妄想映画日記 その81

boid社長・樋口泰人による9月後半の妄想映画日記です。夏が終わり、お台場、MOVIX利府での爆音映画祭へ。利府では新たな音響チームとの音作り、『グレイテスト・ショーマン』爆音パーティ上映では膨大な紙吹雪が。合間にピーター・ゴードンのレコードを。

文・写真=樋口泰人

年末まで続く爆音ツアーが始まった9月。夏休み気分が次第に抜けていく。寂しい。この気分を抱えたまま1年を過ごすことはできないのか。そのためには自分は少しまじめすぎる。最近そのことがじわじわとわかってきた。今更な話でもあり残念な話でもあるのだが、まあそんなものだ。そううまくはいかない。ゆっくりと身体を慣らしていくだけだ。

9月18日(火)~19日(水)

ひたすら事務仕事。毎週の爆音が始まるととにかく事務所での作業ができるのが週に2日くらいしかない。その間溜まったものを整理しているだけで丸2日かかってしまう。試写の予定を立ててもまったく行けず。いろんなお知らせがやってきても、もどかしく身もだえするばかりである。

9月20日(木)~23日(日)

お台場の爆音が始まる。今回はLRのスピーカーの向きを少し広げてみたとの報告あり。前回とどちらがいいか試して、ダメだったら元に戻すと言われたが、いいとか悪いとかの問題ではなく、これはこれで面白いので基本的にこのセッティングを活かすことですべてを進める。正解はない。左右の音が広がったおかげでコーラスが会場全体を包み込むように感じられる。もちろんそれは気のせいでもあるのだが、中心にある主人公の声や歌だけではなく、周囲の人々名もなき人々の声や歌が優しく体を包み込む。

そして今回初上映の『ブリグズビー・ベア』の音使いに驚く。敢えてカセットテープ録音みたいな音にしたり、ノイズを加えたりして手作り感を出すのはわかるが、それが結果的にどんなものを生み出すか、何と共鳴するか、そこで映画全体がどんなふうに変容するかを、作り手自身が楽しんでいるようだ。監督は映画を作る人なのではなく育てる人であるとでも言ってみたくなる。

『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』は、1作目の前日譚と後日譚が交錯して描かれていくわけだが、熟年女優たちと若手女優たちとの演技と歌と踊りの差がはっきり出てしまっていて、これなら、1作目の後日譚だけで良かったのではないかと思った。もちろんそれならこの企画自体が成立しなかったのだろうが。

9月24日(月)

映画祭最終日はスタッフにお任せして、わたしは休養日。周囲で評判の『ザ・プレデター』。疲れているのか、編集の速さと物語の展開に全然ついていけなかった。目立って編集が速いということではなく、ゆったりとした時間が流れない、時間が同じテンポで流れ続けて気が付いたら物語もクライマックス、というその流れ方と脚本の古典的な展開とが、どこかうまく合っていない。その違和感を引きずったまま観終えてしまった。何かを見逃してしまったという思いが募る。動体視力の衰え。監督は若者だろうかと思ったら、わたしと大差ない年齢だった。

そしてレコードをいくつか購入。爆音が続くと家でゆっくりレコードを聴く時間が無くなる。その余裕のなさが、いずれ爆音にも影響することになるだろう。

ピーター・ゴードンの「ラヴ・オヴ・ライフ・オーケストラ」のレコードを見かけるとつい買ってしまうのだが、記憶の中の音ほどはいい音が聞こえてこない。とはいえ「こんなものだったのか」と見切りをつける気にはならない「若さ」が、いつもどこかから聞こえてくる。

9月25日(火)

社長仕事の後、午後からは某CS局で11月に放映される「テレビで爆音映画祭」というような企画のための収録を。お相手がいる場合は全然平気なのだが、ひとりだけで話すのは何ともつらい。特に短い時間に的確にと言われるともうアウト。だらだらできる場所がいい。

9月26日(水)~27(木)

利府へ。仙台から車で20分ほど北に行ったところ。今回が3回目の爆音映画祭となるのだが、今後毎週映画祭が続くため、機材も機材スタッフも新たに増やして、2チームをやりくりしながら全国を回ることになる。その最初である。だから前回とは機材一新。新たなオペレーターたちと、利府での音を探っていく。最初はさすがにだいぶイメージとは違った。あれこれとこちらのイメージを伝えていく。周波数などの数字を出しつつ具体的な提案をしてもいいのだが、それだと極端に言えばこちらの意図通りになるので、つまらない。自分の意図通りの音を作りたいわけではまったくない。ぼんやりとした曖昧な注文をして、それに対する反応の中から見えてきたものに、さらにこちらも反応していく。1回や2回ではうまく行かない。それでいい。何作品かを調整していく中で何かが見えてくれば。

9月28日(金)~30日(日)

本番が始まると逆に少し時間ができるので、ホテルから本塩釜駅方面に歩いた。寿司の街だそうだ。

この辺りは津波の被害は少なかったとのこと。前回の多賀城のあたりはほぼ全滅地域で、風景が全然違う。

そして利府の会場の方はとんでもないことになっていた。『グレイテスト・ショーマン』爆音パーティ上映。東京から参加した常連の方たちの紙吹雪の量が半端ない。バウスの頃の『ロッキーホラーショー』で慣れていたわたしでさえあきれる物量。しかし圧倒的に楽しそうではあった。もちろん掃除は大変で、しかも、上映終了後は爆音調整もあるので、朝から働いているオペレーターのためには、参加されたお客さんたちみんなでワイワイと掃除をしているわけにはいかず、おそらく参加者たちも掃除も含めて楽しいイヴェントなはずなのだが、今回はあきらめてもらった。チェックと調整といえども作品本編が上映されているわけで、映画館である以上部外者が同席するわけにはいかない。したがって、少ないスタッフのみでの大量の紙吹雪掃除。われわれはそれを横目に音の調整。さすがにまあ、こんなことを続けていたらみなさん身体がいくつあっても足りなくなる。

樋口泰人

映画批評家、boid主宰、爆音映画祭プロデューサー。98年に「boid」設立。04年から吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。08年より始まった「爆音映画祭」は全国的に展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)、『恐怖の映画史』(黒沢清、篠崎誠著/青土社)など。