インターラボで仕事中 第4回

山口情報芸術センター[YCAM]の映像エンジニア/デバイス・エンジニア、今野恵菜さんによる「インターラボで仕事中」第4回目です。現在開催中の展覧会「呼吸する地図たち」、そして2月に行われたフラメンコとAIテクノロジーの融合を試みるパフォーマンス 『Israel &イスラエル』について。

Israel&イスラエル 公演後のスタッフ集合写真

Photo: Atsushi Tanabe

Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

文=今野恵菜

12月

本格的な寒さがやってくると、それはYCAM的には「でっかいものをつくる季節」がやってきたということである。

『呼吸する地図たち』は、アジア各国の作家たちによる作品、パフォーマンス、レクチャー、レクチャーパフォーマンスなどのイベントを含む大型の展示だ。スペースとしても、10月までは『メディアアートの輪廻転生』の墓としての“山”がそびえ立っていたホワイエ、コロガル公園コモンズとして子どもたちがひしめき合っていたスタジオBの両方を贅沢に使用している。今回、私はテクニカルサイドの取りまとめのような仕事も担当していたため、なかなか慌ただしくこの展示オープンまでの日々を過ごす事となった。

インスタレーション空間で行われたレクチャーの様子

Photo: Yasuhiro Tani

Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media

夏、山がそびえ立っていた空間には、今は真っ白なテント達がひしめき合っている。このテントの一つ一つには、作家たちが『地図』というテーマに基づき行った様々なイベントの映像が収められており、この場所を訪れればいつでも見返すことができるようになっている。

アジア各国から集まった作家達がそれぞれに掲げるキーワードは実に多彩だ。ストレートに地図存在そのものを、視点を変えて見る/体験するようなアプローチもあれば、自らの「草を刈る」という行為を通じて新たな視点を提示したり、沢山の写真から「人の移動の歴史」を紐解いたり、海賊的にさまざまな「境界」を乗り越えようとしてみたり。バラバラに見ると「どのあたりが地図なんだ?」いう印象を与えかねない時もあるが、それは「地図」という言葉が、一般的な言葉であるゆえにここまで広い解釈が出来る、ということの証明とも言えるだろう。

制作面でいえば、前述したテントの制作が大変興味深かった。実物を見ると、きっと沢山の方が「とてもシンプル」という印象を受けるだろう。しかし、そのシンプルでソリッドな印象は、細やかで繊細な調整のもとに成り立っている。「一度完全に縫い終えない限り、それがどのくらい完成しているのかを確認することが出来ない」という布の性質は、プログラミングで何かをつくる時の感覚に少し似ているのかもしれない。布という平面のものを「美しい立体物」として仕上げるのは容易ではない、ということを学ぶことができた

テント制作作業風景

普段はトラックなどの荷台に取り付けるテント作りを専門とされている業者の方のおかげで完成したテント。YCAMは内部制作を得意としている施設だが、今回のように完全に初挑戦の事柄に挑む際には、地元をはじめとした様々な業者の方のお世話になっている。

その他にも、磁石を使った浮遊デバイスを使用した作品があり、これには関わったスタッフ一同かなり苦戦を強いられた。「磁石でモノが浮く」というのはテクノロジーと呼ぶのも気が引けるような当たり前の現象だが、これを「高いクオリティ」で「長期の展示の中で使用する」となると話は変わってくる。今ものづくりのメッカとなりつつある深センにデバイスを発注したり 、浮かせる側である「手の形のオブジェ」を作るための3Dスキャン、スキャンしたデータの調整、磁石のバランスを考えた配置等々、沢山の要素が合致して初めて機能するのだ。

参加作家の一人、ホー・ルイアンのインスタレーション作品「アジア・ザ・アンミラキュラス 」より、宙に浮く手

Photo: Yasuhiro Tani

Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media

『呼吸する地図たち』は、3月3日(日)までYCAM館内にて実施される。

1月(2019年)

12月に『呼吸する地図たち』のオープンを終え、年末休みでホッとしたのもつかの間、1月は前回の記事でも触れた「フラメンコとAIテクノロジーの融合を試みるパフォーマンス 『Israel &イスラエル』」の本番に向けたクリエーションと最終調整が、昼となく夜となく行われた。

クリエーションの様子

クリエーションの醍醐味の一つ、それは『変更』だろう。どんなクリエーションでもそうだが、特に複数人のグループで何かを作る場合、私は「色々な変更にどうリアクションするか」をなるべく常に考えるようにしている。とはいえそれが全てうまくいっている訳ではなく、自分自身まだ手探りで反省点も多いのだが、自分への戒めの意味も込めて、「Israel &イスラエル」での例を交えながら、具体的にどうリアクションしようとしているかを少しまとめておこうと思う。

1. 面倒臭がらない

プロとして最低限だろう!という声が聞こえてきそうだが、度重なる変更を本当に面倒臭がらずに真正面から受け止めるのは、何年YCAMで働いていてもなかなか難しいことだと感じる。時間に余裕がある時期であれば問題ないが、本番が近づけば近づくほど、ギリギリの危険な変更は避けたいし、安定や完成を目指してどうしても視野が狭くなるのだ。しかもそういう気持ちは、言葉にならなくても、ましてや「Israel &イスラエル」のように言語的に伝わらない状態(メインのコラボレーターであるイスラエル・ガルバン氏は基本的にスペイン語のみを使用している)でも、どうしても周囲に伝わってしまう。そしてダイレクトに士気に影響してしまうのだ。

2. 環境を整えておく

フィジカルなもの、例えば大道具的な木製の物体を、なるべく早く作ったり変更したりするには、整った作業室が必要なことは、誰にとっても想像しやすいだろう。「あの工具がない!」と探し回る時間は単純にタイムロスだし、その作業に適した工具の存在や使用方法の知識、工具を使うために必要となる空間がないと、それらを整えるのに時間がかかってしまう。これは、コンピューターの中、プログラムによるものづくりでも同じことである。特に私のような中途半端なプログラマーは、沢山の変更が出るようなクリエーションの現場では、そういった流動的な現場に適したプログラム言語やフレームワークの力を頼れるよう準備をしておくこと、通信システムのルールをあらかじめ決めておいて後から混乱が起きないようにしておくことなどが重要になってくる。木製であろうがコンピューター制であろうが、人の手で作ったものにはトラブルや予想外のエラーが必ず起きる。そのトラブルを発生時にすばやく対処するためには、環境が大事なのだ。

センサーを搭載した「フラメンコのステップの情報を収集するためのフラメンコシューズ」

Photo by Atsushi Tanabe

Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

イスラエルのステップを収録、解析する様子。ウェアラブルデバイスは今花盛りのジャンルの一つだが、人が身につけるものを作るのは本当に難しく、予想外のエラーも多い。

イスラエルの足元とソレノイドを用いたステップ再生用リズムマシン。ソレノイドが床面を打ち付けることでリズムを刻む

Photo by Yuki Moriya

Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

ソレノイドと呼ばれる 電子部品を使ったリズムマシンが、イスラエルのフラメンコのステップや、AIで生成された擬似的な「イスラエルのステップ」を再現する。

沢山の変更を経て、完成したパフォーマンスは2月2日、3日の2公演をもってひとまず終了した。前回の記事で危惧していた「インタラクティブ性の高いものを舞台に置く件について」も、今回に関しては「AIが、最初はイスラエルの完全なものまねから始まり、少しずつ独自のステップを踏むようになっていく過程」をステージ上に載せることができた等、技術を扱うものとしての誠実さと舞台的な見せ方の良いバランスをとれたように思う。

公演の様子。イスラエルとAIとが交互に踊り合うのシーンには、並々ならぬ緊張感が漂っていた

Photo by Yuki Moriya

Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

初日の公演を終えてすぐにイスラエルが AIについて語った「ダンサーではなく、人らしくさえないんだけど、何かよくわからない生き物と踊っている気がして、一人で踊っていることを忘れる瞬間があった」という言葉がとても印象的だった。この「よく分からない何か」を生み出すことこそ、我々の仕事なのコアなのかもしれない。

今野恵菜

山口情報芸術センター [YCAM] デバイス/映像エンジニアリング、R&D担当。専門分野はHCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)など。2017年にサンフランシスコ Exploratorium にて研修をした。