妄想映画日記 その103

約4か月ぶりの更新となる樋口泰人の「妄想映画日記」。1月末から持病のメニエル悪化による体調不良が続き、この連載もしばらくお休みしていましたが、リハビリも兼ねての再開となります。とはいえまだ回復の途中、且つ、新型コロナウイルス感染拡大の影響でboidもほぼ休業状態。家にひきこもる日々が続く中で誕生日を迎えた5月上旬の日記です。
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文・写真=樋口泰人


2月半ばからのひきこもりと体操&散歩の甲斐あってようやく少し体調も良くなりパソコンに向かえる時間も長くなってきたので日記を再開。妄想日記というよりリハビリ日記でまだ妄想できるほど頭は動いておらず日々の出来事をすこしずつ。それでも夜になるとその日何が起こったか何を考えたかを忘れている。忘却日記ということにもなる。細かいことは考えられない。
 
 
5月1日(金)
10時過ぎに起床。各所に連絡を取っていると昼過ぎになり、昼食を済ませ物販送付のために事務所へ。普通に歩くだけで汗ばむ。郵便物いくつか届いている。さすがにこのところの外出自粛要請で試写状やお知らせなどはほとんど届かなくなり、たまにしか事務所に行かなくても郵送物の整理が楽だ。これくらいがちょうどいい。高田馬場の街もほとんど人がいないともいえるが、銀座や渋谷などのがらんとした風景をテレビで見ている人が見たら、案外人は出ているじゃないか、と思うくらいには人は出ている。帰り道、夕方の高円寺駅南口駅前の焼き鳥屋はいつものように歩道に椅子とテーブル。まだ18時前というのにすでに席は埋まって皆さんご機嫌である。そばの駐車場の奥では若者たちが座り込んで酒宴。初夏の陽気がこうさせるのか。気持ちはわからぬではない。夜は久々に『クリーン』を観た。近々発売されるオリヴィエ・アサイヤスのボックスセット用の原稿を引き受けていたのだが、目と耳がまだまだダメでなかなか映画を観られず、締切りを過ぎて(確か4月末と言われていたような気がする)ようやく身体が反応し始めた。『クリーン』はこのボックスセットには入っていないが、気になっていたあるシーンの確認のため。あらためてエリック・ゴーティエのカメラワークに心奪われる。それやこれやで気が付くと朝の4時。そろそろ空が明るくなる。


5月2日(土)
9時に目覚めたはずが、気が付くと11時。起きてもまったく調子上がらず、体操をして朝食を終えると12時は過ぎていて、それでもまだダメで寝込みそうになっていたが、このままではあんまりだということで散歩。むやみやたらに気が向く方向に歩く。歩いて数分もしないところに西方寺というでかい寺があってびっくり。この辺りは寺だらけなのだが、もう20年以上もここに住んでいるのにこれまでまったく気付かなかった。さらに南に下り堀之内小学校、立正短期大学、廃墟の家、昭和の風情の団地、郊外の新興住宅地のような一画、信じられないくらいでかい庭の家。帰宅後、ようやく原稿。夕食後、30分ほど寝てしまい、その後再び原稿ほか。寝たのは朝5時。完全に夜が明けている。

 
5月3日(日)
9時過ぎに目覚める。ようやくサンプルを観たり長時間原稿を書いたりとかできるようになってきたのだがその分眠りが浅くなる。よって結局具合が悪い。朝食後、結局また寝る。そして昼食後はまたもや眠くなるが散歩、阿佐ヶ谷方面へ。駅の北口にある河北病院には救急車が何台も停まっている。裏口には発熱外来なのか、白いテントの仮設診療所もできている。少しドキドキする。地回り猫様に挨拶をした。
帰宅後原稿のためにオリヴィエ・アサイヤス『8月の終わり、9月の初め』。ジャンヌ・バリバールの引き攣った悪戯っぽい笑いが最高である。あれをやられたら何でも許してしまう。夕食後、2時間ほど寝てしまった。とぎれとぎれに生きている感じだ。そして深夜に友人から連絡が来て「RADIO SAKAMOTO」というJ-WAVEの番組で第1回大島渚賞の授賞式の際の小田香監督と坂本龍一さんと黒沢清さんのトークの模様が流れているというのでradikoを使って聞いてみる。「ドキュメンタリーの撮影というのはいったいいつ終わるのか?」という黒沢さんのシンプルな質問にハッとする。就寝午前5時。

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5月4日(月)
9時30分に目覚める。睡眠が短くすっきりしない。仕方ないので掃除→昼食→昼寝→散歩で夕方。1日が短いのか長いのか。緊急事態宣言月末まで延長。相変わらずのツイッター1回分に納まるくらいの中身のない演説が、「報道の中立」を装うメディアによって垂れ流される。これからは「敬意と感謝と絆」を胸に生きていくということらしい。やれやれ。就寝午前3時。


5月5日(火)
10時すぎに目覚め。少しは良く寝たが別に具合が良くなったわけではない。DVDや配信で何本か映画を観たのが原因だろう、メニエルの具合が結局1か月前に逆戻りした感じ。またしばらく映画が観られない。散歩ついでに散髪。美容室も当たり前だがめちゃくちゃ大変とのことで、4月からの見習いの研修生たちにもう1か月以上自宅待機してもらっているうえに、美容師たちにも交代で来てもらっているとのこと。その後パンとドーナッツを買って帰宅途中、高円寺のJRガード下の飲み屋街は16時にもかかわらずご機嫌な酔っ払いたちでいっぱいだった。夜の営業を短縮しているからみんな昼から飲むのか。帰宅するとテレビでは「大阪モデル」とか言っている。どこまで行っても広告代理店の世界だ。夜は軽いめまい。ゆっくりいくしかない。深夜に地震。先日もそうだったがスマホが地震警報で鳴り響く。そっちの音のほうが怖い。
 
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5月6日(水)
10時30分起床。雨。家の階段部分の壁塗り。その後高円寺駅方面へ散歩と買い物。今日は買わなかったが臨時屋台みたいな感じで商店街に出店しているガーナ焼きがおいしいのだ。途中で雨。冷える。就寝4時。

 
5月7日(木)
8時過ぎに目覚めてしまう。調子がくるっている。久々に事務所。各所に連絡、それから中小企業への給付金の手続きの書類確認など。こういう作業は自宅でもできるはずなのだが自宅では作業が遅れるばかり。いずれにしても時には事務所に行かないとね。ベランダの植物が弱っていて心配。こういう時は普段から弱いほうが弱る。残酷である。今の事務所は居心地は悪くないし気持ちよくもあるのだが、どうやっても収まらない底冷えのせいで生き物が弱る。生きる力が削られる感じ。夕方、寒くなってきたので早々に退散。寝不足のため夜はぼんやりして終了。就寝3時。

 
5月8日(金)
8時過ぎに目覚めてぐずぐず。気が付くと10時近くになっていて慌てて起き上がる。と言っても何かすることがあるわけではない。朝食後ついに受け取り始めることになる年金の申請のための書類を取りに近所の区民センターまで。63歳から支給され、月々1万円弱で1か月のコーヒー代くらいな感じではあるがとにかく毎月ちゃんと支払ってきたのだからもらえるものはもらう。散歩は方南町方面。天ぷら屋でかき揚げを買い、帰宅して天ぷらそばを。そしてあまりに眠くなり昼寝。15時過ぎに目覚めて、後は各所連絡して夜になる。就寝3時。

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5月9日(土)
9時30分起床。空模様同様当然のように具合悪い。朝から今日1日をあきらめる。昼食後は2時間近く寝る。河村くんからboidの新レーベルのロゴデザインが届きさすがに気分が高揚するが、体調の悪さが結局のところ勝る。その後高円寺駅前に向けて散歩。相変わらずの人込みだがいつもに比べて若干少なく活気もないように見えるのは空模様のせいか。帰宅しても気分すぐれず。コロナ感染者が減りさまざまな規制を緩めた韓国ではソウルのクラブで再びクラスターが発生、急遽遊興施設の閉鎖が決まったというニュース。それを日本の今後に当てはめるともう爆音はできないか、少なくともシネコンの爆音はほぼ無理だろうという想定で来年以降のboidの運営を考える。しかし体調は悪い。寒い。夕食後もうたた寝し、深夜には暖房もつけてしまう。そして気が付くと5時、空がすっかり明るい。

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5月10日(日)
何度も目が覚める。その何回目かで時間を確認すると10時30分。あきらめて起きる。食後、東高円寺方面に散歩。蚕糸の森公園は適度な人出でそれぞれがそれぞれの時間を楽しんでいる。テントまで出している人がいるのは謎なのだが、昨夜はここに泊まったのだろうか。東高円寺駅のそばグラスルーツの裏手にbiabiaというイラン・ラーメンの店があってラタトゥイユを乗せたみたいなラーメンやら、イラン風の焼きトマトがのっているラーメンやらがあってどれもおいしく食していたのだが、今年に入ってすぐ、閉店してしまった。もう何度もその前を通ってはいるのだが、やはり通るたびに「ああここにbiabiaがあったら」と思って、恨めしく眺めてしまう。これから1年くらいの間にいったいどれだけの店が町から消えていくことになるのか。夕食後、2時間ほどうたた寝。日々の気温差や気圧差が激しく耳の調子が悪い。そろそろ普通に映画が観られるのではとか思っていたのだが、そう簡単ではない。3時30分就寝。

 
5月11日(月)
8時過ぎに目覚めるがもちろん途中何度も目が覚めていつもにもまして具合が悪い。しかし寝ていても具合が悪いので起きる。しかし朝食後また寝てしまい気が付くと正午近くでこのままでは今日も1日台無しになるのでとりあえず事務所に向かうがもちろん緊急の用事があるわけではない。さすがに本日の陽気だと事務所も心地よい空気が流れるが夕方近くになってくるとやはり冷える。手足が冷たくなってきたので帰宅。本日は2日早い私の誕生祝いで、姫が久々に家にやってきていた。就職してもう2年以上経つのだが将来のために地道に給料を株に投資していてそれなりに儲かっているという話。この時期にも儲かるものなのかと素人丸出しの質問をすると、下がった時に買ってしばらくすると上がるので上がったら売ればいい、という単純明快な答え。今後のboidは姫の株の売り上げを活動資金にして親父とその友人たちがそれを食いつぶすというやり方にすることにした。しかし、本日話題の黒川検事長が同い年だということを知りぐったりする。

 
5月12日(火)
目覚めは10時30分だったがどうにも起きられず、結局起き上がったのは1時間後。それなりに寝たものの具合は悪い。両耳が詰まってゆらゆら。電話には出られず。14時からの『VIDEOPHOBIA』のためのテレビ会議には何とか出席。2時間30分ほどかけてようやく今後の予定が固まってくる。しかしコロナの第2波、第3波がいつ頃どれくらいの規模でやってくるのか次第で今日の会議は台無しになる可能性もある。それを思うと何ともぼんやりしてくるのだが、だからこそ今やることを、今面白がれるやり方でやっておく必要がある。たぶん、それが未来である。夜はとあるツイートで近藤等則さんがプライヴェートCD-Rを出すことを知る。毎月100枚限定、盤面に手書きタイトル。即行で申し込む。就寝3時30分。

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5月13日(水)
途中何度か目覚めたが気が付くと9時30分。もうどうでもいいのだが本日が誕生日で何とか1年生き延びた。昨年の誕生日は何をしていたのか。具合が悪かったのは確かだ。4月の自殺数が1年前の4月に比べて約20パーセント減ったというニュース。それでも1か月に1455人もいる。自分の事情に引き付けて考えると、この現象はすごく納得がいく。いくつかの発送物があったので事務所に。いよいよ暑くなってきて高円寺駅までの15分ほどでだいぶ汗をかく。本格的な夏になったらどうするか。悩ましい。元通り近場の新高円寺からということにするほかないのだが。事務所では発送作業後、各所に連絡。いよいよ自粛以降が見えてきて、いろんなことが動き始めると連絡事項も増える。しかしこちらはもう元のようには動けない。連絡も途切れ途切れ。夕食後は友人たちからのZOOMお祝い。そして連絡が来て橋本愛のインスタライヴ。『PARKS』の曲を歌う。画質の問題なのか、もう本当にすぐそばにいるような距離感のなさ。ZOOMの距離感とはまったく違う。これならファンはたまらないだろう。就寝5時。

 
5月14日(木)
ようやく少しちゃんと眠れた。11時30分起床。各所連絡。昼食後散歩。と言ってもすでに16時を過ぎて日差しも少し落ち着き始めたころだとは思うのだがそれでも十分に暑い。夏は夜か早朝でないと散歩は無理かもしれないと本気で思う。本日から再オープンだというので阿佐ヶ谷駅のガード下にできたばかりの洋菓子&サンドウィッチ店にいってタルトを買ってこようと思っていたのだが、16時閉店だった。この状況なので、再オープン(4月初めにオープンしたのにすぐ非常事態宣言で休店を余儀なくされていたのである)といっても本格再オープンまでは程遠い。何年かかかって準備してようやくオープンしたと思ったらこの騒ぎで、店のスタッフたちの気持ちを思うと泣けてくる。阿佐ヶ谷ガード下は昨年からリニューアル工事をやっていて、似たような店が何軒かある。その前を通るたびに胸が痛む。帰宅後は再び各所連絡。夜は試しに1時間ほどの映画を観た。まだ途中休憩が必要なのだが、休みながらならなんとか映画を観ることができそうだ。就寝5時30分。

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5月15日(金)
目覚めると9時30分。さすがにもうちょっと寝たかったのだが2度寝は無理そうでそれでもぐずぐずしてようやく起き上がったのが11時30分。2時間寝たわけでもないので起きた時からぐらぐらで台無しである。事務所に行こうかと思ったのだが自宅作業。夕方散歩に出ると新高円寺駅前はコロナ以前の夕方とあまり変わらないのではないかという人出でみなさんいよいよその後に向けて始動しつつある。仕事の連絡もあれこれ来ていて、いや私はまだ病気なのだがということが言えない状況にもなってしまった。メニエルの面倒くささを分かってもらえるとは思わないが、少し体調が戻ったからといって仕事ができるわけではない。すぐにまためまいが始まるわけだから、申し訳ないがマイペースで行かせてもらう。夕食後はしばし倒れる。その後、本当にようやく『ジオラマボーイ・パノラマガール』の完成版を観た。メニエルで音がまだちゃんとついていない未完成版を観たまままったく観られずにいたのだ。実際に音がついてみると思っていたような映画になってはいなかったがそうでないことに感動した。夜の散歩がしたくなった。就寝4時。もう空が少し明るくなっている。

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樋口泰人

映画批評家、boid主宰、爆音映画祭プロデューサー。98年に「boid」設立。04年から吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。08年より始まった「爆音映画祭」は全国的に展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)、『恐怖の映画史』(黒沢清、篠崎誠著/青土社)など。