから「オーロラが出てるぞ!!」と声をかけられた。慌てて外に出ると、昨日より晴れた夜空には、例の変な動きの雲が巨大になったものがいくつも浮かんでいたのだ。白をベースに、よく見ると緑、赤、黄色が所々混じったような色で、帯状に長くランダムに伸び広がり、やはりノイズのように揺れ動いていたかと思うと突然消える、その繰り返しだ。

写真には緑色に写るが、実際に見るともっと薄くて複雑な色をしている。

時折こういう意味深な形(円状)になってとても怖い。世紀末感があった。

寒空の下、ゲストハウスから凍った巨大な湖に移動し、この奇妙なものを眺めながら、私は「わざわざ見に行く」という行為について思いを巡らせていた。人から教えてもらわなければそれと認識できないほど、映像や写真から想像していた姿とは大きく違ったオーロラだが、その奇妙な姿には、やはり目を奪われずにはいられない。これはこの場に来なければ得られなかった経験である。映像や写真などのメディアで伝えられないものは、直接その目で見る他ないが、今後さまざまなメディアが進化してこの「体験のギャップ」どんどん少なくなっていくのだろう。しかし、それが本当に完全に無くなってしまうことはない。この根拠のない確信が、オーロラを見たことで強固なものになったのだ。これはYCAMで行なっているような仕事にも通ずるような気がした。

ニューヨーク出張

スウェーデンから山口に帰り、今年度で任期を終えるスタッフのフェアウェルパーティーに参加して挨拶をすると、今度はすぐに出張でニューヨークへと向かった。今回の出張の目的は、School for Poetic Computation [SFPC]というデジタルアートのためのオルタナティブ・スクールの見学だ。2013年、アーティスト/リサーチャー/ハッカーであるザカリー·リーバーマンらが立ち上げたこの学校は、世界中から受講者が集結し、コンピューターを扱う上で必要となる概念、知識、そしてそれらを用いた表現方法に関するさまざまな項目を学ぶ10週間のカリキュラムを提供している。


この謎めいた学校は、SATCのロケ地(主人公の家)にもなった街並みの中にある

School for Poetic Computation、直訳すると「詩的なコンピュテーションのための学校」。なんとも耳馴染みのない言葉になるが、ここで語られるPoeticは、私の理解では「詩(詩的)」というよりも「自己表現」とか「生産性とは関係のない重要な何か」というニュアンスだ。SFPCでは「仕事探しのためのポートフォリオではなく、奇妙で美しい創作を行う」という言葉をモットーとして掲げ、生産性の権化ともいうべきコンピューター(テクノロジー)をその枠組みから解放し、真にそれら自身の目的のために使いこなす人々(アーティストやデザイナーに限らない)を輩出するため、奇妙で興味深い授業を行なっている。

真に使いこなすためには、真を食った理解が欠かせない。そのためにSFPCでは、プログラミングや電子工作などのコンピューターの技術面だけでなく、社会的な背景や政治的な立場についても議論する。その議論の方法は、時にダンスだったり、時にキッチンでの調理だったりもするのだ。

私の見学中にもダンスの授業(身体というマテリアルに対する理解を促すための授業)が行われた。

写真は、あれよあれよという間に授業に参加してしまった私自身。

実は今年の9月に、YCAMにこのSFPCの面々を講師として招き、集中ワークショップの開催を予定している。今回はそのワークショップのための見学だったのだ。彼らの思想や手法は、YCAMが常々考えている「アートセンターならではの学びの場づくり」の、一つの理想の形と言えるだろう。YCAM側からも「メディアアートやアートプログラム制作・実践の場所」という知見を提供し、刺激的なワークショップにしていきたいと考えている。

今回の出張ではSFPCの他にも、マンハッタンの地下にある奇妙な高級志向サステナブルファーム「farm.one」の見学や、日本でも有名になった「イマーシブシアター(体験型演劇)」の火付け役と言われている「Sleep no more」という演劇の観劇など、大都会でできる刺激的な経験を満喫した。この経験が、次の「何か」につながるかどうかは、私の努力次第だろう。

出張から久々に山口に帰ると、すっかり冬は終わり、遠くに見える山々の山桜もはっきりと色づく季節へと変化していた。その長閑な風景は、私に安心を与え、同時に都会を離れたほんの少しの寂しさと感じさせた。


今野恵菜

山口情報芸術センター [YCAM] デバイス/映像エンジニアリング、R&D担当。専門分野はHCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)など。2017年にサンフランシスコ Exploratorium にて研修をした。