微笑みの裏側 第24回「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3」特別編

世界各国の音楽を発掘・収集するユニットSoi48が、微笑みの国=タイの表と裏を見せてくれる連載「微笑みの裏側」第24回目です。先日アンカナーンさんとJUU&G.JEEのライブも大熱狂で終了し、3回目となる映画祭が東京都写真美術館にて今週末開催されます。今回は主に映画祭について。またメインの作品であるルークトゥンの女王プムプワン・ドゥワンチャンを描いた『ザ・ムーン』もついに上映です。プムプワンに関しては 「微笑みの裏側 第17回」で詳しく紹介してますので、ぜひ読んでください!

文=Soi48

「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3」

最近stillichimiyaのYOUNG-G、MMMとOMK (ワンメコン)という活動をしている。空族の映画『バンコクナイツ』で出会い仲良くなった仲間でアジアの音楽を掘り下げるプロジェクトだ。YOUNG-Gは2011年からフィリピン、マニラのトンド地区でのHIPHOPワークショップを経て「アジアで独自の進化を遂げるHIP HOP」をテーマにしたMIX CD「Pan Asia」シリーズ(Vol1, 2)を製作。日本で流通、紹介されないアジア圏のHIPHOPアーティストの招聘や普及活動を展開していた。そんなYOUNG-Gが『バンコクナイツ』の公開後1年間タイに住むことになった。タイにいるYOUNG-Gを訪ねて日本とタイを往復し音楽を掘ったりライブ会場にも足を運んだ。そこで気づいた面白さを伝えたいと思ってスタートしたのがワンメコンなのだが、日本で紹介されているアジアのヒップホップはほんの上澄みでしか無く現地に行かないとそのカルチャーは語れないことを痛感させられた。

タイにもアイドル、アート系、海外留学組、ストリートから成り上がった者・・・様々なラッパーがいる。いくらネットが発展してもなかなかその背景を知ることは困難だ。このご時世、誰もがインスタグラムやPVでクールに見せたい。インターネットでの判断はより難しくなっている。

ファッションで例えると分かりやすいかもしれない。インスタグラムでタイのファッション・ブランドを見て”これはイケてる”と決めていいものなのだろうか?いくら写真の見栄えが良くても生地がいいかどうか、サイズ感などは実物を見ないとわからない。タイの気候やタイ人の服の好みなども理解が必要だ。あるストリートブランドがタイ企業ブランドのロゴをパクったTシャツを作っていたが、元ネタを知らないとそのデザインの意味はわからない。王様が崩御した際は、喪に服すために国民に黒の服を着せるお触れが発表された。派手なデザインができないブランドはそれを逆手にとって、黒い生地にツヤのある黒のインクを使ってTシャツを制作していた。結果そのTシャツは限定デザインになり現在欲しくても入手困難だ。値段設定と購入層、ストリートにいる若者向けのブランドなのか、グローバル展開を狙ったシュプリームやエイプのような中流階級〜富裕層向けのブランドなのかも見極めなければならない。タイや東南アジアの多くは貧富の差が大きい国だ。

富裕層が利益を考えないでビジネス度外視でステータスとして遊びでやっているブランドも多い。ストリートの若者が買えない金持ちの道楽ブランドをストリート・ファッションと呼んでいいものだろうか?最近カタカナや漢字、日本の90SカルチャーのロゴTシャツが流行しているがこれらの流行の発信源はアメリカである。カタカナが書いてあるからアジアのデザインTシャツと言っていいものだろうか?我々日本人はインターネットの情報だけだとどうしても日本や西欧の価値観で判断しがちである。そして”このアジアな感じがいいよね”なんて気軽に会話しているがそれもエキゾチックな観点であることが多い。

エキゾチックな観点を捨てタイに限らずその国の中に潜り込み考え方を学び音楽や文化を掘ることがOMKの一つのテーマなのだ。『trip to isan』ではタイのミュージシャンやプロデューサーがどのように伝統音楽と西欧音楽の流行を融合させてきたかが描かれている。

現在でもタイの街角でモーラムやルークトゥンが流れるのは西欧音楽の流行の波に流されないで、タイ独自のスタイルを築き上げたからである。同じことがヒップホップでも言える。欧米のトレンドをタイ語でカバーしている者、タイの伝統音楽をサンプリングしている者、ビートからタイ独自のグルーブを作る者・・・その工夫を知ると音楽がより楽しく、豊かに聞こえる。

25日から開催される「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3」ではそんな豊かな体験ができる映画のラインナップが揃っている。『ラップ・イン・プノンペン』はレコードやカセットを探しながら地元のラッパーに会いに行くOMK (ワンメコン)のディグ・スタイルがそのまま映像に収められている。YOUNG-Gはプノンペンでカンボジア音楽のレコードを探すが見つからない。現在カンボジア・レコードはほぼ現存しておらずオークションサイトではとてつもない値段で取引される。その理由は『カンボジアの失われたロックンロール』を観て歴史背景を学べば理解することができるだろう。

『暗くなるまでには』は1976年、タイで起こったタンマサート大学での虐殺事件の話だ。2019年現在タイでは軍事政権が続いており、それを批判したラップRAP AGAINST DICTATORSHIP 「プラテート・グー・ミー」が昨年インターネット上にアップされ全世界から注目を浴びた。これらの背景を知りたければこのタンマサート大学での虐殺事件、通称”血の水曜日事件”は避けて通れないはずだ。

タイでどのように伝統音楽と西欧音楽が融合されてきたのかを知りたいのなら『花草女王』 を観て、スリン・パークシリのトークショーを聞きに来て欲しい。タイの代表的音楽プロデューサーであるスリン先生は伝統音楽と西欧音楽を融合させて常に面白い音楽スタイルを発明してきた重要人物である。バンコクナイツのエンディング曲アンカナーン・クンチャイ「イサーン・ラム・プルーン」の作曲者でもある。その単に西洋音楽カバーにしない、タイ音楽のエッセンスを取り入れるというスタイルは先日WWWXでライブをしたJUUにも受け継がれている。JUUが制作してきた楽曲には驚愕の連続だ。こんなこと考えているラッパーは世界広しともなかなかいないのでは?と考えてしまう。数多い彼の名曲から2曲紹介してみたいと思う。

タイ伝統音楽のビートに乗せ、忘れ去られた100年以上も前の言葉をリリックに取り入れラップする。JUU自身も「タイ人でも理解できない箇所があると思う」と笑う。言葉遊びをしながら古き言葉の保持・復活を狙った傑作である。

イサーン人が日常でよく使う言葉「TILA」を使ったラップとまさかの来日時に覚えた言葉「大丈夫」を使った楽曲をカップリング。異国に来てライブで盛り上げるためにその場でその国の言葉を覚えてラップするラッパーがどれだけいるだろうか?JUUのファンサービスと遊び心が詰まった動画だ。

一聴するとトラップやレゲエのビートでもJUUのリリックやフロウには”タイ”が凝縮されている。古いルークトゥンやタイポップスをネタにしてタイにしか存在しない”ヒップホップ”を目指しているのだ。それを理解するためには我々はもっとタイ音楽を掘り続けなければならないし勉強も必要だ。

今年はワンメコン・メンバーでイベントやツアーをすることが多くなりそうだ。トークショーやラジオ出演もあるかもしれないが、最近僕らが何故タイ音楽やカンボジア音楽を掘りまくっているのか、それをどのように楽しんでいるのかを知る上で映画を観るのが一番早く理解できると思う。是非足を運んでみてください。

告知

「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3」

公式サイト

チラシはこちら

「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3」のアフターパーティ!?
2月3日ワンメコンクルーがタイ・ヒップホップ界の女王CLEO Pを招いて歌舞伎町でイベント開催。

イベント詳細

Soi48

宇都木景一&高木紳介

KEIICHI UTSUKI&SHINSUKE TAKAGI

旅行先で出会ったレコード、カセット、CD、VCD、USBなどフォーマットを問わないスタイルで音楽発掘し、再発する2人組DJユニット。空族の新作映画『バンコクナイツ』にDJとして参加、EM Recordから発売されているタイ音楽作品の監修も手がけている。タイ音楽と旅についての書籍「TRIP TO ISAN :旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド」好評発売中。