映画は心意気だと思うんです。 第8回

冨田翔子さんが“わが心意気映画”を紹介してくれる連載第8回は、 前回 に引き続き、3月8日(金)に 「YCAM爆音映画祭2019 特別編:密室爆音」 で上映される『UFO少年アブドラジャン』(ズリフィカール・ムサコフ監督)について。10歳のときにテレビ放送で見て強く印象に残ったものの題名も監督名もわからず、15年後にようやくその作品がウズベキスタンのズリフィカール・ムサコフ監督が作った『I WISH…』であること突き止めた冨田さん。同作を再見することはかなわなかったものの、ついにムサコフ監督によって作られた別の作品、『UFO少年アブドラジャン』をスクリーンで観る機会が訪れます。

『UFO少年アブドラジャン』

『UFO少年アブドラジャン』への道
後編:アブドラジャンを探して

文=冨田翔子

『I WISH…』との出会いから15年、ついにそのルーツである『UFO少年アブドラジャン』を観るときがやってきた。果たしてどんな映画なのか。アブドラジャンとは一体、何者なのか…?

■お鍋のUFOでやって来た少年

『UFO少年アブドラジャン』は、ありきたりのようで類を見ない、チープに見えて“完璧”、素朴だが豊かで、浅いようで奥の深いような、そんな映画であった。

まず冒頭からして異色である。物語は生協に務める男性が読み上げる手紙からはじまるが、誰に宛てた手紙かというと、まさかの巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督である。

「親愛なるスティーヴンさん ビデオ鑑賞会であなたの『E.T.』を観ました とてもいい映画でした 例の空飛ぶ円盤が 私の村に本当に飛んできました そのことを書いたので読んでください」

なるほど、この映画は1982年公開の『E.T.』にオマージュを捧げているようだ。『UFO少年アブドラジャン』が作られた1990年当時は、ソ連は宇宙開発末期。かつてアメリカと開発競争を繰り広げていたはずだが、映画の中では打ち上げられた両国の宇宙船が遭遇し、挨拶を交わす模様がミニチュアで表現される。まるでお辞儀をするように、上下に並んだ2つの機体が揺れる姿が愛らしい。

アブドラジャンを乗せたUFOは、宇宙からのどかな田園風景に墜落。円盤は鍋をひっくり返した形で、特撮で吊っている2本の糸が丸見えなのだが、それもまた微笑ましく口元をゆるめてしまう。畑に実った巨大作物がフィルムへの焼付合成だったり、議長さんが叩き殺してしまうハチが人形だったり、こうした徹底した手作りのSFシーンは、本作の比類のない持ち味である。おそらく『E.T.』の何万分のイチくらいしかお金がかかっていないが、どこまでも素朴な片田舎の風景や、善良な村人たちの中にユーモアが溶け込んでおり、なんともとぼけた穏やかな空気が映画全体を包み込んでいる。

それだけではない。これだけローテクまみれでありながら、劇中に出てくる宇宙ステーションと、アブドラジャン捜索に登場する飛行機・戦車・軍人は、なんと本物を使っている。どういうわけか、この映画はソ連軍の多大な協力により製作されているらしい。なんというへんてこなバランス! これがまた妙なスパイスとなって、映画の素朴さをさらに引き立てているのだ。

私のお気に入りシーンは、アブドラジャンが見せる超能力の一つ。引き取ってくれたバザルバイ一家の六男を、徴兵先の宿舎から家の玄関前に召喚するというシーンだ。頭上から照らされるチープなピンクのスポットライトに向かって、少し離れたところから彼が念力を送ると、次の瞬間、宿舎のベッドで寝ていたはずの六男がボンッと現れる。「コントかよ!」と心の中で突っ込みつつ、思わず映画館で声を出して笑ってしまった。

宇宙からやって来た少年を自宅で預かるという、どこかで聞いたような設定でありながら、見た目がただのロシア人の少年という斬新さ。チープな手作りSFも、全体のバランスが行き届けば無駄なシーンなど一つもない。夫が連れてきたアブドラジャンを、ロシア人の愛人と作った子どもだと激怒しつつ「6人育てたからもう1人くらい何でもないわ」といって面倒を見る奥さんのホリーダは、なんと深い心意気を持っているのだろう。

『UFO少年アブドラジャン』は、『I WISH…』がくれた衝撃をそのまま15年後の私にくれたのだった。両者の間には数年の歳月があるが、手作りSF感は全く同じ。ズリフィカール・ムサコフ監督には、この方法で伝えたい心意気があるのだと思う。

『UFO少年アブドラジャン』のプレスシート

■国民の6割が観た映画

1992年にウズベキスタンで公開された『UFO少年アブドラジャン』は、国民の6割が観たと言われている。ある日のこと、私は東京都内にあるウズベキスタン料理屋にアブドラジャンのDVDを持っていき、現地の人らしき店員さんに「アブドラジャンを知っていますか?」と聞いたことがある。すると、店員の男性はDVDジャケットを見るなり「ABDULLADZHAN!」と言いながら頷いてくれた。どうやらかなり知られた作品であることは間違いないようだ。

日本ではウズベキスタン映画を観る機会はほとんど無いが、2年前に行われた中央アジア・ミニ映画祭では、『伯父』という2014年のウズベキスタン映画を観ることができた。すっかりデジタル撮影となり、きれいな映像である。聞けば、ウズベキスタンは中央アジアの中でも発展しており、最近は映画もよく撮られているという。すると、会を案内していた学生らしき青年が、「ウズベキスタンにも面白い映画がたくさんありますよ」という。「なんという映画ですか?」と尋ねると、彼はこう教えてくれた。「『UFO少年アブドラジャン』といって…」。どうやら日本人にとっても、アブドラジャンはウズベキスタン映画を代表する存在のようだ。

ちなみにアブドラジャンは1994年に開かれた中央アジア映画祭にて日本で初上映され、2001年にはロードショー公開された。私が観た『I WISH…』は、アブドラジャンが日本で好評を博したため、共同製作が実現した企画だったのだ。

■アブドラジャンを探して

とはいえ、まだまだ知られざる作品であるアブドラジャン。目下の私の目標は、宝くじを当てて『UFO少年アブドラジャン』のソフトを再販することだ。当たった金額によっては、日本語吹き替えも制作したい。再販するからには特典も必要だ。やはりウズベキスタンに行って、アブドラジャンが今どこで何をしているのかを突き止めるドキュメンタリーを作るのがいいのではないか。タイトルは「アブドラジャンを探して」。ムサコフ監督へのインタビューもして、当時の話も聞いてみたい。

監督はすぐに見つかりそうな気がするが、アブドラジャンはどうだろう。40歳くらいになっているだろうか。ちなみにインターネットでアブドラジャンを演じた役者名を入れて検索してみたが、めぼしい情報はなし。私のネットサーフィン力が10歳からまるで向上していないことだけが分かった。

■まさかの黒沢清監督コネクション

昨年、ほんの思いつきで、あくまで個人で楽しむために、自作のアブドラジャンTシャツを作成した。映画のタイトルバックをTシャツの胸にプリントしたものだ。そのTシャツは、「YCAM爆音映画祭2018」の5日目に着ていくために作ったもので、その日は黒沢清監督をゲストに招き『散歩する侵略者』が上映される予定だった。当時の黒沢監督は、オールウズベキスタンロケの新作『旅のおわり世界のはじまり』の製作がアナウンスされたばかり。単なるウズベキスタンつながりに過ぎないが、憧れの監督がアブドラジャンと同じ地で映画を撮るという発表に、私の心はときめいていた。関係ないけれど、ぜひアブドラジャンのTシャツを着ていきたい! 樋口さんからは、黒沢監督が知ったらドン引きされるからやめなさい、と諭されたのだが…。

そんなことを言っていたが、優しい樋口さんは上映後に、「この人はウズベキスタン映画のアブドラジャンのファンです」と黒沢監督に紹介してくれた。すると黒沢監督はおもむろに、「ああ、アブドラジャンは観ましたよ。アブドラジャン役の人は今ですね…」と話し始めた。な、なんだって!まさかの急展開である。私は「え! 今、何されてるんですか!?」と、初対面にもかかわらず食い気味に黒沢監督に尋ねてしまった。すると信じられない事実が告げられた。アブドラジャンことシュフラト・カユモフ氏は現在、映画製作会社の社長兼カメラマンで、黒沢監督の『旅のおわり世界のはじまり』を製作したのが彼の会社なのだという! ちなみに見た目もアブドラジャンの面影があるそうだ。まさか、私のTシャツと黒沢監督にはこのような密接な関係があろうとは!

最後に黒沢監督は、アブドラジャン自作Tシャツにサインをしてくれた。『UFO少年アブドラジャン』のTシャツに、黒沢監督のサイン。なんともへんてこな展開になったが、憧れの監督と最愛の映画のコラボに気分は有頂天。これは家宝にしよう…そう思いながら、私はYCAMのスタッフの方に借りたマジックペンを返却しようとした。すると、思わぬ文字列が目に飛び込んできた。サインしてもらったペンは、水性だったのだ…。

そんなわけで東京に戻った後、真夏に丸1日着たTシャツを洗わず1週間天日干し、現在は除湿剤と共にジップロックに封印してある。とんだオチがついてしまったのだった。

■密室爆音へのお誘い

ありがたいことに、3月8日の密室爆音ではこの『UFO少年アブドラジャン』が上映される。あのオーディトリウムで観たのと同じ、35mmフィルムでの上映だ。何十回と観た本作を、爆音で鑑賞したらどんな発見があるのか楽しみで仕方ない。もし本作に興味のある方がいたら、3月8日はYCAMスタジオCにて、ウズベキスタンの片田舎に響く虫の鳴き声や、突如現るソ連の軍用機がどんな音を発するのか、同じ空間で共有できたらと思う。ぜひご覧いただけるとうれしいです。

UFO少年アブドラジャン

1992年 / ウズベキスタン / 88分 / 提供:パンドラ / 監督・脚本:ズリフィカール・ムサコフ / 脚本:リフシヴォイ・ムハメジャーノフ / 出演:ラジャブ・アダシェフ、トゥイチ・アリボフ、シュフラト・カユモフほか

3月8日(金)、「YCAM爆音映画祭2019 特別編:密室爆音」で上映

冨田翔子

エンタメWebサイト編集部勤め。好きなジャンルはホラー映画。心意気のある映画を愛する。