Television Freak 第34回

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから『今日から俺は!!』(日本テレビ系・日曜ドラマ)、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系・金曜ドラマ)、『昭和元禄落語心中』(NHK・ドラマ10)の3作品を取り上げます。

(撮影:風元正)

ツッパリと記憶喪失と昭和落語と

文=風元正

神奈川近代文学館の寺山修司展を見てきた。少年の頃、『書を捨てよ町へ出よう』や『われに五月を』を何度読み返したことか。しかし、天井桟敷の芝居には間に合わなかった。映画はけっこう観たけれど、これはどうにも「前衛」で……。受けとり方にさまざまな遍歴があったが、今は最高の扇動者という評価に落ちついている。

マッチ擦るつかの間海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

すばらしい。俳句、短歌という定型から演劇、映画、そして競馬まで、領域を侵犯してゆく行為そのものが作品になってゆく。展示では投稿少年だった頃の貴重なノートが公開されていたが、几帳面な書き文字に美意識を感じた。寺山には「作品」という概念は似合わない。かといって「編集」とも違う。定型の富を盗みつつ世界の余白を遁走してゆく寺山は、のぞきの罪を犯してから、あの世へ旅をした。あんな風に、ユーモアと悪意と病が同居した奇妙な凄味を備えた人は、もういない。偏愛していた騎手・吉永正人が勝ったミスターシービーのダービーを見れなかったのも寺山らしい。人生、おおむね、後方一気は間に合わない。

(撮影:風元正)

『今日から俺は‼』は抱腹絶倒。福田雄一の「ツッパリ」という定型に対する深い愛情が爆発している。オープニングの「今日俺バンド」が演奏する「男の勲章」を見ているだけで愉しい。個人的には、赤坂理子役の清野菜名の、ただ登場するだけでキラキラの青春ドラマというセーラー服姿が圧巻である。道場主の父親役が佐藤二朗、清野が体術で示すバリバリの運動神経も痛快だ。登場人物がみなガッコの秩序を超越しているのが素晴らしい。転校をきっかけに、同じ日にツッパリになること思い立った超卑怯者で逃げ足だけは早いけれど滅法強い金髪の三橋貴志(賀来賢人)とツンツンのリーゼント頭で真っ直ぐな伊藤真司(伊藤健太郎)の軟高コンビは愉快すぎるが、椋木先生(ムロツヨシ)がずっと金八先生をやっているのも堪らない。三橋の父親役の吉田鋼太郎も、豊富なキャリアを自分でパロディ化するような芸を自然に出して、もう、みんな余裕で楽しんでいる。

紅羽高校の番長で、強さは中途半端でどバカだけれど、愛すべき熱い心を持っている今井勝俊を太賀が好演している。常に三橋を陥れようと試みても倍の反撃を喰って貧乏クジを引く情けない役柄だが、強い者にも屈しない正義感あるいい奴というキャラクターは本人と重なる。ドラムを叩く姿もサマになっている。開久高校の頭の片桐智司(鈴木伸之)の圧倒的なガタイと強さも圧巻で、三橋と伊藤コンビとの立ち回りはカブキのように洗練されている。喧嘩は映像の華。目覚ましい身体能力も役者さんの大きな才能である。走って、飛んで、殴って、若さの眩しさが前面に押し出されているのが喜ばしい。

マンガ原作のストーリーは、ヤクザやら極悪の不良高校やらが登場しても、基本、人の道を踏み外さずハッピーである。社会が閉塞に向かう中、これだけ人間の本性にある向日性を信頼しているドラマも珍しい。ニヒルで現代的な悪党を演じている開久高校のナンバー2相良猛役の磯村勇斗や東京のワル役の中村倫也など、生徒役にも好素材が揃っており、このドラマは後にブレイクする人が多出する伝説のドラマになるだろう。冒頭、元はかなりのツッパリだったと思しい床屋に小栗旬を起用して、三橋を金髪に染めるだけで物語を走らせた福田雄一の手腕はいくら称賛しても足らない。鞄や靴やベルトなど細部への徹底的なこだわりがツッパリたちのユートピアを支えている。

『今日から俺は!!』  日本テレビ系  日曜よる10時30分放送

『大恋愛~僕を忘れる君と』もムロツヨシ・ワールド。21歳の時に書いた小説『砂にまみれたアンジェリカ』が玲瓏文藝賞を最年少受賞したが第2作目で失敗し、アート引越センターで働く売れない40歳前の元作家・間宮真司を演じている。「空に向かって突っ立っている煙突みたいに、図太く、真っ直ぐに、この男が好きだとアンジェリカは思った」という、自分の書いた小説の一行を暗記する女医・北澤尚(戸田恵梨香)の引っ越しを担当して知り合う。尚は同業者の精神科医・井原侑市(松岡昌宏)と結婚直前。しかし、尚の若年性アルツハイマーを侑一が発見し、エリート医師の輝かしい未来が一変する。

脚本は練達の大石静。不幸の連鎖を健気に生きる戸田恵梨香が絶品だ。病状が少しずつ進み、記憶を保持できなくなる日々の中、ジェットコースターのように揺れ動いてゆく感情を体当たりで表現している。テレビというメディアは生半可な「演技」は通じない。貧乏アパートでの「神田川」のような同棲生活の美しさといったら。結婚をビジネスと考える冷静な侑市が生きるリッチな空間の対比が効いている。

もちろん、事が終わった時点から俯瞰する視点でナレーションも担当する作家=記録係のムロツヨシも流石と讃嘆するほかない。いったん身を退き、尚との出会いと別れを『脳みそとアップルパイ』という新作に書き、ベストセラー作家として復活して再び結ばれる。ムロはシリアスな演技の方が本領だったのかもしれない。捨て子が少しずつ自らの居場所を獲得しながら結局は確実に失われる、という難しい時の流れをしっかり形にしている。

引っ越し屋の先輩の富澤たけしが懐の深いいい人だったり、木南晴夏演じる真司の担当のはじめてベストセラーを出した編集者がいかにもだったり、2人の仲を育んだ居酒屋の女店員の背中にいつの間にか赤ん坊がいたり、結婚式の集合写真がびしっと決まっていたり、脚本と細部の演出が行き届いている。ただの恋愛ドラマでなく、尚と同じ病のせいで妻に去られた松尾公平(小池徹平)のストーカー行為のような狂気にも晒され、作中で示唆されるごとく「韓流ドラマ」的な展開で引っ張って行く。生活水準が向上すれば別種の悩みが発生する。「月光荘」のあの懐かしい日々は再び帰ってこない。大ベテランの大石の時代の読みには学ぶところが多い。私たちは、「記憶喪失」という荒唐無稽になりがちな物語装置を通俗的で古臭いと捉えがちだが、まだまだ可能性は汲み尽くされていないのかもしれない。

『大恋愛~僕を忘れる君と』  TBS系  金曜よる10時放送

『昭和元禄落語心中』は近来稀に見る格調の高いドラマである。一にも二にも、主演の大名跡・八代目有楽亭八雲を演じる岡田将生の力による。押しも押されぬ主役の演技、ほんとうに成長した。最初、老けメイクで登場した時はちょっとびっくりしたけれど、子供の頃や修行時代に入ってほっとした。八代目は小さい頃足を怪我して踊りを諦めて落語に転じる。杖をついて歩く足元の覚束なさが、端正な岡田の凄味ある色気を引き出している。

ほぼ同じ日に入門した二代目有楽亭助六(山崎育三郎)も負けず劣らずいい。明るく天才肌の前座名・初太郎(山崎)と地味な菊比古(岡田)。お互いを知り尽くし、心底仲がいいからこそ嫉妬も深い。初太郎は八雲の名を継ぎたいからこそ弟子入りしたわけだが、師匠の七代目(平田満)は死んだ後も名を譲らないくらいの執着心の持ち主。大器量人ではないから、簡単には運ばない。

業の深い物語は、あえて細かく紹介しない。ともかく、劇中の落語が泣ける。戦時中の不如意を耐えて、テレビ、ラジオ時代の売れっ子になり、せっかく真打ちになったのに、助六は大きな揉め事を起こして四国に流れる。そして、温泉場の大広間で演じるのが「芝浜」。もちろん、全編ではないが、これが真に迫っており、「よそう、また夢になるといけねえ」というオチをついこちらも唱和し、眼が潤む。伸び伸びして、茶目っ気たっぷりだが、蕩児の屈託もあり、山崎の劇中落語は才気走っている。

菊比古/八雲の演じる劇中落語も味わい深い。内気で、間違えずに演じるのが精一杯、師匠の奥さんも「向かない」と見る少年が、一心に落語に打ち込んでじわじわ成長してゆく。真打になるには廓噺だけでは足りないと悩む菊比古の前に現れたのが、酒で落語協会をしくじり、あばら屋に住んで酒場で落語を演じ投げ銭をもらう暮らしの木村家彦兵衛。演じるは落語監修も担当した柳家喬太郎で、伝授する「死神」は当然ながら本物。稽古の厳しさに背筋が伸び、菊比古の芸の方も鬼気迫って、ぱたっと倒れるオチにぞっとする。考えてみると、岡田のような二枚目の落語家はいない。

2人の運命を狂わしてこの世を去る芸妓・みよ吉役の大政絢の昏く大きな目が艶っぽい。一緒に地獄まで行きたくなる女優さんである。菊比古に「やっと来てくれた」という瞬間、全身が女だった。その娘である小夏(成海璃子)が、親の仇と八雲を恨む強い眼もまたいい。八雲の唯一の弟子となる元ヤクザの与太郎(竜星涼)の底抜けの明るさが絡み合う因縁の束をほどいてゆく。「与太郎!」とさんざん呼ばれるマヌケさが愉快だが、実は「助六」そっくりで、やがてその名を継いで三代目となる。守り神の背中のもんもんが、八代目八雲の孤独を救うのか。しっとりとした昭和の街並みが全篇を彩っている。いいものを見せてもらった。

ドラマ10『昭和元禄落語心中』  NHK総合  金曜よる10時放送

前回取り上げた3作も含めて、今クールのドラマは極めて良質だった。『獣なれ』の、女たちが自由を求めて立ち上がる物語と龍平くんの孤独には何度も涙してしまったし、純文学作家と金八先生という対照的な2つの顔を見せるムロツヨシ・ワールドには嫉妬すら覚える。ドラマの王道を歩みつつ、新たな領域を垣間見せたいという制作者たちの努力には、どこか定型から逸脱してゆくいかがわしさを持ち味にしたテラヤマの軌跡も重なってゆく。ここでもう一度、「書を捨てよ町へ出よう」と嘯いてみますか。

とびやすき葡萄の汁で汚すなかれ虐げられし少年の詩を

(撮影:風元正)

風元正

1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。