俚謡山脈の民謡を訪ねて 第3回

日本各地の民謡を収集・リサーチし、DJプレイやCD・レコードの再発を手掛ける2人組のDJユニット俚謡山脈(ムード山+TAKUMI SAITO)の連載。久しぶりの更新です。今回のテーマは民謡の分類について。町田佳聲の提案に俚謡山脈独自の「堕してる」の概念を加えて3つの分類で考察されています。

文=俚謡山脈

民謡分類考 ①②③の話

昨年は「木崎音頭」「おしゃらく」のリリースもあり、だいぶ間が空いてしまったこの連載だが、気を取り直して続けていきますので宜しくお願いします。さて、今回は前回までの対談形式の中でちょいちょい出てきた「堕す」の概念と、民謡の分類について説明していこう。日本民謡は音楽の一ジャンルというよりは、それ自体が一つの大陸のようなもので、様々なグラデーションが存在している。タイトルは「民謡分類考」とブチあげてみたが、「民謡と一言で言ってもいろいろあるよ」という話である。

町田佳聲は『民俗芸能』昭和45年夏季号掲載の「座談会:民謡を考える」の中で、民謡を三つに分類し、それぞれを第一次、第二次、第三次産業に例えている。

①俚謡(生活の中で唄われてきた労作唄)=第一次産業(農業・水産業など)

②民謡(舞台や観客にアジャストする為①の形を整えたもの)=第二次産業(加工業)

③民謡風の歌謡曲(②が当世風にアレンジされたもの)=第三次産業(サービス業)

我々はこの①②③の分け方に、「堕してる」(※)という概念を付け加えて、「この曲は良い具合に②に堕してる」とか「これは完全に③に堕しまくってる」という感じでで民謡を聴いている。もどかしいことに、多くの日本人は民謡をあまり聴いたことがないので、①②③どんな民謡を聴いても「日本人のDNAに響きますね~」とか「土着ですね~」という感想を持ってしまう。我々のDJを聴いたお客さんからもよく言われる。その「DNA」だの「土着」だのという曲の多くは、元々①であった唄に三味線や太鼓などを加え、節回しを整え、歌詞も改められて、(我々的には)めちゃくちゃ洗練された②に分類される民謡だったりする。

①②③の違いをブルース~ロックに無理やり例えるならば、①が労働歌だった頃のブルース、②がマディ・ウォーターズ、③がローリング・ストーンズといったところだろうか。なので我々は③に関しては「民謡」に含めない。ローリング・ストーンズは(ブルースから大いに影響を受けていることは間違いないが)ブルース・バンドではなくロック・バンドだ。それはブルースの方がロックより偉いとかいうことではなく、ストーンズを聴いて「これがブルースだ!」と思ってしまうことは、単純に聴いた人の知識が不足しているということなのだ。

俚謡山脈のMIXに収録したり、クラブでプレイする「民謡」は殆どが②に分類されるものだ。我々が好んで聴くのは①と②だが、①はレコードという形で中々残っていないし、クラブでDJプレイするにはプリミティヴ過ぎる場合が多い。例えば楽器も使用しない「唄」だけのものもあるし、盆踊りですらも太鼓が入らず手拍子だけとか。ちなみに①の例としては「日本民謡大観」に収録されてるのが手頃にアクセス可能な音源だ。1曲紹介しよう。

①弥三郎節/浜谷初太郎(日本民謡大観 東北篇 1より)

古いものほど素晴らしい、オリジナルである、とするならば②より①が良いのか?しかし個人的にはそうでもない。ストーンズよりマディ・ウォーターズが良い、更にプロより素人の方が良い、というわけでもないのと同じだ。労作唄は人の営みだが、舞台や観客の為に形を整えるのもまた人の営みで、両方に同じぐらい価値があると感じるからだ。しかしこの②の魅力の説明が難しい。

冒頭に引いた「座談会:民謡を考える」の中で町田佳聲は「ローカルカラーをはっきりつかまえている」ものが②であると述べている。対して三橋美智也の民謡を「サービス産業に属する種類のもの」として③に分類している。この「ローカルカラー」というものは時代によって変化していくので、一概に「どういうサウンド」とは言えないが、民謡が土地(ローカル)と切り離されたら③になってしまうし、逆に言えば、様々な楽器を加えたりアレンジを施されても「ローカルカラーをはっきりつかまえ」さえすれば②として成立するということだ。ここで先ほど①の例として挙げた弥三郎節が②になったヴァージョンを聴いてみよう。

②弥三郎節/成田雲竹

①では唄だけだったが、②では尺八と三味線が入り、節回しも変化しているのがわかる。これを唄っている成田雲竹は、数多くの津軽民謡を①の状態から②にアップデートしたことで知られている人物だ。成田雲竹を評価するならば、「素朴」「土着」な部分よりも、「ローカルカラーを残しつつ洗練させた」部分に注目すべきである。ここを見誤ると、民謡はなんでもかんでも土着でプリミティブで日本人のDNA!ということになってしまう。

そして①を聴くときも注意が必要だ。①の多くは録音が古く、現在の音楽に比べるとどうしてもプリミティヴに聴こえてしまうが、その唄が生まれた当時は①もまた、なんらかの洗練を経た結果として生まれているに違いないのだ。それは舞台で披露するための洗練ではなく、村の寄り合いで「こいつイケてるな~」と思われるためのちょっとした工夫だったりするかもしれないけれど。民謡は譜面に書かれたり、レコードに録音されたりする前提で作られていない、詠み人知らずの唄だけに、その形がまるで一定しない。その変化し続ける唄のある一時期を取り出して、「これはプリミティヴだ(堕してない)」とか「これは洗練されている(堕してる)」とかを評価するのは、結局相対的な評価にしかならない。スミソニアン・フォークウェイズや、近年ではDUST TO DIGITALといったレーベルがリリースしている音源集は、いわゆる「ヴィンテージ」な嗜好の音楽好きから高く評価されていて、実際我々も愛聴している作品も多いが、「古さ」や「ヴィンテージ感」にとらわれると、その唄が持っているフレッシュさや、当時の人々の創意工夫に気づかないまま終わってしまう可能性が高い。

V.A. /Longing for the Past: 78 RPM Era in Southeast Asia (DUST TO DIGITAL: 2013)

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さて、最後に③を説明しよう。現在いわゆる「和物」の文脈で評価されている「民謡」は全て③に当たるものだ。東京キューバンボーイズやジミー竹内が民謡を取り上げた類の音楽。民謡のメロディや節回しを取り上げて既存の洋楽に当てはめたようなものや、ジャズ/ラテン/ロックなどの洋楽に三味線や尺八といった和楽器を組み合わせたもの。ポップス化した音頭や演歌、舞踊歌謡なんかもこの範疇かと思われる。町田佳聲の言う「ローカルカラーをはっきりつかまえて」いない音楽だ。

③ジミー竹内 / おてもやん

この「おてもやん」のアレンジは非常にカッコいいし、個人的にも気に入っている音源だが、これが民謡か?というとやはりNOである。この手の民謡カバーはたくさん存在するが、個人的に問題だと感じるのはローカルカラー云々よりも、取り上げられる曲がだいたい一緒であるという点だ。おこさ節、串本節、ソーラン節、会津磐梯山、黒田節、などに代表される「有名民謡」ばかりがカバーされ、バラエティに乏しい。これは①が②へと洗練される過程で、多くの唄が淘汰されてしまい、カバーの対象としてのポピュラリティーを得ることができなかったからだ。数万曲に及ぶと言われる日本民謡の中で、かっこいい曲はまだまだ沢山ある。ローカルと繋がりが切れてしまったのなら、せめてもっと民謡の深い海を掘り下げ、「良いメロディ」や「良いリズム」を当世に紹介することはできるはずだ。例えば全曲「田植え唄」のカバーだけでまとめられたアルバムがリリースされたら、そのアレンジがどんなにダメでもとりあえず買うだろう。

町田佳聲の分類に、我々なりの考えを加えた民謡分類考について書いてきた。ざっくりまとめると以下のことが言える。

①は形が定まっておらず多様性があるが、その音源に接するとき「古さ」にとらわれると見誤ることもある。

②はローカルカラーと洗練を同居させた創意工夫の賜物で、現在の民謡のパブリックイメージとなっているが、形を整える過程で多様性は失われてしまった。

③は民謡ではないが、民謡のカッコよさを伝える手段として①と②から広く深くネタを求めていけば良い。

①②③は相互に干渉し合っているし、それぞれにカッコ良さと愛すべき理由があるだろう。町田佳聲がこれを論じたのがおよそ50年前。その先進性に敬意を表すと共に、そこから先に進めているかを自問していきたい。俚謡山脈の活動も「民謡のローカルカラーをつかまえる」というよりは、「今の自分たちが聴いてカッコいい民謡を掘り下げたい/紹介したい」という点に重きを置いている。「ふるさと」という名のローカルカラーの呪縛から切り離された民謡のカッコよさは、我々のパーティーで是非体験してほしい。

※「堕してる」

俚謡山脈用語。浅野健二著「日本の民謡」(画像挿入)(1966年)に出てくる言葉「堕す」を、我々はよく使用する。浅野先生的には「郷土色を失う」という意味だが、我々は「洋楽的なアレンジがされている」ぐらいな意味でも使う。

以下引用:民謡の本質は、やはりその生まれた土地の匂いという点にあるべきで、その土地の匂いーすなわち郷土色を失った民謡は、もはや「民謡」ではなくて最下級の「流行唄」に堕したものといってもよかろうと思う。

俚謡山脈

「ムード山+TAKUMI SAITO」世界各国の音楽がプレイされるDJ パーティ「Soi48」内で活動する日本民謡を愛する2人組DJユニット。日本各地の民謡を収集/リサーチし、DJプレイしたりCDやレコードの再発を手掛けている。主なリリースにMIXシリーズ「俚謡山脈 MIX VOL.1」~「VOL.4」、「田中重雄宮司/弓神楽」(監修/エムレコード)、「境石投げ踊り」(監修/エムレコード)など。ロンドンのインターネットラジオNTS LIVEに日本民謡だけで構成されたMIXを提供。農民ダイナマイト(山梨県)、大和町八幡神社大盆踊り会(東京)など各地のパーティーにDJで参加。

・MIXシリーズ「俚謡山脈 MIX VOL.1」~「VOL.4」

・CD/レコード監修:「田中重雄宮司/弓神楽」「境石投げ踊り保存会/境石投げ踊り」「木崎音頭保存会・クラーク内藤/木崎音頭」「葛西おしゃらく保存会、他/おしゃらく」