無言日記 第41回

三宅唱さんによる連載「無言日記」第41回は、銀杏の葉が舞い落ちる2018年11月に撮影された映像日記を公開します。また、 第11回恵比寿映像祭 で2月24日(日)に『ワイルドツアー』とともに上映される『無言日記2018』に関する裏話も。恵比寿映像祭では2月8日(金)~24日(日)の会期中、インスタレーション「ワールドツアー」も展示されますので、ぜひ足をお運びください。

映像・文・写真=三宅唱

11月分とは関係ないことですが。

ここ最近、恵比寿映像祭で上映する用に『無言日記2018』を編集していた。

ファーストカットは2018年の元旦。 滞在制作先の山口市で年始を迎えた。一人で外をぶらぶら散歩していると近所の家から学生たちのカウントダウンの声が聞こえ、年が明けた。山口の真っ暗な路上に近所の寺の鐘が響いていて、その音をiPhoneで撮ったりしていた。

その時、背後から声をかけられた。年配の女性の声だった。おそらく寺に行った帰りなのだろう。

「びっくりした! あたしの父と、佇まいが一緒で」

「……」

それから女性は「ありがとうございます」と僕に手を合わせて立ち去り、その後何度も僕を振り返っていた。

女性の父おそらく故人の方と僕の後ろ姿が似ていたのだと思う。

女性は帰宅後に「さっきお父さんに会ったよ」と家族に話したりしたかな、などと考えてニヤニヤしたりした。

まあ、こっちも夜道で背後から声をかけられてだいぶびっくりして、声も出せなかったのだけど。実際に僕の後ろに、かつてその女性の父だった「なにか」がいたのかもしれない。 その時の女性の声がiPhoneに撮れている。

『無言日記2018』はそんなカットから始まる。

以下、11月の日記というかただのメモです。

11月1日。東京国際映画祭で上映後、佑くんとティーチインに参加。夜、モントリオールから来ていたアリエルたちと遊んだ。

11月4日。TIFFで思いがけず登壇料をもらったので、それを手に名古屋へ。小森はるかさんの新作『空に聞く』のお披露目上映をみる。『息の跡』同様、心から胸打たれた。本当に素晴らしい。

11月6日。『民俗学の旅』2回目を読み終える。常一の仕事に、小森さんや空族、五十嵐耕平さんなどの仕事を重ねながらつらつらと考える。

11月7日。昼、弟と母と伯母と丸の内で昼食を食べる。『大人の恋はまわり道』をみる。リゾート結婚式にいやいや出席した男女が出会うという出だしは惹かれたものの、見ている間ずっとホン・サンスのことを考えていた。

11月9日。アンスティチュ・フランセでジャン・ルーシュ『人間ピラミッド』、小森はるか+瀬尾夏実『波のした、土のうえ』、『THE COCKPIT』の上映と、安美さんとアフタートーク。『人間ピラミッド』は『ワイルドツアー』を撮る前に見直したいと思いながら叶わなかったもの。『波のした、土のうえ』はスクリーンでは初めて観て、深く感動した。心よく作品を出してくれたお二人に改めて感謝。

11月11日。シネマテーク高崎にて佑くんと舞台挨拶。すぐ東京に戻り、CINRA主催イベントで空族『サウダーヂ』上映後のトークに降矢聡と参加する。数年前に見たきりで今回見直せずにトークになってしまったのだが、シナリオも読んでいたおかげもあるのか、ファーストカットからある程度思い出すことができ、なんとか話せた。夜『宮本常一、アフリカとアジアを歩く』を読み終える。

11月12日。『アリー/スター誕生』みる。イーストウッドについて、あるいはガレルについて考える時に、つまり役者との仕事について考える時に、このブラッドリー・クーパーの仕事ぶりが新たに刺激になる。潔さに驚いた(尺は長いかもしれないが、潔さゆえに長くなってもいるのがすごい)。

11月14日。弟が椅子を届けに車でよってくれた。小学生から今日までずっと同じ椅子を使っていたが、リニューアル。

11月16日。松本へ。やや早めに到着して散歩。やはりめちゃ好きな街だと思った。CINEMAセレクトでの上映後、トークに参加。

11月17日。TAMA映画祭授賞式に出席。壇上に座っている間、某氏のとあるつぶやきを耳にできたことが望外の喜びだった。帰りの電車に一人で乗っていると突然とてつもない孤独感のようなものに襲われて、驚いた。

11月18日。TAMA映画祭で今泉力哉さんと上映後トーク。今泉さんが考える『きみの鳥はうたえる』のその後の展開。即興なのに、驚くほど納得できる回答だった。

11月20日。山本政志さんと二人で鍋をつついた。初めてまともにちゃんと話したが、楽しかった。

11月22日。ユジク阿佐ヶ谷で高橋将貴さんに会う。ポパイ連載でずっとイラストを描いていただいている。その後、ラピュタ阿佐ヶ谷で『トイレット部長』。主演池部良の念願企画らしい。仕事映画であり、ホームドラマであり、恋愛映画であり、最高に楽しみ、面白さに唸った。こういう映画を作れるようになりたいと思ったり。夜、初台で当日キャンセル券を無事に手に入れ『誰もいない国』。柄本明さん、石倉三郎さんを堪能した。ここ一週間予習でピンターをまとめて読んでいた。

11月24日。下北沢で東京乾電池『さらっていってよピーターパン』。演出は角替和枝さん。ご近所の子供たちや柄本家に囲まれて観劇。心底幸せな気持ちになった。

11月25日。山口に行き、YCAMで濱口さんと上映後トーク。

11月26日。羽田空港の喫茶店で濱口さんとお互いの映画についてなど、だいぶみっちりと数時間話した。夜、シネマインパクトでのワークショップ1夜目。

11月27日。宮崎さんと樋口さんと『キックス』試写イベントに登壇。映画は正直戸惑うところも多く、うまく言葉にできていないまま臨んだのだが、宮崎さんがUSの最新の音楽などについて饒舌に語ってくれたのを面白くありがたく聞いているうちにあっという間に終わった。

11月30日。東京での『ワイルドツアー』完成披露試写を無事終える。67分の映画。これで60分台の映画が3本できた(『THE COCKPIT』64分、『密使と番人』60分)。『無言日記』の一年分版もそれぞれ60分台。低予算映画はこぞって60分台にまとめて一律1000円などに設定し、レイトを2本立てもしくは2回まわしで組むのはどうだろう。双方にとっても良い興行の形になりうると思うのだが。流行ればいいのに、と考え始めてからもう数年が経つ。90分映画とも120分映画とも違う力学の、でも物足りなさを感じさせることもなく、濃密かつスッキリする60分映画がたくさん生まれたらいいのに。気軽に観に行けるし。いや、まあ、尺が短ろうと長かろうと、映画館に来る人はくるし、来ない人はこないのかな。

三宅唱

映画監督。2010年に初長編映画『やくたたず』を監督。長編第2作 『Playback』 は2012年のロカルノ国際映画祭に正式出品された。2015年にはドキュメンタリー映画 『THE COCKPIT』 、2017年には時代劇『密使と番人』、2018年には 『きみの鳥はうたえる』 が公開。雑誌『POPEYE』にて映画評「IN THE PLACE TO C」を連載中。YCAM製作の監督最新作『ワイルドツアー』が3月30日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。同作は2月20日(水)&24 日(日)に 第11回恵比寿映像祭 でも上映(24日は『無言日記2018』も併映)。さらに恵比寿映像祭では開催期間中(2月8日~24日)にインスタレーション「ワールドツアー」も展示される。