YCAM繁盛記 第47回

山口情報芸術センター=YCAMのシネマ担当・杉原永純さんによる連載「YCAM繁盛記」第47回です。 今回は毎夏恒例となった、8月15日(水)開幕の「YCAM爆音映画祭2018」のことを中心に、 現在YCAMで開催中の他の展示や新しく設置されたショップについて紹介してくれます。 またシネコンで『パンク侍、切られて候』(石井岳龍監督)を見て考えたことも。

映画『ワイルドツアー』も間も無く完パケ! タイトルロゴ絶賛制作中。

YCAM爆音映画祭の8月がまたやってくる

文=杉原永純

『パンク侍、切られて候』を見た。隣の市のシネコンで平日18:35。18:10頃窓口でチケット購入のタイミングで「すべてお席は空いておりますのでお好きなお席をお選びください」ということは珍しくもなんともなく、でも、上映開始までには数席は埋まって、一桁の人数で見るなんてことは東京以外のシネコンでは通常だが、今回はシネアドが始まっても自分ひとり、予告編が終わっても自分ひとり、遂に最後まで貸切状態で鑑賞した。劇場側の人間としては、自分さえ来なければ本編始まって20分ぐらいでシャットダウンして、浮いた空調代やらランプの消耗やら、最初その辺のことが気になってしまった。自分は石井岳龍監督作品の特別なファンとは言えないが、映画は面白かった。撮影も美術も衣裳も音楽も、そして何より俳優が。すべてが金がかかって凝られていて、ストーリーは荒唐無稽で、俳優たちは天衣無縫、痛快。これだけ無茶苦茶な話を具現化するために、資本とあらゆる労力を蕩尽した結果としての映画。映画の避けがたい魅力は、詰まっていた。これだけ集客が厳しくても地方で複数サイトで上映が継続されていることは、多分こういうことだろうという推測はできるが、それは割愛。

映画自体の批評はだれかがやってくれていると思うが、そのほとんどに目を通してはいない。自分は、今この映画を作れた環境や、映画にまつわる資本元の遷移が進み、2010年代も後半になって勢力図が変化している、とまざまざと感じた。『シン・ゴジラ』公開の2016年当時に、一社製作の『シン・ゴジラ』は素晴らしい、製作委員会が日本映画をダメにしているとかいう話が浮上したが、その指摘、ロジックは整ってるけど、結局それだけじゃないし、製作委員会内でどう振る舞い、意志を貫くか、そのやり方を、とある仁義にあふれたプロデューサーから教えてもらったこともあり、問題は制度に半分、半分はやはり作り手の側にあると思った。

貸切状態

ウディ・アレンやジム・ジャームッシュといった80年代から活躍している作家映画の新作に金を出しているのは、アマゾンである。同様に、というべきか、町田康原作で石井岳龍監督という80-90年代をどうしても想起せざる得ない配陣で、脚本宮藤官九郎という「キャスティング」で10年ぐらいアップデートしつつ、エンディングテーマで「ゴッド・セイブ・ザ ・クイーン」が流れ、マイナス約10年、やっぱり80-90年代に立ち返って、日本映画の良き側面を抽象したある種良心的な映画製作に見えてきたりした。dTV=ドコモが、よくもまあと思いつつ、「オリジナルコンテンツ」にやたら飢えているんだろう。そうした時流と、作家を結びつけるプロデューサーの辣腕を感じたり。

一点、気がかりなことがあって、原作を読んでいないので、脚本上のことなのか、原作通りかがわからないが、この映画の要所で「ムカつく」という台詞が出てくるのだが、その発話は、どうにもならない現状に対しての、否、を象徴する台詞と受け取った。物語の前半と、後半のキーになる箇所で出てきたと思う。

2月、三宅唱監督と『ワイルドツアー』を地元の中高生たちと撮影を進めていたときのこと。出演者たちと、あるシーンの本読みをしていて、繰り返してもなんだか違和感が若干残ったときに高校生の女の子がボソッと言った。「ムカつく、って言わない」と。三宅さんは前日のうちに一旦台詞も書き上げており、当日、演者たちと本読みを重ねて、調整していった。「じゃあなんて言うの?」と三宅さんが返したところ、「えー『ウザい』とか『ウザ』かなぁ」っていう話になって、なるほど、確かにYCAM館内にたむろしている高校生たちからもよく耳にする。30代と10代の日本語ギャップ、おじさんになったもんだ。結局「ウザ」は音がどうしてもきついとなり却下になったのだが。

『パンク侍』で「ムカつく」を「ウザ」に変えてしまえば良かったのにとかは全然思わない。10代に媚びたとしても、媚びてくる雰囲気が一度漂ってしまえば、絶対に今、客は来ない。結局そのままでいいし、10年経てば関係のないことになると思う。しかし、作り手側と受け手側のこの感覚のズレが、どうしても気になってしまった。

イオンシネマは、ワーナーマイカル時代からポップコーンにバターをかけてくれる。体に悪いのは重々承知しているが、行ったら買ってしまう。床に散らばったポップコーンは自分で掃除して帰った。

コロガル&メディアアートの輪廻転生準備中。オープン初日は「古墳」に子どもがガンガン登って来た(7.27現在、古墳に登るのは一旦禁止。でもなんとかできないか協議中)。「墓」に群がる子どもたちのあの世感がヤバい

今YCAMではふたつの展示が開催されている。エキソニモ+YCAM共同企画展「メディアアートの輪廻転生」(特設サイトも読み応えがあるので是非ご一読ください)と、子どもたちに圧倒的な人気を誇るコロガル公園シリーズの最新作にして原点に帰った「コロガル公園コモンズ」。

レストランがあったところを改造して、食の実験場にしている「スタジオD」。この「Food Computer」は様々な気象条件をシミュレートして野菜を栽培できる。ここでできた野菜は、バーガーに挟んで実食できる

自分の選んだ組み合わせでハンバーガーを作り食べられる「スタジオD」と、ずっとずっとミュージアムショップはないのかと言われ続け、遂に「YCAMショップ」もオープンした。「ワールドツアー」展示時に作った「wt」TシャツもYCAMショップでなら買えます!

オープン前夜のスタジオD&YCAMショップ。若人たちが深夜まで作業していた

これらはYCAM爆音映画祭2018の期間に来れば、体験できます。(ほぼ)フル・ラインナップを発表したYCAM爆音のプログラムのこと。作品紹介はこちらに↓

https://www.ycam.jp/cinema/2018/ycam-bakuon-film-festival/

『DEVILMAN crybaby』をメインに据えた「YCAM爆音映画祭2018」メインビジュアル。デザインは成瀬慧さん

これが、自分の制作する最後のYCAM爆音映画祭になると思う。それだけ、やりたいことは頭にいっぱいあったし、ここまで実現するまでにだいぶ手間がかかった。フライヤーの納品も開幕1ヶ月を切ってのギリギリで、広報には迷惑をかけている。結果実現できなかったことも含め、今発表できていること以外に、あれもこれもやろうとしていてもっと大きな枠組みを提示できるかなと期待していたが、それはまあ置いておいても、我ながら、YCAMに来て、自分のこれまでやれることの125%ぐらいの勢いで組めたとは思う。YCAMに来て初めて映画のプログラムで無理ができた気がする。

いつも難しいのは一本だけのために来てくれるお客さんのことを考えるべきか、爆音ファンに向けて複数プログラム見てもらうためのタイムテーブルにすべきか、そのバランスだが、今回はいい按配になったと思う。上映の順番も含めて、良きタマが揃った。ふらっと来てもらってもいいし、気が向いたらもう一本食指を伸ばしてみてほしい。三回券も今年復活したので、他での爆音映画祭よりも料金の面ではかなりお得になっています。

クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンド

全部は紹介しつくせないが、樋口プロデューサー悲願の企画について。

その1。これは『バンコクナイツ』公開前からだから約2年越し。初日8/15(水)は、8/12(日)WWWでのライブを終えたばかりの、クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドとSoi48による無料ライブ!からの、『バンコクナイツ(タイ公開バージョン)』+富田克也、相澤虎之助トーク。2016年ぶりにYCAMはタイになります。

『遊星からの物体X』

その2。2015年の時、2017年の時もトライしてそれぞれ結局タイムリミットで、やっと今年なので3年越しぐらい。カーペンター『遊星からの物体X』初爆音上映。カーペンターはやり尽くしていた気になっていたのだが、意外なことにまだ『遊星』はやれていなかったようで、この度国内配給権が復活し、特別先行上映となる。この直前の上映は『散歩する侵略者』で、黒沢清監督も来場してトークをしてもらう。黒沢さんには是非ともカーペンターの魅力について触れてもらいたい。

『ラストエンペラー』

その3。昨年トライしたが、権利元をたどるまでに時間がかかり断念していた。その後坂本龍一さん関係の上映で、午前10時の映画祭縛りが解けていることが判明し、YCAM爆音では初ベルトルッチ、初中国もの。とんでもなく壮大な映画が、爆音でさらに異次元にいたることを祈る。同じく『戦場のメリークリスマス』もYCAM爆音では初。

『ラスト・ワルツ』

その4。爆音映画祭では久々の登場、ラスト・バウス以来。自分はその時バウスには立ち会っていたが、超満席で入場は断念したので、自分にとっても悲願とも言える。今年はboid 20周年記念ということで、ミッドナイト上映を決行。ミッドナイト上映は、2015の時にやったオールナイトは辛かったという反省と、オールナイトの1本目だけ味わうのはやっぱり良いよねということで、その翌年からやっている。2016が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、2017が『デス・プルーフ』。今年はこの直前に『バーフバリ』二部作の相当盛り上がった後になるのだが、この時間でも来れる大人のための爆音になると良いと思う。

『DEVILMAN crybaby』

その5。Netflixで配信されてすぐぐらいから、爆音でやれると良いなあと相談していて、タイミングよく、劇場での上映も解禁になったようで、無事間に合った。YCAM爆音初Netflix配信作品。配信作品なので、音の仕上げはステレオ。他の上映作はほとんどが5.1chサラウンドで作られているので、このDEVILMANの音をどうYCAM爆音にフィットさせることができるのかその点も楽しみである。

『犬ヶ島』も、YCAM爆音でプログラムできるギリギリのタイミングだった

8/26(日)お昼からの3枠はまだ発表できてません。これができれば思い残すことはもうない!という3枠。でも急遽差し替えるかもしれない3枠。まだYCAMお越しでない方で、YCAM爆音気になっている方は、ぜひこの機会にお越しください。

杉原永純

山口情報芸術センター[YCAM]シネマ担当。2014年3月までオーディトリウム渋谷番組編成。YCAMでは「YCAMシネマ」や「YCAM爆音映画祭」など映画上映プログラムを担当する他、映画製作プロジェクト「YCAM Film Factory」を手掛け、『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』(柴田剛監督)、『映画 潜行一千里』(向山正洋監督)、『ブランク』(染谷将太監督)、『ワイルドツアー』(三宅唱監督)をプロデュース。空族の「潜行一千里」、三宅監督の「ワールドツアー」といったインスタレーション展も企画・制作。また、「あいちトリエンナーレ2019」の映像プログラム・キュレーターを務める。
試写で『きみの鳥はうたえる』を見て、その翌日に『寝ても覚めても』を見る。ともに掛け替えのない映画だった。比較でなく、是非この二作とも劇場に足を運んで見てもらいたい。