ミッシング・イン・ツーリズム 第1回

7月から渋谷・ユーロスペースほかにて最新長編 『TOURISM』 が公開される宮崎大祐監督の短期集中連載がスタート! 前作『大和(カリフォルニア)』の続編としての要素も併せ持つ『TOURISM』は、大和市に住む2人の女性が “観光旅行”でシンガポールを訪れることから始まる物語を描いた作品。ということで、本連載では“TOURISM”をテーマに、宮崎監督が体験した旅にまつわる話を綴ってもらいます。初回は宮崎監督をさまざまな国への旅へと誘うきっかけとなった高校時代の出会いについて。

文・写真=宮崎大祐

こんにちは、宮崎大祐です。今月からこちらで「ミッシング・イン・ツーリズム」a.k.a. M.I.T.を連載させていただくことになりました。タイトルからもおわかりのように、何か旅に関わることを書いてくれと言われているので、まずはバックパッカー嫌いだった私が現在のようにほぼ毎月どこかへ旅に出るようになったきっかけについて書こうかと思います。

私が高校二年生だったときに担任の教師が胃の病にかかり、代わりにTという新任の教師がやってきました。T先生は新任であることもあってか、前任の教師と比べ、俺はお前らと近い存在なんだと積極的にアピールするタイプの教師でした。先週のマガジン読んだ? こないだ買ったバイオ・ハザードがさ、云々。無知とホルモンが相まってこういう姿勢が「ウザく」感じられてしまいガチな年頃の我々でしたが、T先生の国語の授業は安室奈美恵やダウンタウンといった世代的に不回避な固有名詞の分析を通じて社会の構造をつまびらかにするもので、その手腕は、それはそれは見事なものでした。自分たちが何となく好きで仕方がないものが、嫌いで嫌いで仕方がない「勉強」と地つながりになっていて、T先生はそのちょうつがいになってくれている。多くの生徒はT先生に心酔し、精神的ヤンキー真っ盛りだった私もいつのまにかT先生の授業を心待ちにするようになりました。 ある日のことです。タモリや小室ファミリーに関する分析を終えたT先生は最後に、こんな質問をしました。

「お前ら、ドラクエやったことあるか?」

(ここまで読み進めていただいたのに大変恐縮ですが、ドラクエをプレイしたことがない方は残念ながらここでゲーム・オーバーとなります。これに懲りずにまた次回もよろしくお願いいたします)

T先生はこう続けました。

「ドラクエって主人公が世界中を旅しながら色んな人と出会って成長するゲームじゃない。それで何者でもなかった少年がいつのまにか何者かになっていく。俺ああいう生き方にずっと憧れててさ。でも(ここで先生は口ごもったあとに自嘲を浮かべました)俺はね、スタートしてすぐに故郷の周りをうろちょろしてるうちに、隣村の入り口に立ってる村の名前を教えてくれる女のコと結婚しちゃったんだよね。だから、こういう生き方もこれはこれでいいんだけど、たまにもっと広い世界のこととかまだ出会えてない人のこととか考えて、眠れなくなる。だからお前らには、もう少し遠くまで、せめて俺よりは遠くまで旅して、世界中の色んな人と出会って、喧嘩して、笑い合って、できれば俺が唱えられない変な魔法とか覚えて最初の村に帰ってきて欲しい」

それから二十年が経ち、町のどうぐ屋もといAmazonで各国の旅の記憶が売っていても何ら不思議ではない時代になりました。エイチ・アイ・エスの日々異様に上下動する言い値の航空料金にたじろぎ、「地球の歩き方」に載っている三十年前の情報を持って昨今テロが頻発する海外に旅行なんて行けるか! と憤っていた私も、ExpediaとGoogleマップを使いどこへでも気軽に出かけられるようになりました。旅のリスクとコストが劇的に下がったのです。時を同じくして私の映画が海外で上映される機会が増えました。多くの場合、渡航費、宿泊費は相手持ちです。こうなると、もう言い訳は出来ません。とうとうT先生のドラクエ思想を身を以て実践するとき、冒険に出るときが来たのです。

(つづく)

宮崎大祐

映画監督。大学卒業後、『トウキョウソナタ』(2007年、黒沢清監督)などの作品に助監督として参加。また2011年には筒井武文監督の『孤独な惑星』の脚本を担当。同年、長編デビュー作『夜が終わる場所』を監督。同作はサンパウロ国際映画祭などに出品され、トロント新世代映画祭では特別賞を受賞。2015年にアジア4ヶ国によるオムニバス映画『5TO9』のうちの一編『BADS』を永瀬正敏主演で監督。2018年に公開された長編第2作『大和(カリフォルニア)』はタリン・ブラックナイト映画祭を始め多くの国際映画祭で上映された。シンガポール国際映画祭とシンガポール・アートサイエンスミュージアムの共同企画で製作された最新監督作『TOURISM』は2019年7月からユーロスペースほか全国順次公開。