妄想映画日記 その102

boid社長・樋口泰人による「妄想映画日記」の更新です。新年から3年連続風邪をひいて体調絶不調、今年は「自爆の年」ということでスタートした1月上旬の日記です。あつぎのえいがかんkikiでの宮崎大祐監督作品の音響調整やMOVIX八尾での爆音映画祭、そしてHair Stylisticsの無声映画ライヴ、湯浅湾ライヴでの充実した時間も。
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文・写真=樋口泰人


今年は気を付けていたつもりだったのだが、まさかの3年連続正月風邪。予定がすべて狂うことになるのだが、まあこんなもんだとも思う。土居くんの占いでは昨年から今年にかけては自爆の年、2月3日の節分以降は八方ふさがりの年ということで、別に占いを信じているわけではないのだが、そういわれると思い当たること多数ありすぎていったいどうしたものかと思う。どうせ八方ふさがりになるのなら好き勝手やるしかないのだが、たぶん苦しいんだろうなあ。ぼんやりとそんなことを思うばかりで身体が動かない。とにかくすべての重荷を投げ出したい、爆音もboidも今年で終了という宣言をしたくてたまらないのだが、「自爆の年」という重荷がこういう時は役に立っているのかもしれない。ただ、いよいよその日は来るわけだから、準備は始めている。というわけで2020年はいろんなことの終了の年という思いで臨み始めたわけである。つまり始まりの年、ということでもあるのだが。
 


1月1日(水)
山梨の実家から東京へ。いつもは元旦の東京へ向かう列車はガラガラなのだが、今年はなぜか席が埋まっている。正月に帰省とかうんざり、というわたしのような人間が増えてきたのだろうかとも思うが事情はわたしのあずかり知らぬところにあるのだろう。帰宅するころには風邪がひどくなりぐったり。
 


1月2日(木)
ほぼ寝ていた。
 


1月3日(金)
無理やり起きて初詣に行った。いつも高円寺の氷川神社に行くのだが、そのわきに気象神社というのがあっていったいこれは何ものなのかと毎年眺めるだけでそれ以上特に気にも留めていなかったところ、昨年末にわたしの雨男ぶりを話した際にそれは気象神社にお参りしたほうがいいと言われそういえば高円寺に気象神社というのがあるはずだということになりああ確かにそうだ毎年初詣の時に眺めていると話したら次は必ず行くべしというお告げ。今年は夏に野外でのイヴェントも企画に上がっていることだしとにかく一度行っておくことにしたのだった。
その後普通なら映画でもと思うところ咳鼻水悪寒もあり帰宅。
 


1月4日(土)
気分転換に吉祥寺に出た。レコードを何枚か。疲れた。映画は観られなかった。
 


1月5日(日)
風邪治らず。夜はあつぎのえいがかんkikiへ。次の週末から上映になる『大和(カリフォルニア)』と『TOURISM』の上映のための音響の確認と調整。鼻水こぼしながらの調整だったのだが、もともとの機材のポテンシャルがあるとちょっとバランスを変えただけで一気に空気が変わる。映画館の機材とシステムだけでこれだけやれたらもう十分だと思える。こういった調整を全国の映画館でやっていけたら面白いのだが、映画館の環境に関してはよほどはっきり違わないと、いやはっきり違っていてもなかなか動員にはつながらない。だから逆にIMAXやドルビーアトモスみたいに料金を上げる方がその違いにみんなが気付くわけだが、通常の上映のレベルアップに関してはそれもできないし考えどころである。ただとにかくこの環境での『大和(カリフォルニア)』と『TOURISM』は多くの人に観てほしいと思った。
 
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1月6日(月)
家でぐずぐずしていたと思うが記憶があいまい。友人たちとの夜の新年会もキャンセルでぐったりしていた。そしてこの数日のぐったりの間に、アダム・ドライバー祭を個人的に開催していた。ネットフリックスとアマゾンプライムを駆使すれば大抵のものは観ることができる。わが家のアイマックはなぜかアイチューンズの映画を再生できずパソコン自体を初期化してもダメだったのでどこか根本的なトラブルが起こっているはずなのだが、もはや不便を感じない。したがってアダム・ドライバー好きたちから推薦された作品はほぼすべて観た。観ていた作品も観直した。どうしてこの人に引っかかってこなかったのだろうと今更ながら自分の鈍感さに驚くがまあ、今更気が付いたのも何かの縁ということにした。気が付いたきっかけというのが『スターウォーズ』の新作の予告編にちらっと映った姿があまりに見事でいやこの人すごいと思ったわけだったのだが、肝心のSW新作をまだ見ることができないでいるのがもどかしい。7話目と8話目も観直したので予習はばっちりなのだがとにかく今の体調では映画館に行けない。
 


1月7日(火)
今年の初出勤。かろうじてではあるが仕事をした後、ヘアスタの無声映画ライヴ。京都でやった時には機材もかつてなく少なくてリハもちゃんとできたので甘く見ていた。中原を迎えに行ったらものすごい機材量で車で迎えに行くと伝えたためにこうなったのかそうでなくてもこうなったのかわからないのだが迎えに行ったときはまだちゃんと準備ができていなくてこのままではどうやっても間に合いそうにないのでできた順に3階から下へと運んだ。バイトの若者は車で待機していなければならないから結局全部わたしが運んだわけだ。風邪とか体調が悪いとかもういい歳だとか言っている余裕もなくやったのだがもちろんそういった無理は後から体に響くわけでその後の風邪再悪化とメニエル再発までやってくるとは知る由もないとはいえライヴは最高だった映画がまったく違うものに見えた最初の『アッシャー家の末裔』では手違いで日本語字幕が出なかったのだが後から考えると出なかったからこそ面白かったしその不意の事故をそのままライヴの力に変えてしまう演奏だった。世界中の人に見せたいライヴだったどうしてもっとみんな来てくれないのかと怒りも最高潮だったのだがとにかく今後はシリーズ化していこうという話になった。鼻水が止まらなくなった。

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1月8日(水)
湯浅湾は松本へ、わたしは大阪の八尾へ。今年初めての爆音はアニメ特集なのだがスピーカーをお試しで昨年12月に発売されたばかりのものに替えてやってみたらこれが映像で言うと2Kが4Kになったような解像度になっていてあきれた。すべての作品から新しい音が聞こえてきた。もうこれだと爆音調整の必要はないのではないかとさえ思えたがやってみるとやはり調整前後でははっきりと違った。特に『パプリカ』はかつてない音になった。

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1月9日(木)
夕方までの調整を終え名古屋へ。湯浅湾の名古屋ライヴ。前売りがまったく売れておらず悲しかったがライヴはやはり最高だった。改めて湯浅湾の特別さを思い知った。なんだろうか、パンク・ニューウェイヴ、そしてレジデンツを全身全力で通過したものでなければできないアメリカ音楽をさらに幾重にもたどり積み重ねながら出来上がってきたものと言えばいいのか歌詞の力も大きいのだろう。これからみんな仲間たちはどんどん死んでいくだろうけど死んでも生きていけるそんな気がした。青山や仙頭さん、それから磐田から清水君もやってきてくれてうれしかった。打ち上げも楽しかった。中原といい湯浅湾といい今年わたしがやるべきことを年初の数日ですべてやってしまったのではないかと思えるような充実した時間を過ごせたのであとのことは知らない。

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1月10日(金)
湯浅さんと別れわたしは大阪に向かうのだがそうなるとまたしてもうなぎを食わざるを得ないということで岐阜経由。4回目にしてさらなるうまさを実感して感激うなぎの後は金ぴかの信長を見せられた。しかし岐阜駅前の古い商店街はなかなかいい感じであった。次は80年代高円寺レコード屋時代の岐阜の友人を呼び出してみよう。

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1月11日(土)
爆音開催中の八尾のMOVIXにて『プロメア』の製作会社トリガーの社長の大塚さんと対談。面白い話をいろいろうかがえたのだが、大塚さんがバウスの爆音時代に『アンストッパブル』を見に来てくれていたことを聞き、個人的にはこれが一番心に刺さった。あの時はとにかくどうして『アンストッパブル』がこんなに話題にならないのかと義憤に駆られ、何度か爆音映画祭で上映した後で権利切れが近いという情報を得て権利切れ直前に「アンストッパブル・ツアー」というのを企画、福岡、神戸、そして大みそかにバウスで爆音上映をやったのだった。今はあの頃よりもっと激しく世界がシステマティックになっているのでそんなでたらめな企画は2度とできないだろうがその代わりそのころを知る人たちがこうやって新たなでたらめをやってくれていると思うとああ今自分がやる必要はないのだという思いとだからこそこちらはさらなるでたらめを楽しめるかもという思いとが沸き上がってきた。夜は牡蠣チゲを食った。
 
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1月12日(日)
午前中から鶴橋に行った。以前行ったときにあまりにすごかったので友人たちとツアーを組んだのだった。やはりとんでもなくてぐるぐると回っているうちに前夜紹介されたマグロ食堂というのにぶち当たったのでせっかくなのでそこでマグロ丼を食ったのだがこれがまたものすごくてびっくりした。どこまで行ってもご飯にぶち当たらないマグロの壁。ウォール・オブ・ツナであった。絶対食べきれないと思ったが気が付いたら完食そして食後感はごくあっさりとしていて胃もたれはないマグロの力なのだろうか。そのまま新幹線に乗り厚木に。あつぎのえいがかんkikiにて上映中の宮崎作品の上映後に宮崎くんとトーク。この日は宮崎作品の「家」について。家から派生する場所についても。ヴェンダースの話なども含めあれこれとあっという間の40分であった。その後焼き肉が用意されていた。こちらもおいしくいただく。風邪はひどく鼻水とのどの痛みがひどいのだがなぜか食欲はあるという状態で我ながら大丈夫かと心配になるがとりあえず欲望の赴くままもう今年は終わりなのでどうでもいい。

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1月13日(月)
目覚めたら猫様が日向ぼっこ中だった。

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1月14日(火)
久々に出勤したら変な看板に出合った。洗脳されたいような気もする。

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1月15日(水)
打ち合わせに行った某社の会議室からはこんな風景が見えた。

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猫様がコンパクトにまとまっていた。

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樋口泰人

映画批評家、boid主宰、爆音映画祭プロデューサー。98年に「boid」設立。04年から吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。08年より始まった「爆音映画祭」は全国的に展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)、『恐怖の映画史』(黒沢清、篠崎誠著/青土社)など。